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第5章 バロー公国編

第96話 爵位

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ーーー  爵位授与式  王城玉座の間  ーーー

 今日は、王城にて爵位を賜ることになっている。

 こんなことになろうとは夢にも思っておらず、実感がいまいち湧き上がらない。

 ましてや、王族や貴族が注目している中での授与となる。

 粗相なくできるのか、失敗しないだろうか?というネガティブな感情が、心の中を占領している。

 私と魔人アモアの討伐メンバーは、玉座の間の手間で待機している。

 エチゴヤからは、ミリモルさん、リヨンさん、ミミ、ミザーリアさん、アッシュさんと私の六名。

 王国騎士団は、ギルバートさん、オーエンさん、イースさんの三名だ。

 キャシーさんと、ココアは、新規加入の為、ミリモル邸でお留守番をしている。

 ミリモルさんは、以前使ったことのある若返りの魔法を使用しており、美しい女性の姿になっていた。

 おまけに、ホワイトを基調にした華やかなドレスを着こなしており、150歳を超える方には到底思えない。

 エチゴヤメンバーも、宮廷から下賜された正装を身につけている。

 私とミリモルさん以外のメンバーは、ネイビーを基調とした、軍服の様な凛々しい出で立ちであった。

 まるで、高名な騎士かと見間違える程の装いで、思わず見入ってしまう。

「皆さん、とても素敵ですよ。」
 
 私は、皆の立派な装いに、素直に褒め称える。

 私は、国王陛下より賜ったタキシードを着ている。

 王国貴族の間では、一般的な装いなのだそうだ。

 高級感のある服なので、少々違和感があり、少し気恥しく思ってしまう。

 それでもほんのり光沢を感じさせるダークグレーのタキシードは、着こなせれば違和感も無くなるのかも知れない。

「レイ様、素敵ですよ。良くお似合いです。」
「あらあら、レイ君。とても格好良いわよ。」
「ご主人様、似合っているにゃん!」
「フフッ。こりゃ見違えたのう。レイが貴族とはの。」
「主よ、なかなか似合っているではないか?ガハハッ。」

「ありがとうございます。でも私の場合、まるで猿が服を着ているかのようです。」

「ハハッ。いい表現じゃな。じゃが、本当に見違えったよ。」

 待ち時間をみんなで談笑してる間に式典の準備は整ったようだ。

 室内より品の良い楽器の演奏が耳に届いてきた。

 そろそろ出番のようだ。

 玉座の間の重厚な扉が、ゆっくりと開いていく。

 大勢お集まり頂いた方々の姿が、少しずつ視界に入り込む。

 真っ先に現れたのは、王国貴族の方々のようだ。

 髪型、身なり、風貌には品があり、高貴なご身分であろうことは、想像に容易い。

「彼が…。」
「まだお若いわね。」
「あれが、サルバネーロの英雄か…」
「あれは、王国の魔女様では?」
「まるで別人だ。」
「後ろの騎士様たちは誰だ?」
「お美しい。」

 聞き耳を立てている訳ではないのだが、貴族様方の噂話がこちらにも届いている。

 我々一同は、貴族様方からは相当に注目をされているらしい。

 特にミリモルさんは、御老人の姿のイメージが強いらしく、皆さん若返りの魔法の凄さに驚かれている様子だった。

 それからリヨンさんとミミ、ミザーリアさんは、容姿がずば抜けて美しい為に、ミリモルさん同様に注目されていた。

 我々は、音楽に合わせ、姿勢良く、優雅な足取りで先に進む。

 両脇には、王国騎士団が向かい合う様に整列しており、はっきりと国王陛下が見える所まで進むに連れて、緊張感が高まるのを感じる。

 騎士団の列を通過して、国王陛下の御前で停止する。

 ミリモルさんが、跪く様子を横目に、私たちも同様に跪く。

 同時に、演奏指揮者の合図が入り、ピタリと演奏が鳴り止んだ。室内が一斉に静寂に包まれた。

「英雄達よ、よく集まってくれた。これより、勲章授与並びに、サカモト・レイの叙爵式を執り行う。」

 国王陛下が、最初に口を開く。

 その後、陛下の視線が宰相に向き、合図が入ると、宰相が話の続きを説明し始める。

「上級魔族アモアとその勢力により、北の国境の都市サルバネーロは、三千人を超える死傷者が出る程の損壊、南のハマカゼ村は壊滅させられました。ここにいる九名の戦士達は、上級魔族アモアを討伐した英雄達でございます。」

 我々の功績に場内は、静かにざわめきの声が上がる。

 宰相は、続けてアモアの恐ろしさや強さ、我々の活躍に関することをわかりやすく説明してくれた。

 自分達のしたことが、会場の皆さんに理解されたようで少し安心した。

「まずは、サルバネーロでの功績者九名に、『英雄の勲章』を授ける。九名は、前に。」

 九名は、横一列に並び跪く。

 国王陛下は、勲章を手にして一人ずつ首に掛けていく。

 この勲章は、英雄の勲章という。

 救国の為に戦い、活躍した戦士に授けられるのだそうだ。

 他にも智者の勲章や、芸文の勲章などもあるという。

 最初に最も身分の高いミリモルさん、ギルバートさんという順で、授与される順番にも決まりがある様である。

 式典では、首に勲章を掛けて頂いているのだが、服の胸元に付けるタイプの勲章も後で頂けるとのことだ。

 私は、イースさんの後に頂き、最後にアッシュさんが頂き、全員の授与が完了した。

 場内には、拍手が鳴り響き、勲章授与者の功績を皆が称えてくれていた。

「さて、最後に叙爵の儀を執り行う。サカモト・レイよ前に。」

「はい!」

 私は、宰相の呼びかけに反応して、国王陛下の御前に移動する。

 余りにも緊張し過ぎて、自分がどの様な状態になっているのか理解が及ばない。

 手足があべこべにうごいて無様な動きになっていないだろうか…。

 国王陛下の隣りに立つように促されて、言われた通りにする。

 陛下と私は、会場の皆さんに向かい合う様に立っている。

「彼が、新しい貴族となるサカモト・レイである。今回のサルバネーロでの魔族との戦いにおいて、勲功一番の働きをしてくれた。それだけでない。王都の裏側を実質支配していた犯罪ギルド、『ソウルイーター』を完全な壊滅に導いた立役者でもある。彼のこの国への貢献は、これまで類に見ぬ程多大である。この多大なる貢献に国として報いる為、ここでサカモト・レイに『子爵』の爵位を与えることとする。」

 一瞬で会場は、大きなざわめきが沸き起こった…。

 私は、正直どういう状況なのか、理解できなかった。

 しかし、この耳には今まで以上に色々な声が届くらしく、皆さんが何に対してざわついていたのかを、ようやく理解した。

 会場における動揺は、この『子爵』という爵位に関してらしい。

 通常は、叙爵と言えば、男爵位を賜ることが通例である。

 しかし、私の爵位は、男爵位の上である子爵位である。

 私の様な新興貴族が、男爵位の貴族様方をいきなり追い抜く訳なので、面白くない方がいる様なのだ。

(正直、めんどいし、別に男爵でもいいんだけど…。)

 と思ってしまう。しかし、これは国王陛下が決定したことである。

「何か我の決定に不満でもあろうか?彼の功績に見合う爵位を用意したまで。皆にもこの国を今後とも盛り立てて貰いたい。勿論、働きに応じて然るべき対応はさせて頂こう。」

 国王陛下のお言葉で、会場は再び静けさを取り戻した。

 陛下は、働き次第で陞爵しょうしゃくも有り得るのだとこの場で示したからである。(※ 陞爵とは爵位が上がること。)

「この度は、立派な爵位を賜りましたこと、深く御礼申し上げます。爵位に恥ぬ働きをするとここに誓います。王家の皆様、貴族の皆様。若輩者ではございますが御指導や御鞭撻の程、宜しくお願い申し上げます。」

 私は、国王陛下の一声で、冷静さを取り戻したようだ。

 自分の挨拶の時には、自分らしい発言ができたように思う。

 そして、先程まで高まっていた場内の悪意が、徐々に弱まっていくのを感じたのであった。

 
ーーー 式典終了後 来賓会場 会食 ーーー

 勲章と叙爵の式典が終了すると、王族と貴族は、来賓会場へ移動して会食を行う。

 ミリモルさんや、リヨンさん、ミミ、ミザーリアさんに私も貴族様方に囲まれて、色々な方々からとお声掛け頂いている。

 そんな私達を横目に、アッシュさんは、清々と食事やお酒を楽しんでいた。

(アッシュさんめ…。)

 心の声がアッシュさんを非難しようとも、貴族様方からの圧が無くなる訳ではない。

「サカモト子爵殿、我が娘を貰って下さらぬか?」
「いや、サカモト子爵殿。当家の方が爵位も領地も広大だ。」
「サカモト子爵殿、貴公の取扱う魔導具やアイテムは良質だと聞く。どうじゃ?当家が販売の力添えをしようではないか。」

「はぁ…。」

 私は、他の貴族達からの一方的な交流に困っていた。

 私を囲えば、利益につながる判断したのだろう。

 このような公の場で誰かを優遇すれば、恐らく他の方からは反感を買う形となるだろう。

 リヨンさんや、ミザーリアさんの周りにも多くの方が集まっている。

 側室や愛人にでもしようと考えているのだろうか…。

 貴族様方を何とか振り切り、国王陛下や、王族の皆様に挨拶に伺う。

「貴公も今は子爵だ。今後は、サカモト殿と呼ばねば失礼になるな。」

「恐縮です。陛下。」

「初代様が貴公に託したことは覚えておるな?」

「勿論でございます。タイゲンさんの意思を引き継ぎ今後も活動して行きます。」

「うむ。宜しく頼む。我がミキモトの一族も必ずや力になろう。して、今後はどうするつもりでおるのだ?」

 私は、魔族技術ボーゲンのダンジョンのことや、聖剣の素材集めの旅に出ることなどを説明した。

「なるほど…。それは、大変なことよ。要塞都市ガドゥーを経由してバロー公国へ行くのだな。では、ガドゥーの領主に文をしたためよう。出国時には助けになってくれるだろう。」

「陛下、誠にありがとうございます。陛下のお力添え、大変心強いです。」

「うむ。彼女は、ガドゥーの領主兼、要塞都市の軍務司令でもある。いつもであれば、こういった会にも参加するのだが、なかなか多忙らしくてな。先程の式典が終わってすぐに帰ってしまったのだよ。」

「そうでしたか。立ち寄った際には必ず挨拶に伺います。」

 陛下との会話の後も、まだまだ様々な方と言葉を交わし、交流を深めた。

 程なくして会食は閉会となった。

 会場では、若干の悪意がまだ察知されていたのが気がかりだったが、個人の特定には至らなかった。

 少々不穏に感じながらも王城を後にしたのであった…。

ーーー to be continued ーーー
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