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第3章 覚醒編

第61話 エチゴヤ業務

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 アングラ最強ギルドを裏で支配していた魔族ポボロアーヌ。奴は国家転覆を企んでいたが、私たちの活躍で野望を打ち砕かれた。リヨンさんを始め、私に関わりのある者達が見事に撃破したのだ。

◇ アジトの外 ◇

 ソウルイーターのアジトを後にして外に出ると、既に多くの王国騎士団の兵士が駆けつけていた。団長らしい男が、ミリモルさんと話をしている。どうやらミリモルさんが、状況説明してくれているようだ。

 団長らしい男は、話を終えると、私に気づいたらしく、笑顔でこちらに近づいて来た。

「よう!レイだったな?俺のことは…知らねぇか。この前、王城で会ったんだがなぁ。まあ、いいや。俺はギルバート・コーウィン。こう見えても王国騎士団の団長だ。今回はお手柄だったな。」

「ありがとうございます。私はサカモト・レイと申します。ギルバート様と…」

「いやいや、そんな堅苦しいのはやめてくれ!ギルバートでいいからな。お前さん、色々と話題になっているじゃねぇか。あのポーションは凄いぜ。俺達もお世話になっているよ。すげぇ才能だな。」

(そういえば、高品質ポーションは、商業ギルド仲介で王城へ降ろされているんだったな…。)

「恐れ入ります。これからアジトへ?」

「ああ、後片付けって所だ。レイよ。追って国王から謝礼があるだろうよ。楽しみにしておくといい。ん?お前は?」

 ギルバートさんは、最後にアッシュさんの方を向いてニカッと微笑むと、団員を引き連れてアジトへ向かって行った。豪快で嫌味のない男だった。

「皆、ご苦労じゃったな。では邸に帰るかの。」

 全員ミリモル邸へ移動することにした。ガラフさんや、ゼスさん、ユーリさんは、監獄へギルド構成員を移送している為、後で合流することになっている。

◇ ミリモル邸 ◇

 ミリモル邸では、アジト壊滅の慰労会を兼ねて食事会が開かれた。ミリモルさんの計らいで、戦闘には加わらなかったが、キーネさんとソラさんにメサも招き、エチゴヤのメンバーが勢揃いした。リヨンさんやフリン君は、加わらずに使用人としての業務を優先している。今日くらいは、休めばいいのにと思うのだが、彼女らの真面目な性格からすればきっとそういう行動になるのだろうなと納得してしまう。

 料理は、料理長の自慢の品々が並んでいる。肉料理や魚料理を中心に、野菜やスイーツなど様々な料理が並び、充分な量がある。流石は、ミリモル邸。庶民とは格が違う…。

 食事会での話題は、私の作った魔剣に集中していた。

「にーちゃん、これが魔剣か!!すげぇな。どんな素材を使っているんだ?」

「主に魔族の素材ですね。それ以外も必要ですが、それは秘密です…。」

「あらあら。流石はレイ君ね!魔剣なら私の村でもおとぎ話上の武器だと伝えられていたわね。私も長年生きてきたけど、実際に存在しているとは思わなかったわ!」

「魔族自体が居なかった訳じゃからの。まあ、奴らの能力は、ワシらを遥かに凌駕しておる。こう言った戦力アップは、今後必要になるじゃろう。じゃが、この禍々しい気はやはり危険じゃの。レイや、取り扱いは充分注意するんじゃよ。」

「ええ、承知しています。私が作った魔剣には、『魔族の呪い』という悪い効果が付与されてしまっています。これは、長く装備していると、悪意が増幅されて、装備者の心を蝕んでしまうという物です。ですので、必要な時以外はマジックバッグにしまって置き、有事に取り出して使用するようにすれば、殆ど負の影響はなく使用が可能です。」

「ふむ。なるほどな。量産や販売に関してはどうするつもりじゃ?」

「量産も販売も行いません。もし、悪人が使用すれば、魔物化や魔族化などの引き金に成りかねません。それに流出すれば、戦争の火種になったり、戦争の兵器にも使われるかも知れません。そういった理由より、商品化も致しません。」

「それが賢明じゃ。皆も安易に魔剣の情報を流出しないよう気をつけるのじゃぞ。」

  それにしても、エチゴヤもだいぶ人数が増えてきたな。今は、私にリヨンさん、ミミ、ミザリーアさん、ガラフさん、フリン君、キーネさんとソラさん、それにメサとアッシュさん。もう10人か…。今の所、凄い勢いで収益も上がっているので、皆にお給料を支払う余裕も出てきている。今後の活動の為にもエチゴヤの経営は、しっかりとやって行こう!

◇ ミリモル邸 レイの自室 ◇

「ふぅ。疲れたな。」

  一日のスケジュールを終え、ミリモル邸の自室に戻った私は、重力に負けるようにベッドに倒れ込んだ。今日は、王都で魔族との戦闘に巻き込まれるという、予想もしなかった事態に遭遇した。魔族の手が徐々にあちこちに及んでいるのを実感すると、胸がざわついた。

「あまり呑気にもしてられないな。」

 私は起き上がり、魔族ポボロアーヌからの戦利品で得た『大鎌』を取り出した。死神のような黒い刃と赤い柄が不気味だった。

名前 ポボロアーヌの大鎌
種類 大鎌 
価値 ☆☆☆☆☆
相場価格 error
効果 振軽無空しんけいむくう 破壊不可 斬空波
説明 ポボロアーヌの大鎌。振軽無空スキルは、空気抵抗を無くし、短剣のように軽々とスイングできる効果がある。破壊不可。斬空波という風属性の遠距離スキルもある。

「ステータス上昇はないが、呪いもないし、通常装備として使えそうだ。まさかとは思うが、私が装備できるのではないか?」

 私は、期待と不安を抱えながら構えてみた。

「くっ…重い!振軽無空スキルがある筈なのに…どうして?」

 やたら重く感じて扱えなかった。恐らく大鎌の特殊スキル『振軽無空』スキルが私には扱えないのだろう。リヨンさんの通常装備の双剣が破壊されたから、試しにこの武器を使って貰おう。ただ、持ち歩くには大きくて不便だよな。少し工夫しておこうかな…。

 私は、マジックバッグを応用した装備方法を思いついて作成することにした…。この後、真夜中まで作業を続けていたことは言うまでもない。

◇ 翌日 ミリモル邸 ◇

 今日のエチゴヤは、二手に別れて業務することにする。商品の製造班は、私と、メサ、アッシュさん。他のメンバーは、店舗で販売をお願いしている。ミザーリアさんとミミは、ミリモルさんの魔法指導の為、別行動である。

 ミミは、ミリモルさんの修行を散々嫌がっていたが、私を含めてエチゴヤの仲間たちの説得によって、しぶしぶ行くことになった。しっかり成長して帰ってくるのを楽しみにしておこう。

 私達、三名は商品製造に取り掛かる。メサには、魔道具製作全般をお願いしていて、店舗二階で既に取り掛かって貰っている。

 私とアッシュさんは、ミリモル邸に残り、庭でポーション、魔ポーション、強化剤を製造する。アッシュさんは、外見や体格に似合わず、かなり器用で気配り上手だった。思いの外、作業はスムーズに進んだ。半日で二週間分くらいの商品の在庫は確保できたと思う。材料を使い切ったので、二人で商業ギルドへ買い出しに向かうことにした。

◇ 商業ギルド ◇

  馬車で商業ギルドへ移動する。馬車は、異空館の庭に停車して、二人でギルド店舗内に入る。

  今日の仕入れは、ポーション・魔ポーションの素材に、強化剤の素材と魔石だ。片眼鏡の鑑定を使用して、品質の高い物だけを購入していく。人喰い人参だけは、素材の流通が無い為に、冒険者ギルドに依頼を出して貰うことになった。報酬を前払いして、素材はフリン君に届けて貰うことになっている。

「サカモト様、ようこそおいで下さいました。」

 呼び止められて振り向き、声の主を確認する。やはりベニーさんであった。

「ベニーさん。こんにちは!昨日は、情報を頂きありがとうございました。」

「いえいえ、我々商業ギルドとしましても、ガイの件は非常に心苦しく思っておりました。せめて情報だけでもと思い、動いた次第です。しかし、今回は戦力として協力できず、誠に申し訳ございませんでした。」

「問題ありませんよ。仲間の協力で問題解決に至りました。」

「流石は、サカモト様やエチゴヤの皆様ですね。お見事です。そちらの方はもしや…。」

「アッシュだ。一年前、ガイのヤローに嵌められて奴隷にされていた。だが、主に助けられてここに居る。」

「隣国の剣闘王グラディエーターキングでしたか…。サカモト様は、凄い方をお連れになられましたね。」

「えっ、アッシュさんは、そんな有名な方だったのですか?申し訳ありません。私は、全然知りませんでした。」

 私は驚きと恐縮で言った。アッシュさんは、かつて剣闘士の頂点に君臨していた方だということだった。

「構わない。昔のことだ。俺は、主に自由な世界を頂いた。今後は、それに見合う働きをするつもりだ。」

 アッシュさんは淡々と言った。彼は自由な世界という言葉に特別な意味を込めているようだった。

「そうでしたか…。それではこのタイミングでお伝えしますが…。」

 ベニーさんは少し緊張した様子で言った。

「先ほど、王城より連絡が届きました。ちょうどその件で、サカモト様にお伝えするために訪ねるつもりでした。今回のご活躍に加え、高品質なポーションの製造に貢献されたことが評価され、商業ギルドのBランクへの昇進が通知されました。心からお祝い申し上げます!」

「おおっ!そうでございましたか。光栄です。ありがとうございます。」

 ベニーさんが事務所からギルドカードを持ってきてくださった。それは、ゴールドの輝きを放つカードである。私はシルバーのカードをベニーさんに手渡し、ゴールドのカードを受け取った。

「Bランクがゴールドということは、Aランクはどのようなカードになるのでしょうか?」

 私は興味深く尋ねた。

「そうですね…確かにゴールドは最上位のカードのような印象を受けますが、Aランクはブラックとなります。」

(前の世界でもそんなクレジットカードがあったような気がしたな。一般の人には縁遠いやつだ。)

「ほう、ブラックですか。非常に興味深いですね。」

 私は笑顔で言った。

「ブラックカードには、世界中でほとんど採掘できない希少な鉱物が含まれており、その鉱物を探索する際に共鳴現象の特性を利用できると言われています。」

 ベニーさんは教えてくれた。

「なるほど、最上位のカードがブラックなんですね。持っていればその鉱石にたどり着けるかもしれないということか…。いつか手に入れられるように頑張ります。」

 ベニーさんに挨拶をし、商業ギルドを後にした。ギルドランクの昇進は思いがけない出来事だったが、非常に光栄で嬉しいものであった。

 Bランクには、レア素材の優先購入権や、宿屋・商店での特典、様々な街での商品販売許可、ギルドによる店舗無料紹介など、素晴らしい特典が用意されているようである。次の旅には大いに役立つだろう。

 商業ギルドからの帰り道にエチゴヤの店舗に立ち寄り、皆さんのお手伝いをすることにした。エチゴヤはまずまずの売り上げの様で、混乱もなく順調だった。キーネさんとソラさん親子は、仕事に慣れてきているようで安心した。

「ポーションは残り五つで終了いたします!」

 そして、最後のお客様が店を後にするのを見送った。

「ありがとうございました、レイ様。本日の販売は全て終了しました。」

「良かった。皆さん、一日お疲れさまでした。店を閉めて帰りましょう。」

 今日は、全ての商品が完売した。昨日はガイに盗まれてしまい、販売を中断せざるを得なかったので、今日は本当に良かったと思う。

 二階のメサの様子を確認し、本日の業務を終了した。

 本日は、ほとんどエチゴヤに関連した業務に集中していたように思う。最近はエチゴヤ以外の仕事も様々に手がけていたので、今日のような一日は非常に充実したものだと感じていた…。

― to be continued ―
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