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第4章 魔人アモア編

第86話 異空屍(中編)

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《 一年経過 》

〘 マスター、ここに来て9000時間が経過しました。〙

「もうそんなに経ったのか。」

 いつの間にか、一年くらい時間が経過してしまったようだ。それほどまでに、我武者羅に戦闘を繰り返していたということだろう。

 それにしても食事も睡眠も今まで全く取っておらず、髪の毛や髭も伸びてこない。変な世界である。エイチさんと二人で考察して、外界の時間軸から外れた時間経過のない空間だろうと結論付けた。未だにこの空間の仕組みや、脱出方法はわからないままだ。

 疲労は感じるので、廉価版ポーションを使用して体力を回復させる。しかし、『薬師マスター』の称号の効果で、わずか一滴舌に垂らすだけで全開するので、まだ数年は大丈夫だろう。

 魔物は、何処から湧いてくるのか、倒しても倒してもその数を減らすことは無かった。

 戦闘を繰り返すうちに、私の能力も飛躍的に向上してしまったらしい。

 一年間の戦闘により、様々な能力が向上したようだ。新たなジョブ称号『剣士』により、剣の装備や、剣術も身に付いてしまっており、更に磨きをかけたことで、『銃剣士』の称号も得ていた。

 ジョブ称号は、新たな能力の解放を意味している。ジョブ称号を得ることで職業として扱えるようになるらしい。

 銃剣士は、銃や剣をその時の状況に応じてスイッチしながら戦う職業である。これによって、遠近双方のフィールドで、バランス良く戦うことが可能になった。

 能力に関しては、ジョブだけでなく、『呪無効』『魔法術式破壊マジックブレイク』『スキルスティール』などの能力スキルも獲得している。

 この辺りに現われる魔物では、殆ど相手にならないくらいに強くなったと思う。それでも、まだここから抜け出せる為の能力は取得できていない。

〘 マスター、能力は充分上がりました。そろそろぬしに挑戦してもいい頃合かと…。〙

「主か…。まだ勝てたことないんだよなぁ。」

〘 前回の対戦時と比べて、各ステータス値が格段に向上していますし、銃や剣の性能も上がりました。更には、フレア弾が完成したことも大きいです。勝率は、前回よりもかなり向上したかと…。〙

「詳細な勝率は?」

〘 演算解析中…。〙

〘 100%です。〙

「ならいけるな…。」

〘 恐らく、主を倒せればマスターにとって何らかの変化が現われると思われます。〙

「わかった。行こう!」

 主というのは、この空間の主である。ここの魔物誕生の元になっている時空コアの守護者である。これまで、三戦全敗。この主が攻略できずにここまで時間がかかっていたのである。

 魔物達を蹴散らしながら、主の元へ移動する。

 主は、ドラゴン種である。残念ながら、これまでの対戦時には、意志の疎通はできていない。

 このドラゴンは、黒龍といい、全身真っ黒な鱗を持つ。その鱗は、非常に大きく、そして硬い。体長は、10メートルはあるだろうか?これまで、銃で傷は負わせても、倒すまでは至らなかった。逆に、黒龍の炎のブレスで何度か焼死しそうになっている。

「やあ、黒龍。今度は負けないよ。っと言っても通じないか…。」

〘 マスター、サポートはお任せ下さい。〙

 両手には、ウェポンリングより真っ赤な銃が装備されている。

《グォーーー!!》

 黒龍は、雄叫びをしてこちらを威嚇している。雄叫びで空気が振動しているのがハッキリわかる。

《プシュン! プシュン! プシュン! プシュン! 》

 真っ赤な銃身から銃弾が連射される。

《グォーーーー!!!》

 黒龍が呻き声をあげる。左右の銃より発射された銃弾は、狂いなく同じ箇所に命中する。累積されたダメージは、こちらの銃の方が上なのか、硬い鱗を貫通させてダメージを与えることに成功した。今までにない反応で、好感触だ。

〘 マスター、ブレス来ます。〙

 反撃とばかりに、黒龍はブレスで応戦してくる。

「よっと。」

 私は、以前習得したスキル『縮地』を使用し、回避する。縮地は、前にリヨンさんも使用していたスキルで、地面が縮んだかの様に一瞬で移動できてしまう能力だ。

 俊敏もかなり向上している上に、縮地の効果が相乗し、余裕で回避できてしまう。

〘 マスター、縮地のリキャストタイムは30秒です。使い所にはお気をつけください。〙

「わかった。」

 黒龍は、全身からオーラの様な物を纏っている様に見える。

〘 マスター、物理攻撃無効スキルが発動されました。〙

「やはり、来たか…。」

 物理攻撃無効スキルは、私とは相性が悪い。私は、異空屍での数々の戦闘により、銃や剣の能力が飛躍的に向上した。フレアなどの魔法も使えるが、物理攻撃特化のジョブは、魔法制限がかかる為に、能力を発揮できない。物理攻撃無効のスキルは、まさに痛手のスキルと言えるだろう。

 試しに軽く20発程撃ち込んでみる。分かってはいたのだが、黒龍の前に透明な障壁が表れて、弾丸はポロポロ地面に落ちて無効化された。

「くっ、やはり駄目か…。」

〘 マスター、提案します。フレア弾をご使用下さい。〙

「フレア弾は、まだ試してなかったな…。それじゃぁ。」

《プシュン!!》

 私は、フレア弾を弾倉に装填して射撃した。銃弾は一直線に黒龍目掛けて飛んでいく。しかし、黒龍の前には再び障壁が表れた。

「やはり、駄目か…。」

 駄目かと思いきや、障壁により防がれていた弾丸は、その場で大爆発を起こす。弾丸には、フレアの魔法が付与されている。

《ドッカァァーーン!!!》

 フレア弾は、弾丸の動きが停止することを条件に『フレア』が発動するように『プログラムスキル』によって設定してあった。本来は、着弾して弾が静止することを想定してプログラムしたのだが、結果的に発動条件が合致して爆裂を引き起こすこととなった。

《グギャャャァーー!!》

 大きな爆発により、黒龍の鱗が多数吹き飛び、痛烈な痛みに黒龍が呻き声を上げた。

〘 マスター。フレア弾によるダメージにより、黒龍の物理攻撃無効化スキルが消失しました。〙

「よし、チャンスだ。」

 強い衝撃により、物理攻撃無効化スキルが解除され、鱗が剥がれ落ちた部分が弱点として姿を現した。

 私は、双銃の片方を剣に交換し、近接戦闘に持ち込む。銃による射撃を数発行った後に、『縮地』で素早く距離を詰める。むき出しになった部分に銃弾が全て命中した。

 黒龍は、これまで感じたことのない激しい痛みに怯んだようだ。剣の間合いに入ると、透かさずミスリルで作成した特製の剣で切りつけた。

《グギャャャァーー!!》

 大きな傷を与えたことで、黒龍の体液が大量に地面へと飛び散った。四戦目にして初めての大ダメージである。

 黒龍は、呻き声を上げながらも、必死に反撃する。尻尾の薙ぎ払いと炎ブレスのコンビネーションだ。能力向上により、俊敏性も大きく高まっており、すぐさま間合いから距離をおいて回避した。命中したら私も無事では済まないので、確実に回避は行う。

〘 マスター、フレア弾と近接攻撃で押し切れます。〙

「はいよ。」

 相手の攻撃が止んだタイミングで、再びフレア弾と、近接攻撃のコンボ。

《グギャャャァーー!!》

 黒龍の表情はよくわからないが、黒龍が初めて死の恐怖にかられている様に思えた。

 私は、最大のチャンスが訪れ、このまま押し切るつもりで武器を持つ手に力を入れ直していたのだった…。

― to be continued ―
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