上 下
90 / 141
第4章 魔人アモア編

第90話 魔人アモア(形勢逆転)

しおりを挟む
「さあ、さあ、さあ、さあ。サカモトちゃん。いつか現れる魔王に使ってやろうと思っているマジックアイテム『異空屍いくうしかばね』です。この世界とはまた別の異次元空間にあなたを閉じ込めます。永遠にね!今頃多くの魔物が生成されている頃です。餌になるかも知れませんが、きっと退屈はしないでしょう。では、おさらばねぇ。」

 前回と同様に、アモアが私を異次元空間に閉じ込めるつもりである。

 アモアは、アイテム『異空屍』を掲げて、発動を待っている。

 《シーン…。》

 この場にいる全員が、事の成り行きを静かに見守っている。

 シーンと静まり返った空間…。

 魔人アモアが手にしているマジックアイテム『異空屍』は、結局発動することなく手の上で活動を停止した。

「あ、アレ?アレアレ?どうした?私のアイテムちゃん。とりゃ、とりゃ。」

 魔人アモアは必死に魔力を送り込んで起動を試みているが、その様子は見ているこちらまで残念さを感じさせるほどだ。

「残念ですが、いくらやっても無駄ですよ。異空屍の管理者は、私です。そのアイテムの全ての権限は、私にあるのですよ。」

 私は前回アモアに異空屍に飛ばされた際に、黒龍を撃破し、時空コアを掌握した。

 その際に、異空屍の管理者となった経緯がある。

 管理者になると、異空屍に関する全ての権限を有することになる。

 アモアには扱えず、私には扱えるというのはそういうことなのである。

「ハッタリだ!キサマには、このアイテムに接触する時間は無かったはず。仮に接触ができたとしても、人間ごときに容易く扱える代物ではないわ。その手に乗るか!」

 アモアの独特な喋り方は、今では影を潜めてしまっている。焦りや苛立ちが垣間見えるようだ。

「まあ、そうなんですけどね。事情の説明は面倒なんで、割愛しますが、私が管理者になったのは事実ですよ。」

「主様、それは余りにも省略し過ぎじゃないッスか?相手に何も伝わって無いっスよ!」

「ああ、ココア。確かにそうですが、ちゃんと説明すると色々長くなりそうですからね。では、事実であることをここで証明しちゃいましょう。」

 私は、アモアの持っている異空屍に向けて魔力を放った。

 《シュン!》

 異空屍は、一瞬で私の手のひらの上に移動した。瞬間移動と言ってもいいだろう。

 少し闇っぽいオーラが出ていて、少々不気味に思える。

 魔道具『異空屍』からの転移先の空間は、今では自分にとって調度良い『修練の場所』という認識である。

 よって、今後アモアに対して使用する予定はない。

 今は不要なので、タイゲンカバンにしまっておくことにしよう。

「消えた!…だと?キサマは一体…。」

 アモアの動揺が伝わってくる。

 これまで、クズ扱いして余裕を装っていたけれども、今は余裕の欠片も見当たらない。

 〘 マスター、アモアより、魔力の波動を感知しました。〙

 (ありがとう。了解しました。)

「悪いが私はこれで失礼するよ。クズどもとはこれ以上付き合ってられないからねぇ。転移!」

魔法術式破壊マジックブレイク!」

 《パリン!!》

「ば…バカな…!!」

 アモアが何かをしようとしていたことは、エイチさんから知らされていた為に、直ぐに対応できていたのだ。

「逃がしませんよ。こちらの用は、まだ済んでいませんから…。では、皆さんお願いします。」

「やれやれ、ようやく出番が来たかのぅ。」
「アッシュ、遅れるなよ!」
「兄者、行くぞ!」
「ミミもご主人様の役に立つにゃ!」
「主様、ボクも遊ばせて貰うッス!」
「レイ様!参ります!」

 仲間達は、それぞれの思惑があって、ここに集まっている。

 だが、アモアを倒すという目的はみんな一緒だ。

 (前回のような悲しい結末には絶対にさせないぞ!)

 全員がアモアとの戦闘に対応している。

 私は、移動を始めるミザーリアさんを引き止めて声をかけた。

「ミザーリアさん、これを受け取ってください。それから…。」

 私は、ミザーリアさんに指示を与え、戦闘に戻る。

「あらあら、これは…。わかったわ。しっかり役割を果たすわね!ありがとう、レイ君!」

 私達は、全力でアモアを攻撃する。

 多勢に無勢ではあるが、アモアは魔人だ。

 基本的な身体能力は、私達を遥かに凌駕する。

「やはり、流石は魔人か。手強いのぅ。」

「サカモトちゃんには、色々やられましたが、所詮はクズな人間たちです。私が負けるわけないでしょう。」

「うぉー!!」

 アモアに飛びかかった騎士団のオーエンさんが魔弾によって吹き飛ばされた。

 魔弾は、威力はさほど強くはないが、魔力を溜める時間が短い為に、魔法術式破壊が間に合わない。

 それでも、多方面からの攻撃には流石のアモアも対応しきれない。

 リヨンさんや、ミミ、アッシュさん、ギルバートさんらの攻撃が次々にヒットする。

 普通の人間より確実に強いメンバーの攻撃に流石のアモアも膝をついた。

「ま、まて!待ってくれ!今回だけは見逃してくれないか?キミたちが望むようなものを与えてやろうじゃないか?」

 アモアは、全てのスキルを失ったことで不利な状況だと悟ったようだ。

 特に再生能力を失ったことは痛手だろう。

「残念じゃが、それは無理じゃな。お主のせいでどれ程の血が流れたか。観念するといい。」

 すると、アモアは…。

 一瞬の隙を見て、ギルバートさんを人質に取った。

 アモアの俊足を活かした動きにより、ギルバートさんはあっさりと背後を取られてしまった。

 アモアの指は鋭い刃物に変化し、ギルバートさんの喉元を狙っている。

「兄者!!」

「みんな、すまないな。少し油断してしまった。」

「形勢逆転と言った所でしょうか?このまま私の言うことを聞けば、彼の命は取りませんよ。」

「アッシュ、みんな…。俺のことは気にするな!奴を倒せ!早く!」

「兄者…。」

 ギルバートさんはそう言うが、アッシュさんも仲間たちも手出しができないようだった。

 しかし、このままアモアを見逃せば、またどこかで悲劇に苦しむ人々が現れてしまうかもしれない。

〘 マスター。幸い魔人アモアからは、『悪い予感スキル』をソウルスティールしました。今は気配を察知されることはないでしょうから、うまくやれば気づかれずに行動できるかもしれません。〙

 (なるほど、それはいい考えですね!)

 流石は、エイチさん。

 ここぞとばかりの助言には、いつも助けられる。本当に優秀だと思う。

 (それでは、早速…。)

「さあ、皆さん道を開けて下さい。これ以上近づくと、プスリと刺しちゃいますからねぇ。喉だと面白くないから、上にズラして脳ミソはどうでしょう?どんな感触なのか興味津々ですねぇ。」

 アモアは周囲に気を配りながら、ゆっくりと入り口を目指す。

 転移の魔法は魔法術式破壊マジックブレイクがあるため、足で脱出を図るのだろう。

 奴も己の命が掛かっているから、必死なのだろう。

 エチゴヤの仲間達は、刺激しないよう一定の距離を保ちつつも、アモアから離れないように移動を続けている。

 ある程度の距離が離れてしまうと、そのまま逃走されてしまう恐れがあるためだ。

 出口から30メートル程度の距離になった所で、アモアはギルバートを突き放した。

「では、ここで失礼しますね。」

「ここは通さないよ。」

 私は、突然出口の付近から姿を現した。

「クッ。気づかなかった。いつの間に…。」

 私は、『隠密スキル』により、存在を目立たなくすることに成功したので、隙を見て先回りしていたのだった。

 可能ならば、一太刀入れたかったが、失敗すればギルバートさんの命が危険にさらされるため、慎重にならざるを得なかった。

 少なくとも、出口からの脱出を阻止できたので良しとしよう。

「まあ、話をしようではないか。」

 《プシュン!》
 《プシュン!》

「くそったれが!」

 私は、アモアの話に応じずにいきなり二発を発砲した。

 アモアもこれまでの戦いで慣れてきたのか、すぐに回避行動を取った。しかし…。

「うがぁ~!かわしたはずなのに…。」

 銃弾は、アモアの両脚の大腿部を貫通していた。

 アモアの初動反応は素晴らしいため、通常ならば完全に回避できていただろう。

 しかし、私のガンナーのジョブスキル『誘導弾』を発動しての射撃だったため、外れたはずの弾は追尾機能が発動し、狙い通り大腿部に命中したのだった。

「誘導弾スキルです。命中するまで追跡するのですよ。私がトドメを刺してもいいのですが…。」

「最後は、ミザーリアさんにお願いします。他の皆さんは退避してください。」

 ― to be continued ―
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...