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第2章 初めての旅

第51話 王都再び

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◇ ローランネシア王国 王都ミキ ◇

 遠くに白い城壁が輝いていた。あれが王都ミキだ。オグリンキャップの快走のおかげで、予定よりも一日早く到着できたのだ。王都の正門は、多くの来訪者たちでにぎわっている。守衛たちは、旅から帰ってきた私たちを温かく迎え入れてくれた。

 王都は広大だった。入口からミリモル邸までは、徒歩では相当な時間が掛かる。今回はオグリンキャップがいるから楽チンだ。先日までは、乗り合いの馬車で移動していたことを思い出す。

 美しい街並みを眺めながら、私は懐かしく思った。王都ミキの街並みは、私が夢見たヨーロッパの風景そのものだった。古びた石畳に走る馬車や人々の姿は、まるで絵画から飛び出してきたかのようだった。

 商業区を抜けると、統一感のある家屋が立ち並ぶ居住区に差し掛かった。街を歩く人々は活き活きとしており、国王の統治が上手く行っていることが伺えた。

 居住区の先には貴族特区があった。貴族特区に行くには検問所を通らなければならない。一般人は通行許可証が無いと通れない。私はミリモルさんに身元引受け人になってもらっているので、許可証を持っている。高級感が溢れる貴族の邸宅が並ぶ中を馬車は進んだ。王城より直ぐ手前にある邸宅がミリモル邸だ。

◇ ミリモル邸 ◇

 数日ぶりにミリモル邸に帰ってきた。玄関を開けると、使用人の方々が大勢出迎えてくれた。驚いたし照れくさかったが、嬉しかった。

 料理長やメイドさん達に挨拶していると、奥から小柄で美しい娘が現れた。

(こんな人いたかな?新しく雇われた方だろうか?)

「レイや、よく戻ったな。道中大丈夫じゃったかの?」

「その喋り方は、まさかミリモルさん?」

「そうじゃ。良くわかったな。フフッ、美しいじゃろう。秘蔵の魔法書から忘れられし古代魔法『若返りの魔法』を会得したのじゃよ。」

「この短期間によく会得できましたね。実はタイゲンさんに会った後から、そんな気がしていました。ある意味、ミリモルさんの執念を感じますね。」

「わはは!言うじゃないか。あの凛々しいお姿を拝見した途端に、女子の部分が目覚めてしまったようなのじゃ。まあ、この術は長期間の持続効果がないのが欠点じゃの。して、レイや、その者達は?ん?あなたは…。」

「お久しゅうございます。ミリモル様。」

「ガラフ殿か。これまた珍しい方にお会いできたものじゃ。50年くらい経つか。やはりダークエルフは変わらぬの。」

「ミリモルさん。実は…。」

 私はペルモートでの出来事を話した。下級魔族の襲撃、ハマカゼ村の滅亡、二人がその生き残りであることなどを。

「むぅ…。お主の言うことだ。信じる他あるまい。じゃが、事態は悪い方向に進んでおるな。奴らは魔王誕生の為に本気で動き始めたということじゃろう。」

「私たちはアモアという魔族を追ってサルバネーロへ向かおうかと思います。」

「国境の地サルバネーロか。あそこは山岳地帯じゃから、山賊やら魔物なども多い。充分準備してから行った方が良いじゃろう。」

「そうですね。そうします。そうだ。ミリモルさんにお願いがあります。ガラフさんの娘さんのミザーリアさんですが、類まれない魔法資質の持ち主だと私は見込んでいます。しばらくの間、ミリモルさんに魔法指導をお願いしたいと思いますが、いかがでしょうか?」

「そうか。ならば能力を調べさせて貰うぞ。フムフム…なぬ!?何だこの娘は?火、水、風、土、雷、闇の属性持ちじゃと!?普通の魔法師は一、二種類持っているくらいじゃ。この異常な数の魔法適正に加えて、魔力の基礎能力が熟練魔法師を既に超えておるわ。確かに類まれなき資質持ちじゃわ。レイよ良くやった。この娘はワシが預かろう。」

「!?レイ君待って!私はレイ君の側仕えになることを決めたのよ。私もサルバネーロに同行させて貰えないかしら?」

「ええ勿論です。その時はお願いします。ただ上級魔族討伐までは、もうしばらく準備が必要です。その時にはミザーリアさんに是非協力して欲しいのです。ですから、それまでにミリモルさんに魔法を習い、能力を向上しておいて頂きたいのです。アモアはそれだけの相手と言うことです。御理解下さい。」

「あらそうだったのね!わかったわ。しっかり修行してレイ君の役に立ってみせるわ!」

「ミリモル様、私からも娘のこと宜しくお願い致します。」

 ミザーリアさんとガラフさんは、ミリモルさんのご好意で、しばらくの間ミリモル邸に滞在することになった。ミザーリアさんは、ミリモルさんの元で修行することになり、ガラフさんは、フリン君をサポートしてエチゴヤの運営業務を手伝ってもらうことになった。

 不在中、エチゴヤの方ではフリン君が良くやってくれていたようだ。商業ギルドとのポーションの取引、ポーションの瓶の納品管理、メサとの魔道具商品の納品、発注、必要素材の収集など、完璧にこなしてくれていた。まだ17歳の少年がここまでできるのは驚きだ。まあ、俺も見た目は20歳なんだけれども…。

 エチゴヤの商品や素材は瞬く間に溢れてしまったために、ミリモルさんが倉庫の一部を貸してくれていたようだ。『超純塩』や『超純水』の取り扱いも増えたので、更に倉庫を占領しかねないが、ペルモートからの移動中に作っていた『マジックバッグ』が複数あるので、フリン君に使い方を説明して渡しておいた。異次元空間収納という普通なら手にすることのできないアイテムに大変驚いていた。

 さて、私も滞在期間中に仕事しなくちゃね。商売で廉価版ポーションが大量に売れたことや高品質ポーションの在庫が心許ないことを思い出した。前回同様、リヨンさんに手伝ってもらいポーション作りに取り掛かる。

 同時にメイドさんや料理長にも協力要請して湯沸かしもやっている。湯沸かしは、浴場が完成した際に入浴時に使うことを想定しての準備だ。

 ポーションや魔ポーションに関してはフリン君の働きにより材料もポーションの瓶も充分に余裕があった。二回目なのでリヨンさんと連携して一気に大量生産した。

 湯沸かしは初めてだった。大釜を二つ用意してもらい釜に超純水を注いでおく。加熱には魔コンロを使用し安全限界まで火力をあげてから沸かしてもらう。熱くなり過ぎない丁度よい湯加減でタイゲンカバンに収納するという一連の作業を何度も繰り返した。結果、500リットル近くのお湯をストックできた。

 前の世界では面倒に感じていた入浴だったが、今では心待ちになっている自分が意外に思えてならなかった…。

― to be continued ―
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