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第2章 初めての旅

第48話 異空館(前編)

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 我々を狙った暗殺者は、『異空館』という古代の魔道具の力によって異次元空間へ逃げ込んだようだ。我々は、『異空館』に潜入することを決断した。しかしながら、相手の戦力や強さ、能力などは不明である。万が一戦力に格差があれば、撤退も視野に入れている。

 片眼鏡で調べた情報によると、異空館の異次元空間内は、それほど広くはないことが分かっている。そこには建物があり、襲撃者または、その手下が潜んでいることは明らかである。異次元空間への出入りには条件があり、例外はないのだという…。

 潜入を決意した最大の理由は、片眼鏡という神器の解析によって、『異空館』の特徴が把握できたからだ。もし異空館の仕組みが事前にわからず、情報が不足していたならば、危険と判断し、潜入を諦めていたことだろう。情報の有無で状況が大きく変わることを実感する。片眼鏡の力は本当に素晴らしい。

 今回の目的は、犯人を捕まえることと、犯行目的などの情報を収集することである。敵勢力を殲滅することも可能ならば行いたいが、まずは安全第一で仲間の被害を最小限に抑える必要がある。

「それでは、行動開始しましょう!」
 
 私は小瓶の蓋を開けると、まるで吸い込まれるようにして強制的な移動が行われた。気が付くと、屋敷が目の前に広がっていた。地面はあるが、周囲を見渡すと、空は存在せず、無の空間だけが広がっているようだ。仕組みは分からないが、空気があるようで呼吸は可能で、一定の明るさも保たれているようだ。

「ここが異次元空間か...。」

 何の干渉も受けず、無の中に存在する世界。こんな光景を目にすることになるとは、まったく予想だにしていなかった。この空間を作り出した魔族技師は、非常に優れた生産者だったことだろう。

 目の前に広がる屋敷は、自分が勝手に予想していた、不気味な幽霊屋敷とはまったく異なる物であった。それは、洋館風な建物で、中世の雰囲気を持ちながらも、卓越した技術によって造られていた。

 古の魔族技師が手掛けたとされているが、その古さは感じられない。むしろ新築のような輝きを放っている。そう言えば、タイゲンさんが造った『蔵』も年月による劣化が一切見られないことを思い出した。おそらく、似たような技術や、魔法効果が使われているのだろう。

 索敵モード(マップ機能)を駆使し、敷地や建物内に潜む敵の存在を把握する。敵の数は計七体で、全員が屋敷の内部に存在していることが明らかになった。

 敵の強さは不明だが、人間でないことが分かっており、数的にはやや劣勢程度だ。いつもよりは数的な状況は悪くなさそうだ。ただし、敵は毒矢を使うような相手であり、油断すれば一瞬で命を奪われてしまう可能性がある。従って、注意深く進む必要がある。三人にはいつでもシールドを展開できるように警戒を促しておく。

 私たちは、屋敷の内部に足を踏み入れる。シールドスキルを持つ三人(リヨン、ミザーリア、ミミ)を前衛に、私は武器を持たないまま後ろから進んでいる。

 小声で索敵情報を三人に伝える。

「この先の部屋に二体います。」

 リヨンさんがそっと中を覗き込む。

「レイ様…あれは魔物!いえ、悪魔かも知れません。」

「確かに…。倒せそうですか?」

「ええ、お任せ下さい。」

 敵は悪魔だったようだ。当初は情報収集がメインだったが、リヨンさんの反応から情報収集に加えて敵の殲滅も目標となった。

 リヨンさんは、先日新しく取得したスキル『縮地』を発動した。瞬く間に敵に近づき、首を斬り落とした。

(あれが縮地…やはり凄い!速すぎでしょう?あれは人間業じゃないや…。)
 
「リヨンさん、隣の部屋に三体います。」

 リヨンさんは、気配を殺したまま『縮地』で距離を詰め、三体とも気づかれることなく一瞬で屠っていた。

「ラストは二階です。」

 私たちは、音をたてないように静かに階段を上っていく。奥の部屋には、敵の反応がある。リヨンさんが部屋の中を覗き込んだ瞬間、彼女のシールドが展開された。

「ケケケ!やるな人間!俺様の攻撃を逃れるとはな。」

 部屋は広々とした空間で、まるでダンスホールのようだった。奥には全身が真っ黒で瞳だけが真っ白な魔物二匹が立っていた。すぐに片眼鏡で解析を始める。

- 名前:エケデーモン
- 性別:なし
- 年齢:不明
- 種族:悪魔 (下級魔族)
- 能力:爪斬撃  尾突   毒矢  炎ブレス  隠密
- 特徴:魔王復活のために各地に送り込まれた魔族の一匹。悪魔族で隠密や毒矢による攻撃を得意としている。戦闘タイプはアサシン。

 どうやら二匹とも悪魔のようである。一階にいたのも悪魔ではあるが、この二匹は明らかに強さの格が違うようだ。岬の洞窟と同様に下級魔族に相当する能力があるらしい。

「先程、お前が私たちを狙ったのだろう?目的は何だ?」

「お前ら人間は俺たちの敵だ。魔王さまが復活すれば世界は俺たちのものだ。お前は危険だとアモアさま言った。」

「アモア様?」

「アモアさまは俺たちの支配者。アモアさまのためにお前を殺す!」

「我々とは相容れない存在のようだ。では、やっちゃってください!」

(言ってて何となく黄門様っぽいな…。)

『にゃおー!!』

 ミミは、奥の悪魔を一人で対応するようだ。ミミは、音波攻撃を悪魔に向けて放ち、そのまま近接戦闘の為に突進して行った。

 近くにいる悪魔は、リヨンさんとミザーリアさんが対応する。

「ファイアーボール!」

 ミザーリアさんの手の上には巨大な火の玉が出現し、それを悪魔に向かって放った。火の玉は、メガネのお陰で精確な軌道を描いて飛んでいった。

 エケデーモンは、ギリギリところで魔法を回避し、回避先に現れたリヨンさんの攻撃を爪で受け止めた。

「やるな…人間。」

 そして、鍔迫り合いのまま、エケデーモンが炎ブレス攻撃を仕掛けた。

「くっ…。」

 リヨンさんは展開中のシールドで炎ブレスを受け止める。その後、すぐさま『縮地』で敵の背後に回り込み、斬撃を放った。しかし、エケデーモンに見切られ、逆に背後から爪攻撃を受けるが、シールドが間一髪で背後に展開し、爪攻撃を弾いていた。
 
(ん!?炎ブレスの攻撃スキルを確認したのに、解析表記がアナウンスされない…。もしかすると、人間が扱えないような特殊な攻撃能力は獲得できないのかも知れないな…。)
 
 リヨンさんとエケデーモンの戦いは互角の様相を呈している。エケデーモンは悪魔の中でも実力がある固体のようだ。一階にいた雑魚悪魔とは比較にならないほど強力だ。

 通常ならばリヨンさんにとって非常に困難な戦いになるはずだったが、先日作成したシールドスキルのアクセサリーは、予想以上の性能を発揮し、均衡した戦闘が展開されていた。

 エケデーモンの強さはアサシンのタイプに相応しく、素早い動きにより、一撃で相手を倒せるほど強力な爪攻撃が特徴だろう。さらに、死角からの尻尾攻撃も槍のような破壊力を持っている。

 リヨンさんのシールドスキル(レベル2)は、展開される時間が五分間であり、再展開までのクールダウンも五分間となっている。したがって、五分を超えるとシールドがない状態で戦闘を続けなければならない。

「リヨンさん、三分が経過しました。そろそろ決めてください。」

「了解!『電光石火!!』」

 リヨンさんの周囲には電気の放電が始まった。それは彼女が持つ固有能力である『電光石火』である。彼女の身体能力が向上し、さらに攻撃には電撃属性が宿る。これはいつもの必勝パターンだ。私やミザーリアさんも完全に観戦モードに入り、期待の眼差しでリヨンさんを見つめていた。しかし…。

「ケケケ!愚か者…。」

 エケデーモンがそう呟いたその次の瞬間…

「何っ!消えた!?」

 気づくと、リヨンさんが電光石火の状態で立ち尽くしていた。なんと、突然エケデーモンの姿が見えなくなってしまったのである。

「レイ様、気をつけてください。奴は身を隠すような能力があるかも知れません。」

(ああ、そうだった。奴は…)

《グサッ!!》

「レイ君!!」

 鈍い音が聞こえ、『索敵スキル』は、背後に反応があったことを知らせていた。

『隠密スキルを検知しました。解析しますか?』

 そのアナウンスも虚しく、私は身体が崩れるように倒れてしまった。視線を上げると、エケデーモンの尖った尻尾の先に真っ赤な血が滴っているのが見えた。当然ながら、それは私の血である。近づいて来たミザーリアさんが不安そうな顔をしている。

 しかし、『苦痛耐性スキル』のおかげで痛みはそれほど感じない。意識が薄れゆく中、恐る恐る身体の異常を確認していく。背後よりお腹を一突きされ、大量に出血している。どうやら、獲得したはずの『物理攻撃耐性』では、敵の攻撃に対抗できなかったようだ。情けない…。しかし、こんな状況でも冷静にスキル解析を進める自分の成長には感心してしまう。

『解析完了。隠密スキルを獲得。』
『物理攻撃耐性がレベル2に進化。』

「またかよ...。」

 前にも似たような状況があったなと思いながら、完全に意識を手放してしまったのだった…。

― to be continued ―
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