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第3章 覚醒編
第57話 ソウルイーター(リヨン視点)
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◇◇◇◇ リヨン視点 ◇◇◇◇
◇ 闇オークション ◇
地図通りに町外れの住宅に到着した。普通の家に見えるが、玄関に怪しげな男が立っていた。アングラ関係者以外が侵入しないように見張っているのだろう。
(元アサシンを舐めないでよね…。潜入は得意なのよ。)
男の脇に隠れてから小石を拾い少し奥の草むらに投げた。
《ゴトッ…。》
「な、何だ!誰かいるのか!?」
入り口の男は、小石の音に反応して、音の原因を調べに持ち場を離れた…。ほんの二メートル程度離れただけだが、私にはそれで充分だ。気配を殺して一瞬で建物内に潜入する。男には気付かれずに潜入に成功した。
建物内は一般家屋を改造してある為に、普通の家と変わらない。建物の一階部分は特に人はいなそうだ。二階へ上がる階段と下に降りる階段があるのはクナップスの時と同じであった。私は躊躇うことなく地下に降りていった。
長い地下への階段を進んで行く…。到着した地下フロアは案の定、闇オークション会場となっていた。かなり広い空間が確保されており、魔光灯などの魔道具で明るく照らされている。
床から天井までは7~8メートルはありそうだ。ここより500~600メートルくらい先にステージが見える。ステージの手前側は椅子がたくさん並べられており、そこでオークションをやっているのではないかと思う。
現在はまだ開催されていないようで、会場に人気はない。私がいる出入り口側には様々な店が並んでおり、かなりの人が賑わっている。屋根付きの店舗が連なっており、ここは地下というよりも一つの街と錯覚しそうである。
この地下施設に来ているのは、殆どがソウルイーターの構成員だったり、その関係者なのだろう。ただ、私が部外者であるという見られ方はしていないらしく、絡まれることもなく普通に行動できている。
私は、飲食街を歩きながらガイを探している。それらしい人物は見つからず、飲食店が並ぶ通りを抜けて闇オークション会場らしい場所に差し掛かる。
「どなたかお探しですか?迅雷のリヨンさん!」
「き、キサマは!!」
ガイだ!奴は立ち並ぶ家屋の屋根に座り、見下ろす形でこちらに声を掛けてきた。
「もしかして私をお探しで?」
「あれこれ言わなくてもわかっているじゃないの。それならば盗んだものをさっさと返して頂けるかしら?」
「断ると言ったら?」
「身をもって償って頂くわね。」
「随分と強気じゃないのかな?でも~ここは俺達のアジトだぜ!おめーが頭下げて頼む所じゃねーの?まあいいや。アンタいい身体しているじゃんか。少し楽しませて貰うかな?おい、おめーら!ひん剥いて連れてこい!」
「ひゃほー!」「おー!」「うぉー!」
ガイの言葉にいつの間にか人だかりが出来てしまっている。まさか…奴に誘導されたか!?
「くっ仕方ない…。」
周囲に30人はいるだろうか?私は双剣を抜き構える。
『電光石火!!』
この数相手では普通に戦うのは不利なので、『電光石火』で基礎能力を底上げして一気に蹴散らすことにする。相手の手首を落としたり、腱を切り付けたりして命までは取らないまでも、戦闘不能になる程度の重傷を負わせながら敵の集団を無力化していく。
「うわぁー!」「ぎゃー!」「いてぇー!いてぇよぉ!」
私は電光石火の効果により、人間離れした速度と力を発揮して、次々と敵を斬り伏せていく。殆どの男達は私の動きに目も眩むほどで、反撃する前に倒されていた。
「ほぅ…。流石は伝説のアサシン様だな。だがな。」
私の背後から声がした。振り向くと、一人の男が素早く刀を振り下ろしてきた。私は反射的に回避行動に入り、その隙にレイ様から頂いたバッグから回復薬を取り出して一気に飲み干した。この男もアサシンらしい。そして、彼の後ろには同じくアサシンらしき者達が10名ほど並んでいた。
彼らは連携して私を攻撃してきたが、私は『シールドスキル』で敵の攻撃を無効化しながら、自分の攻撃を確実に当てていった。彼らはスピードに自信があったかもしれないが、私はそれ以上だった。10対1の数的劣勢でも力量の差は歴然だった。結局、一瞬の隙も見せずに10名全てを殲滅した。
「なんだそりゃ!反則だぜ。」
ガイは、屋根から飛び降りて、下の家屋に入り込んだ。
「助けばかり呼ばないで、自分で戦ってみたらどうかしら?」
「うるせぇ!クソアマが!」
次から次へと増援が集まってきた。周囲には総勢100名の戦闘員が私を取り囲んでいる。
(流石に多いわね…)
1対100は流石に覚悟が必要だ。隙を見せれば人数で押し込まれて、こちらが無力化させられてしまう…。私は、額に流れ落ちる汗を拭いながら呼吸を整える。
「おーい!リヨンさ~ん!」
遠くで私を呼ぶ声がして振り返ると、レイ様にミリモル様、ミミさん、ミザリ、ガラフさん、ゼスさんに、ユーリさんの錚々たるメンバーが姿を現したのである。みなさん、危険を承知で私の救援に来てくれたのだ。驚きや感動が重なって涙が溢れだす。
(ありがとうございます!)
「パラライズ!」
『にゃおー!!』
ミザリは、空中に魔法陣を描きながら呪文を唱え、ミミさんは、音波攻撃を仕掛けた。ミザリは短期間のうちに魔法のレパートリーを増やしたようだ。流石ミリモル様の特訓の成果だ。
彼女が凄いのは、通常なら対象者が単数限定のパラライズの魔法だが、どうやら広範囲で効果が発動している様子だ。一気に30名程度の戦闘員が麻痺状態に陥り、身動きが取れなくなったようだ。やはり、レイ様やミリモル様が見込んだ通り、天才的なセンスを持っているのかも知れない。
ミミさんの音波攻撃にも多数の敵が次々と倒れていった。普通の人間ならば、あの音波攻撃に当たれば強いめまいが生じ、立っていられなくなるそうだ。
その後に、ミリモル様、ガラフさんの魔法攻撃や、ユーリさんの弓攻撃などの遠距離攻撃が炸裂して、更に多くの者が倒れた。そして、ゼスさんの近距離攻撃に合わせて、私も素早く敵を攻撃し、周囲の戦闘員を殲滅させた。
「クソッ!テメエらよくも。」
悪人顔で悔しそうな表情のガイに対してレイ様が口を開いた。
「ガイさん。やはりあなたでしたか。私たちに気付かれずに商品を奪い、逃げきれたことが不思議でしたが、あなたの能力を解析してやっとわかりましたよ。」
「『ポーカーフェイス』のスキルで私の悪意探知を逃れ、『潜入』のスキルによってこっそり倉庫に侵入して商品を盗み、『鍵師』の能力で裏口から脱出した後に外から施錠した訳ですね。」
「何故それを!?俺の能力を解析だと?てめぇ、ただの商人じゃねぇのか?一体何者なんだ?ったく、冗談じゃねぇぞ!だが…俺にはアイツがいるぜ!見ていろよ!」
ガイは驚いた表情をした後、慌てて家屋に入り込み、助っ人らしき人物を連れてきた。
「こいつは、俺の奴隷のアッシュだ!こいつは、最強の剣闘士でなぁ。闘技場では負け無しのキングだ。俺が一声命令すれば、お前ら全員あの世行きだ!今のうちに俺様に命乞いするんだな。」
ガイの奴隷だと言われる大男が現れた。大男は、獅子人族らしく、逞しい体付きをしており、身長も二メートルはありそうだ。私が知っている獅子人族は、茶色系統の毛色の者が多かったが、彼は薄い青色の毛色だった。動きも素早そうだし、腕力もありそうだ。
「アンタらには恨みはないが、悪く思うなよ。俺はこの首輪がある限りは、奴には逆らえ。」
低く大きな声で奴隷のアッシュがそう言った。
「ん?では、あなたはその首輪が外れれば、引いて頂けるのでしょうか?」
(レイ様が何か企んでいる予感…。危険だわ。止めないと!)
「レイ様、危険です。お下がり下さい!」
「何だ?貴様は?この首輪は強制の首輪よ。誰かがどうこうできる訳ねぇ。だが、もし外せるのならキサマの言う通りにしてやるぜ!」
「聞きましたよ!皆さんも聞きましたよね?では失礼させて頂きますよ。あっ、ごめんなさい。少し屈んで頂けますか?」
「ふん!無駄だと思うが、やれるものならやってみるといい。」
アッシュは、立膝を付いてレイ様の高さに屈んだ。
「『クリエイト!』はい、外れました。」
レイ様は、『クリエイトスキル』を使い、強制の首輪をただの金属板に変化させた。このスキルはレイ様曰く、神スキルと言われる特別なスキルで、物質を自由自在に変化させたり、任意の物を作ったりできる所謂『チート』と呼ばれる能力なのだそうだ。
正直、この方の能力の非常識さには驚きを通り越して、呆れてしまった。
「はぁー!?外れただと?俺があれだけ叩いて壊そうとしても、壊れなかった首輪を板切れにしただと?何者だ?貴様…?」
「ご主人様は、とっても凄いにゃあ!」
「あらあら。レイ君、なんだかかっこいいわね!」
二人に褒められてレイ様は嬉しそうに笑顔を見せている様子…。その光景を目にすると少しイラッとしてしまう。
「アッシュさん、首輪は外しました。約束通り、そこでおとなしくしていてください。あっ、私は商人です。エチゴヤのサカモト・レイと申します。」
「お、おう…。」
「有り得ん!有り得んぞ!強制の首輪がそんなに簡単に…。あれは、ものすごく硬い素材で出来ていて、お前如きがどうこうできる品ではないのだ…。クソッ!」
「ガイさん、あなたは一つ重大なミスを犯しました。それは、私たち『エチゴヤ』を敵に回したことですよ。」
「ふざけるな!てめぇらに付き合ってられるかよ!お頭に会わせてゃる!てめぇらでは絶対に叶わない相手だ。」
ガイは、血の気が引いたような表情になっていた。どうやらショックが大きかったようだ。彼は取り乱して、ギルドのボスに助けを求めるためにその場を立ち去ろうとしている。その時である…。
《ザクッ!バタン!》
鋭い音が響き、ガイは胸を一突きされて崩れ落ちた。ガイが悲鳴すら上げられない程の一瞬の出来事だった。
「ふん。敵の前で逃げ出すとは情けない。根性なしの役立たずが!」
もう既に絶命しているガイの遺体を蹴り飛ばし、剣についた血をペロッと舌でなめ回していた。どうやら彼がこのギルドのボスらしい。彼は人間だが、奴隷のアッシュと同じくらいの巨体で、強さを感じさせるオーラを漂わせている。
「俺がこのギルドのボス、ナグラムだ。よくも大事なギルドをめちゃめちゃにしてくれたな。これで、王国支配が遠のいちまった。しっかりと落とし前付けて貰うぞ!」
「ナグラムよ!寝ぼけた事を言うんじゃないわい。ワシの目の黒いうちは、そなたの好きにはさせないよ!」
「ふん!ババアめが!お前もクソ虫のように潰してやる。おい、おめーら!やっちまえ!」
ナグラムの声に応えて、物陰から数多くの戦闘員が現れた。その数は約200人!かなりの増員だ…。
「くっ、まだこんなにも…。」
さすがアングラナンバーワンギルドだけあって、構成員の数もかなりのものだった。しかし、私たちのメンバーはみんな個々に優れた能力を持っている。負けるわけにはいかないのだ…。
― to be continued ―
◇ 闇オークション ◇
地図通りに町外れの住宅に到着した。普通の家に見えるが、玄関に怪しげな男が立っていた。アングラ関係者以外が侵入しないように見張っているのだろう。
(元アサシンを舐めないでよね…。潜入は得意なのよ。)
男の脇に隠れてから小石を拾い少し奥の草むらに投げた。
《ゴトッ…。》
「な、何だ!誰かいるのか!?」
入り口の男は、小石の音に反応して、音の原因を調べに持ち場を離れた…。ほんの二メートル程度離れただけだが、私にはそれで充分だ。気配を殺して一瞬で建物内に潜入する。男には気付かれずに潜入に成功した。
建物内は一般家屋を改造してある為に、普通の家と変わらない。建物の一階部分は特に人はいなそうだ。二階へ上がる階段と下に降りる階段があるのはクナップスの時と同じであった。私は躊躇うことなく地下に降りていった。
長い地下への階段を進んで行く…。到着した地下フロアは案の定、闇オークション会場となっていた。かなり広い空間が確保されており、魔光灯などの魔道具で明るく照らされている。
床から天井までは7~8メートルはありそうだ。ここより500~600メートルくらい先にステージが見える。ステージの手前側は椅子がたくさん並べられており、そこでオークションをやっているのではないかと思う。
現在はまだ開催されていないようで、会場に人気はない。私がいる出入り口側には様々な店が並んでおり、かなりの人が賑わっている。屋根付きの店舗が連なっており、ここは地下というよりも一つの街と錯覚しそうである。
この地下施設に来ているのは、殆どがソウルイーターの構成員だったり、その関係者なのだろう。ただ、私が部外者であるという見られ方はしていないらしく、絡まれることもなく普通に行動できている。
私は、飲食街を歩きながらガイを探している。それらしい人物は見つからず、飲食店が並ぶ通りを抜けて闇オークション会場らしい場所に差し掛かる。
「どなたかお探しですか?迅雷のリヨンさん!」
「き、キサマは!!」
ガイだ!奴は立ち並ぶ家屋の屋根に座り、見下ろす形でこちらに声を掛けてきた。
「もしかして私をお探しで?」
「あれこれ言わなくてもわかっているじゃないの。それならば盗んだものをさっさと返して頂けるかしら?」
「断ると言ったら?」
「身をもって償って頂くわね。」
「随分と強気じゃないのかな?でも~ここは俺達のアジトだぜ!おめーが頭下げて頼む所じゃねーの?まあいいや。アンタいい身体しているじゃんか。少し楽しませて貰うかな?おい、おめーら!ひん剥いて連れてこい!」
「ひゃほー!」「おー!」「うぉー!」
ガイの言葉にいつの間にか人だかりが出来てしまっている。まさか…奴に誘導されたか!?
「くっ仕方ない…。」
周囲に30人はいるだろうか?私は双剣を抜き構える。
『電光石火!!』
この数相手では普通に戦うのは不利なので、『電光石火』で基礎能力を底上げして一気に蹴散らすことにする。相手の手首を落としたり、腱を切り付けたりして命までは取らないまでも、戦闘不能になる程度の重傷を負わせながら敵の集団を無力化していく。
「うわぁー!」「ぎゃー!」「いてぇー!いてぇよぉ!」
私は電光石火の効果により、人間離れした速度と力を発揮して、次々と敵を斬り伏せていく。殆どの男達は私の動きに目も眩むほどで、反撃する前に倒されていた。
「ほぅ…。流石は伝説のアサシン様だな。だがな。」
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彼らは連携して私を攻撃してきたが、私は『シールドスキル』で敵の攻撃を無効化しながら、自分の攻撃を確実に当てていった。彼らはスピードに自信があったかもしれないが、私はそれ以上だった。10対1の数的劣勢でも力量の差は歴然だった。結局、一瞬の隙も見せずに10名全てを殲滅した。
「なんだそりゃ!反則だぜ。」
ガイは、屋根から飛び降りて、下の家屋に入り込んだ。
「助けばかり呼ばないで、自分で戦ってみたらどうかしら?」
「うるせぇ!クソアマが!」
次から次へと増援が集まってきた。周囲には総勢100名の戦闘員が私を取り囲んでいる。
(流石に多いわね…)
1対100は流石に覚悟が必要だ。隙を見せれば人数で押し込まれて、こちらが無力化させられてしまう…。私は、額に流れ落ちる汗を拭いながら呼吸を整える。
「おーい!リヨンさ~ん!」
遠くで私を呼ぶ声がして振り返ると、レイ様にミリモル様、ミミさん、ミザリ、ガラフさん、ゼスさんに、ユーリさんの錚々たるメンバーが姿を現したのである。みなさん、危険を承知で私の救援に来てくれたのだ。驚きや感動が重なって涙が溢れだす。
(ありがとうございます!)
「パラライズ!」
『にゃおー!!』
ミザリは、空中に魔法陣を描きながら呪文を唱え、ミミさんは、音波攻撃を仕掛けた。ミザリは短期間のうちに魔法のレパートリーを増やしたようだ。流石ミリモル様の特訓の成果だ。
彼女が凄いのは、通常なら対象者が単数限定のパラライズの魔法だが、どうやら広範囲で効果が発動している様子だ。一気に30名程度の戦闘員が麻痺状態に陥り、身動きが取れなくなったようだ。やはり、レイ様やミリモル様が見込んだ通り、天才的なセンスを持っているのかも知れない。
ミミさんの音波攻撃にも多数の敵が次々と倒れていった。普通の人間ならば、あの音波攻撃に当たれば強いめまいが生じ、立っていられなくなるそうだ。
その後に、ミリモル様、ガラフさんの魔法攻撃や、ユーリさんの弓攻撃などの遠距離攻撃が炸裂して、更に多くの者が倒れた。そして、ゼスさんの近距離攻撃に合わせて、私も素早く敵を攻撃し、周囲の戦闘員を殲滅させた。
「クソッ!テメエらよくも。」
悪人顔で悔しそうな表情のガイに対してレイ様が口を開いた。
「ガイさん。やはりあなたでしたか。私たちに気付かれずに商品を奪い、逃げきれたことが不思議でしたが、あなたの能力を解析してやっとわかりましたよ。」
「『ポーカーフェイス』のスキルで私の悪意探知を逃れ、『潜入』のスキルによってこっそり倉庫に侵入して商品を盗み、『鍵師』の能力で裏口から脱出した後に外から施錠した訳ですね。」
「何故それを!?俺の能力を解析だと?てめぇ、ただの商人じゃねぇのか?一体何者なんだ?ったく、冗談じゃねぇぞ!だが…俺にはアイツがいるぜ!見ていろよ!」
ガイは驚いた表情をした後、慌てて家屋に入り込み、助っ人らしき人物を連れてきた。
「こいつは、俺の奴隷のアッシュだ!こいつは、最強の剣闘士でなぁ。闘技場では負け無しのキングだ。俺が一声命令すれば、お前ら全員あの世行きだ!今のうちに俺様に命乞いするんだな。」
ガイの奴隷だと言われる大男が現れた。大男は、獅子人族らしく、逞しい体付きをしており、身長も二メートルはありそうだ。私が知っている獅子人族は、茶色系統の毛色の者が多かったが、彼は薄い青色の毛色だった。動きも素早そうだし、腕力もありそうだ。
「アンタらには恨みはないが、悪く思うなよ。俺はこの首輪がある限りは、奴には逆らえ。」
低く大きな声で奴隷のアッシュがそう言った。
「ん?では、あなたはその首輪が外れれば、引いて頂けるのでしょうか?」
(レイ様が何か企んでいる予感…。危険だわ。止めないと!)
「レイ様、危険です。お下がり下さい!」
「何だ?貴様は?この首輪は強制の首輪よ。誰かがどうこうできる訳ねぇ。だが、もし外せるのならキサマの言う通りにしてやるぜ!」
「聞きましたよ!皆さんも聞きましたよね?では失礼させて頂きますよ。あっ、ごめんなさい。少し屈んで頂けますか?」
「ふん!無駄だと思うが、やれるものならやってみるといい。」
アッシュは、立膝を付いてレイ様の高さに屈んだ。
「『クリエイト!』はい、外れました。」
レイ様は、『クリエイトスキル』を使い、強制の首輪をただの金属板に変化させた。このスキルはレイ様曰く、神スキルと言われる特別なスキルで、物質を自由自在に変化させたり、任意の物を作ったりできる所謂『チート』と呼ばれる能力なのだそうだ。
正直、この方の能力の非常識さには驚きを通り越して、呆れてしまった。
「はぁー!?外れただと?俺があれだけ叩いて壊そうとしても、壊れなかった首輪を板切れにしただと?何者だ?貴様…?」
「ご主人様は、とっても凄いにゃあ!」
「あらあら。レイ君、なんだかかっこいいわね!」
二人に褒められてレイ様は嬉しそうに笑顔を見せている様子…。その光景を目にすると少しイラッとしてしまう。
「アッシュさん、首輪は外しました。約束通り、そこでおとなしくしていてください。あっ、私は商人です。エチゴヤのサカモト・レイと申します。」
「お、おう…。」
「有り得ん!有り得んぞ!強制の首輪がそんなに簡単に…。あれは、ものすごく硬い素材で出来ていて、お前如きがどうこうできる品ではないのだ…。クソッ!」
「ガイさん、あなたは一つ重大なミスを犯しました。それは、私たち『エチゴヤ』を敵に回したことですよ。」
「ふざけるな!てめぇらに付き合ってられるかよ!お頭に会わせてゃる!てめぇらでは絶対に叶わない相手だ。」
ガイは、血の気が引いたような表情になっていた。どうやらショックが大きかったようだ。彼は取り乱して、ギルドのボスに助けを求めるためにその場を立ち去ろうとしている。その時である…。
《ザクッ!バタン!》
鋭い音が響き、ガイは胸を一突きされて崩れ落ちた。ガイが悲鳴すら上げられない程の一瞬の出来事だった。
「ふん。敵の前で逃げ出すとは情けない。根性なしの役立たずが!」
もう既に絶命しているガイの遺体を蹴り飛ばし、剣についた血をペロッと舌でなめ回していた。どうやら彼がこのギルドのボスらしい。彼は人間だが、奴隷のアッシュと同じくらいの巨体で、強さを感じさせるオーラを漂わせている。
「俺がこのギルドのボス、ナグラムだ。よくも大事なギルドをめちゃめちゃにしてくれたな。これで、王国支配が遠のいちまった。しっかりと落とし前付けて貰うぞ!」
「ナグラムよ!寝ぼけた事を言うんじゃないわい。ワシの目の黒いうちは、そなたの好きにはさせないよ!」
「ふん!ババアめが!お前もクソ虫のように潰してやる。おい、おめーら!やっちまえ!」
ナグラムの声に応えて、物陰から数多くの戦闘員が現れた。その数は約200人!かなりの増員だ…。
「くっ、まだこんなにも…。」
さすがアングラナンバーワンギルドだけあって、構成員の数もかなりのものだった。しかし、私たちのメンバーはみんな個々に優れた能力を持っている。負けるわけにはいかないのだ…。
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