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第3章 覚醒編

第67話 ウエポンリングとサスペンション

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◇◇◇◇ リヨン視点 ◇◇◇◇

 レイ様が激しい乗り物酔いで休憩していた頃、アッシュさんと私は、襲いかかる魔物を迎撃していた。相手は、マウントウルフが15匹だ。マウントウルフは、この山脈を縄張りとしていて、群れで狩りをすることが特徴のようね。馬車は、一本道で停車しているので、前後から挟み撃ちされる格好になってしまっている。

 前はアッシュさんが、後ろを私が立ちはだかる構図で、レイ様とオグリンキャップを守る形で配置した。アッシュさんは、かつては異国の剣闘王グラディエーターキングと呼ばれていた方。前の敵は任せても問題ないでしょう。私は後方のマウントウルフに集中すればいい訳ね。

 早速だけど、『ウエポンリング』を使用してみる。右手のリングがポボロアーヌの大鎌、左手のリングが魔剣・風雷鳥の双刃になっている。

 レイ様には、魔剣のバッド効果である魔族の呪いがある為、ピンチの時以外には使わない様に申し受けている。通常の戦闘時には、ポボロアーヌの大鎌を使用する。右手のリングへ軽く魔力を注ぎ込む。その途端に目の前に大鎌が現われた。

「これがウエポンリング…。必要な時に瞬時に使用できて、これはとても便利ね…。」

 武器に何らかの変化が加わる訳ではないみたいだけれど、普段持ち歩かなくていいから、非常に便利ね。

 さて、こちらの戦闘準備は整ったわ。目の前のマウントウルフの方も、口から唾液を垂れ流していて、いつでも私を餌にする準備が出来ているみたいね。もちろん、そうはさせないのだけれど。概ね半分に別れたマウントウルフは、こちらには八匹。圧倒的に多勢に無勢。しかし、この大鎌のスキルは優秀なのよ!

 私は、『縮地』で地面を蹴り、一気に相手との間合いを詰めた。瞬足の移動に、遠近感覚を掴めていない先頭の一匹は、為す術もなくその首を差し出した…。転がる頭と吹き出す血吹雪が、他のマウントウルフの動揺を与えていた。短剣の様に軽く感じられる大鎌が、ザン!ザンと更に肉を切っていく…。道路脇には三つの頭が転がっていた。私は、縮地一回で三匹のマウントウルフを屠ったのだ。

(流石は、ポボロアーヌの大鎌ね。)

 しかし、私が残り五匹を相手にしようと体勢を立て直そうとした所、奴らは私ではなく、レイ様やオグリンキャップの方に向かって駆け出している…。

「これはマズイわね!」

 マウントウルフは、私の縮地には及ばないけれど、スピードのある魔物。このまま縮地を繰り返しても、後の三匹までは倒せる。しかし、前の二匹までは間に合わない。ここは、圧倒的な速さが必要ね!!

 私は、反射的に大鎌を格納し、左手のリングに魔力を注いで魔剣・風雷鳥の双刃を取り出していた。おまけに…。

『電光石火!』

 私の周囲には、稲妻のオーラが現われる。電光石火は、私だけの固有ユニークスキルだ。身体能力を格段に強化できる。更に魔剣・風雷鳥の双刃にも、身体能力を大幅に向上させる効力がある。

 私は、強く地面を蹴ってマウントウルフを追いかける。自分ではない位に軽く速い!恐らく魔剣の身体能力向上と、電光石火の身体能力向上の相乗効果ね。私は一瞬でマウントウルフに追いつき、追い越し、魔剣で切りつけた。

 風刃・雷刃とそれぞれの剣には別々の属性がある。特に雷刃は、電光石火との相性が良く、雷属性の強力な一撃となった。私の足元には、感電して黒焦げになった亡骸と、風属性の見事な切れ味で切断された五匹の亡骸が横たわっていた。

「間に合ったわね。オグリンキャップ、どうやらあなたが狙われていたみたい。」

 見れば、アッシュさんの方も無事片付いたみたい。とにかく、レイ様もオグリンキャップも無事で良かったわ。そして、咄嗟に変更した魔剣が役に立ったわ。これも、レイ様のお作りになったウエポンリングがあったおかげね。私は、この戦闘で、ウエポンリングの新たな使い道を見出せたのだった。

◇◇◇◇ 視点切替『レイ』 ◇◇◇◇

 リヨンさんとアッシュさんが魔物と戦っていた頃、私は激しい乗り物酔いで参っていた。しかし、二人の実力ならそこら辺の魔物なら心配はいらないだろう…。そう思って車内で休憩させて貰っている。この時、今更なのだが、ポーションで乗り物酔いが回復するだろうと思い付き、『廉価版ポーション』を使用した所、呆気なく回復していた。

(ありゃりゃ、もっと早く気が付けば良かったなぁ。まあ、体調は治ったので、戦闘は二人に任せて、私は自分の仕事をしようか…。)

 私は商業ギルドで入手したステレニウムで物作りをしていた。サビない金属なので、便利である。

 今作っているのはサスペンションだ。異世界の道はひどくて、馬車が揺れまくる。乗り物酔いはもううんざりだ。

 私は神器である『ウィキー』を展開して、サスペンション構成を調べている。私には錬金スキルの上位版…というより神スキルの『クリエイト』があるので、材料さえあれば物作りには困らない。ウィキーの通りに行うと、部品作成だけでなく、結合や組み立てまでを一瞬でやってしまった。そうして希望通りのサスペンションが完成した。

 私は馬車の荷車と、サスペンションをひとまずタイゲンカバンに取り込んだ。その後はまたクリエイトスキルを使い、脳内イメージにより異次元空間内でスプリングを取り付けしてしまうというチート技を用いて完成となった。完成した馬車をこちらに移動して作業は終了となった。

「いやー案外簡単だったな。戦闘の方も終わったみたいだね。」

「レイ様、大丈夫ですか?」

「主よ、終わったぞ!」

「二人ともご苦労さまでした。私は大丈夫です。体調はポーションで治っちゃった…。」

「ああ…。」
「なるほどな…。」

 二人とも私と同じく忘れてたな。

「それより、『ウエポンリング』の方は如何でしたか?」

「いいねぇ。素早い出し入れが可能で、魔剣との使い分けもし易い。」

「ええ、そうですね。オグリンキャップが襲われそうになり、咄嗟に魔剣を使用しましたが、交換がとてもスムーズで、非常時にも便利ですね。」

「それは良かったです。ウエポンリングはそのうちエチゴヤで商品化することも検討しています。」

 魔物からはきっちりと魔石を回収し、また馬車を走らせる。

「あれ、揺れが…。」

「ん!?本当だな。主よ、また何かやったな?」

「また何かとは人聞きの悪い…。馬車に揺れを軽減させる部品をつけたんですよ。アッシュさん、もう笑わせませんよ!」

「チェッ。主の情けない姿が面白かったのによ。」

 馬車はリーゼル山地を下り、平野部に入っていた。目の前の景色は、ゴツゴツした岩壁から緑の草原へと姿を変えていた。

「レイ様、あそこです。あそこが硫黄山です。」

 平野部の先に聳え立つ山が硫黄山か…。結構大きいな。富士山くらいはありそうだが…大丈夫か?あれを登るのは、結構大変そうだな…。

 私たちはついに、硫黄山の手前まで辿り着いたのだった。

― to be continued ―
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