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第3章 覚醒編

第60話 中級魔族(後編)

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「お疲れ様です。二人とも先に傷を回復して下さい。」

 ポボロアーヌの攻撃でダメージを負ったアッシュさんとミミに、私は自慢のポーションを使用した。

「何だこれは?傷が完全に治ったぞ!一体何をした!?」

「やだなぁ、アッシュさん。ただポーションを使っただけですよ。」

「そんなに回復するポーションなどあるものか!!」

「まあまあ、気にしない気にしない。」

 エチゴヤのポーションを初めて使ったアッシュさんは、その効果に目を見開いて驚いていた。

(これからすることを目の前にしたら、さらに驚くだろうな…。)

「ご主人様!今から何をするのにゃ?にゃんは早く戦いたいにゃ!」

「ミミ、慌てないで。アッシュさんも武器を変えるので、その棍棒を貸して頂けますか?」

「お、おう…。」

 私は、ポボロアーヌとの戦いの最中、魔剣を製作することにした。現在は、ミミやアッシュさんと交代して、リヨンさんがポボロアーヌと戦っている。この重要な戦闘中に武器を作ることは、初めての試みだ。

 先程までアッシュさんが使っていた『豪鬼の棍棒』と、タイゲンカバンから『豪鬼の牙』と『甲亀鬼の甲羅』を取り出して床に並べた。

 タイゲンさんの書籍を参考にし、豪鬼の棍棒や牙、必要な素材を組み合わせて『クリエイトスキル』を使用する。

 すると…魔剣になるための素材は、それぞれが輝き始めた。次第に互いに引き寄せられて結合し、やがて形を変えながら一つの剣の姿に近づいていった…。

「よし、魔剣ができたぞ!」

「嘘だろ!!こんなあっさりと魔剣が!!信じられないことばかりだぜ!」

 ポンと簡単に魔剣が作り出されたことに、アッシュさんは呆れていた。
 
「にゃにゃ!ご主人様、凄いにゃん!にゃんの分は?」

「ちゃんと作りますよ。待っていて下さい。」

 今度は、ミミの武器だ。彼女の爪は硬くて武器として優れているので、今回は『手甲武器』にしようと思う。甲亀鬼の甲羅と他の素材を組み合わせて『クリエイトスキル』で完成させた。

「これがにゃんの武器かにゃ?でも、どう使うのかにゃ?」

「ミミの武器は、『手甲武器』といいます。手に着けて、打撃で敵を倒すのです。指や手の甲を守ってくれますし、爪攻撃も使えるようにしてありますからね。」

「にぁ!ご主人様!ありがとうにゃん!」

 それでは完成した魔剣を確認してみよう。

名前 豪鬼の大剣
種類 魔剣
価値 ☆☆☆☆☆☆
相場価格 error
効果 身体能力35%向上 硬度UP 振軽斬重 一刀両断 魔族の呪い
説明 魔族 豪鬼の棍棒をベースに大剣に作り直した魔剣。刀身が大きく、誰にでも扱える剣ではない。振軽斬重の効果で、使用者は剣を軽く感じるが、斬撃時には重い一撃となる。硬度UPで耐久性が高く、刃が折れにくい。魔族の呪いは、長時間装備すると悪意が増幅し、人格を変えてしまう。サカモト・レイ作。
 
名前 甲亀鬼の手甲
種類 魔剣
価値 ☆☆☆☆☆☆
相場価格 error
効果 身体能力35%向上 硬度UP 爆裂拳 魔族の呪い
説明 魔族 甲亀鬼の甲羅をベースに作った手甲武器。手に装着して使う打撃用の武器。見た目は魔剣に見えないが、魔剣のカテゴリーに分類される。装備するだけで身体能力が向上する。非常に硬い素材で、打撃による装備者のダメージはなく、相手には強力なダメージを与える。爆裂拳は、短時間に多くの打撃攻撃が可能となる。魔族の呪いは、長時間装備すると悪意が増幅し、人格を変えてしまう。サカモト・レイ作。

「凄いな…。あ、あんたは一体何者なんだ?」

「ですから、商人だと言ったでしょう?」

「ああ、そうだったな。それにしてもこの魔剣は凄い。装備しただけで強くなった気になるな。」

「それも確実に魔剣の能力ですよ。さあ、その魔剣でリヨンさんを助けてあげて下さい。」

「まったく…レイよ。お主は相変わらずじゃな。とんでもないものを作りおって…。」

 私たちのやり取りを見ていたミリモルさんも呆れ顔だ。

「あはは、申し訳ありません。」

「にゃんも行くにゃ!」

 ミミとアッシュさんは、魔剣を構えて戦場に飛び込んだ。

 ポボロアーヌとリヨンさんの戦いは、熾烈だった。奴の大鎌は恐ろしい威力を持っていたが、リヨンさんの魔剣も負けてはいなかった。二つの刃が激しくぶつかり合う度に火花が散り轟音が響く。

「貴様!何だその剣は!?我が身に傷をつけるとは…。しかも身体能力が先程より上昇している…?」

「これは魔剣よ!あなた達魔族の素材からレイ様が作り上げたものよ。あなたもその一部になる運命よ!」

「何だと!?まさか、それは風雷鳥の…。ふざけるなー!!」

 ポボロアーヌから怒りのオーラが溢れ出す。このオーラは、能力が一時的に上昇するスキルだ。

「リヨンさん、そのオーラは奴のスキルです。気をつけてください!」

「了解!『電光石火!』」

 敵の能力向上に対抗して、リヨンさんも『電光石火』で能力を向上させる。スピードではやはりリヨンさんに分があった。魔剣も見事に切れ味を発揮し、ポボロアーヌに深い傷を刻んだ。だが、ポボロアーヌも風や炎魔法を織り交ぜて反撃する為、決定的な一撃を与えきれずにいた。

「リヨンにゃん!」
「うおおお!!」

 ミミとアッシュさんが参戦する。アッシュさんは大剣を軽々と振り回し、連続攻撃でポボロアーヌを圧倒していた。魔剣の『振軽斬重』の効果で、斬撃時には重い一撃となる。

「すごいぞこの剣!軽くて力が入るぜ!」

「くっ、何という圧力だ…。」

 ポボロアーヌは防戦一方に追い込まれていた。

「にゃにゃ!休む暇は与えないにゃん!」

 アッシュさんの攻撃に合わせて、ミミは反対側に回り込み、『甲亀鬼の手甲』で打撃をお見舞いする。ミミは接近戦が得意で、ポボロアーヌの身体には拳の陥没跡が表れ始めた…。

「グワァー!!」

 直ぐにポボロアーヌからの反撃が始まるが、ミミは素早く回避して、入れ替わるようにしてリヨンさんの攻撃が始まった。

「縮地!風刃!雷刃!」

 リヨンさんは、縮地で一瞬にしてポボロアーヌの至近距離まで間合いを詰めて、魔剣スキルの風刃と雷刃を繰り出した!空気を圧縮させた真空の斬撃と、雷を帯電させた電撃の斬撃だ。

「グァァー!」

 ポボロアーヌは、アッシュさんの大剣による一撃に続き、ミミの打撃攻撃、更にリヨンさんの素早い攻撃にも対応できなかった。

 再びポボロアーヌの大鎌による反撃の際に、リヨンさんとミミさんがスイッチする。

「『爆裂拳』にゃあ!にゃにゃにゃにゃにゃ!」

 ミミから素早く、強烈なパンチが連続して繰り出される。その様子は、七つの星を持つ男を連想させるほどの激しさであった。ポボロアーヌの身体には拳ほどの大きさの陥没跡が多数見られている。

「グワァー!!」

 ミミの打撃で重傷を負い、動きが止まったポボロアーヌの前には、アッシュがすでに立ちはだかっていた。彼は大剣を高々と掲げていた...。

『スキル 一刀両断!!』

 ポボロアーヌは、回避することもできずに頭から真っ二つにされてしまい、そのまま息絶えた。

 ポボロアーヌの死体は、角や牙や爪などの素材と、大鎌を残して消滅した。

「ウァォー!!」「やったわね。」「うっしゃー!」「やったにゃー!」

「見事な連携攻撃じゃったの。これでこの国の犯罪ギルドも壊滅じゃ。皆ご苦労じゃった。」

 この紛争により、ソウルイーターの構成員の一部の者は命を落とした。しかし、残りの者は、生き残り、王国騎士団に身柄を引き渡された。これから、自分たちの犯した罪を償うことになるだろう。

  地下のこの施設は、封鎖され、ひとまずは国の管理下に置かれるだろう…。

  それにしても、アンダーグラウンドの有力ギルドが、魔族の手引きにより支配されていたことには驚いた。これも、魔族の活性化や、魔王降臨の予兆の表れだろうか…。

「それにしても、リヨンよ、無茶をしおって。心配したぞ。」

「ミリモル様、ご心配おかけして申し訳ございませんでした。」

「レイ様も、申し訳ごさいません。」

「リヨンさん、こういう時は謝罪じゃなくて…。」

「感謝!でしたよね?クスッ。前にレイ様がミリモル様に言われていましたよね?」

「あちゃ~!」

「はっはっはっ。お前たち、だいぶ仲良くなったじゃないか?さあ、帰ろうか。」

「リヨン!レイ君とベタベタしないで!あっ、お師匠!待ってくださいよ~!」

  私は、ポボロアーヌの残した戦利品と、盗まれたマジックバッグをタイゲンカバンにしまい、移動を始めた。ガラフさんたちのおかげで、犯罪ギルドの構成員たちも移動が済んでいるようだ。

「おい!ちょっと待ってくれ!」

「はい、どうしました?」

「この魔剣を返そう。非常に素晴らしい剣だった。それと、これからのことなんだが…コホン…よかったらなんだが…」

「ああ。そうでしたよね。申し訳ありません。すっかり忘れていましたよ。もう私の中では、あなたは既に仲間でしたよ。よかったら私たちと一緒にエチゴヤをやりませんか?」

「仲間…か…。いや、貴殿には強制の首輪から解放してもらった恩がある。これからは、貴殿を主と仰ぎ、仕えることにしよう。」

「そんな大層な人間ではありませんよ。まあ、これからよろしくお願いします。アッシュさん!」

 こうして、またもや騒動に巻き込まれたエチゴヤ一行だったが、結果的に犯罪組織を壊滅させ、魔族からの支配を事前に阻止することに成功した。元グラディエーターのアッシュさんを仲間に加え、また新たな旅へと向かうことになるエチゴヤの仲間たちであった。

― to be continued ―
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