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第2章 初めての旅

第43話 悲しみの村

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「オグリンキャップ、急いでにゃん!」

 私たちは、ハマカゼ村で火災が発生していることを察知し、村へと急行していた。

 ミミは、この世界にやってきて、ハマカゼ村に住むダークエルフ族に助けられた。その後、彼女は私と再会するまで、ハマカゼ村で生活していた。この村は、彼女にとって第二の故郷だった。

 オグリンキャップは、更にペースを上げていく。通常の馬ならば疲れてしまう距離だが、私の『御者スキル(中級)』の恩恵により、早いペースを保ったまま進んでいた。
 
 やがて、ようやく目視で村が確認できる地点までやってきた。火の勢いは限定的だと楽観していたのだが、実際には村全体を覆うほどの広範囲な炎が広がっていた。

 馬車は、やっと村の入り口に到着した。村は真っ赤な炎に包まれており、生存者の存在は不確かだった。

「みんなー!すぐに助けるにゃん!」

「ちょっ…ミミ!!」

 ミミは、私の静止も耳に届かない様子で、村人の救出の為に飛び出して行ってしまった。まあ、ミミならば水魔法が使えるから自分の身を守ることや、火を鎮火させることなどができるだろう。

 しかし、私にはこの炎を消す方法がない。周りを見渡しても、消火に役立つ川や池などは見当たらない。今はできることを考え、最も効果的な行動をとる必要がある。言うまでもなく、まずは生存者を救出することが最優先だ。

 私は、すぐに村の中に足を踏み入れることにした。村中に広がる炎は非常に勢いが強く、建物の中に入ることは非常に危険だった。

「何と惨い...。これは全滅かもしれない...。一体誰が...?」

 情報が不足しているため、この悲劇の原因がわからなかった。盗賊や魔物の襲撃が考えられるが...。

 まずは、生存者を見つけるために片眼鏡のスキルでマップ表示し、『探索』スキルを用いて生存者の反応を探った。しかし、残念ながらキーワード『生存者』に反応する方は見られなかった。

(まさか、村の人々が全滅だって?いや、これは…ほんの僅かながら同じような反応が二つあるぞ。あそこは村長の家か?)

 私は『探索スキル』において、見逃してもおかしくないくらいの微かな反応に気づいた。それらはどちらも生存者の反応のようだが、非常に弱々しく、いつ消えてもおかしくなかった。

(時間がない!)

「リヨンさん、もしかしたら生存者がいるかも知れません。ついてきてください。」

「はい。お供します!」

 私たちは、猛スピードで村長のお宅へと向かった。

(ん?家屋の中だが、二人の反応は地下なのかも?でもどうやって地下へ行けば…。)

「うわぁ、熱つっ…。」

「レイ様、家屋への侵入は危険です。お下がりください。」

 侵入を試みるが、建物の火勢が強く、地下に入ることさえ難しかった。このままでは間に合わない!!

(建物内に入ることは無理か...しかし地下ならば...。)

(考えろ!私にはまだ何かできることがある筈だ。この状況を打開するには、人外な力が必要。この炎さえなくなればいいのだ…炎を無くす…いや…障害物を無くす!?)

「障害物を無くせばいいんです!それならこれしかありませんよね!」

 私はタイゲンカバンを取り出して、建物ごと移動することに決めた。このカバンは、見た目は普通のカバンだが、中には異次元の無限収納空間が広がっており、時間停止の力も備わった神器だった。物体の大きさや状態は問題なく収納できる。燃えたままの建物ですら、そのまま異空間へと消えてしまった...。

 私は家をカバンに収納しようと試みた瞬間、建物が一瞬で消えてしまった。

 脳内のリストには『村長の家』と表示され、名前の横には火マークが表示されていた。

 目の前には、建物が消えた地面と地下へ続く階段が残されていた。

「まあ!これは?」

「上手くいったみたいですね。恐らくは地下です。リヨンさん、行きましょう!」

「はい、レイ様。」

 私たちは地下へと降りるために階段を下りた。暗闇の中、魔道具である懐中魔灯の光を頼りに進んだ...。

(あ、誰かが倒れている!)

 反応通り二名だった。私たちは急いで近づいた。

 負傷した人は、全身が火傷でただれていた。村長やミザーリアさんだろうか?顔もわからないほどだった。意識は朦朧としており、私たちの呼びかけに反応がなかった。もう時間がなかった!

 私は、ためらわずにタイゲンカバンにストックしてある『高品質のポーション』を複数本取り出した。二人への対応となるので、リヨンさんと別々に治療にあたった。

「リヨンさん。高品質ポーションです。この方の治療をお願いします。」

「かしこまりました。」

 一本は栓を開けて直接体全体に振りかけ、もう一本は少しずつ口から与えた。

 瀕死の状態からの回復なら、本来ならフルポーションが必要だが、高品質のポーション二本ならば、かなりの回復効果が期待できた。

 負傷者の身体は、輝きを放ち始めた。顔や身体中の焼け爛れた皮膚は、美しく修復され、焼けてしまった髪も元通りに再生されていた。回復が完了すると、光は静かに収束していった。

 地下に倒れていたのは、予想通り村長のガラフさんと、娘のミザーリアさんだった。これまで、損傷が余りにもひどすぎて、人物の特定ができなかったのだ。

 全身が炎に包まれ、火傷を負ったため、服は焼けてしまい、回復後は全裸となっていた。当然丸見えだが、これは緊急事態のアレだと言っても差し支えなかった。

 呼吸は正常で、心音も問題ないことを確認した。二人ともただ気絶しているだけで、命に別状はなさそうだ。とりあえず、一安心である。

 そういえば、以前王都で購入した予備の服が何着かストックされていることを思い出した。

「リヨンさん、以前王都で購入したスペアの服ですが、彼女に着せてもよろしいでしょうか?ガラフさんには私の予備を着せることにします。」

「はい、そうですね。レイ様、彼女は私が手伝って着せますので、あまりジロジロ見ないでガラフさんの方をお願いします!」

 ミザーリアさんの方に視線を向けていることをリヨンさんに察知され、彼女に目を覆われてしまった。そのため、黙って彼女の指示に従った。

(そんなにジロジロ見ていたかなぁ~。いや、見てたな。)

「ミザーリアさんの方も着替え終わりました。では、お二人をどうされますか?」

「そうですね…この場所に放置するわけにはいきません。とりあえず、外に連れ出しましょう!」

 私はガラフさんを、リヨンさんがミザーリアさんを背負い、地下室から外に出た。

「パルマ!ジュード!カーノ!キャシュー!ララナ…。みんな死んじゃったにゃーん!」

 村長の家から100mくらい先の家屋の近くで、へたりこみ、泣き崩れているミミの姿があった。

 私は、二人以外の生存者がいないことを『探索スキル』によって知っていた。先日まで一緒に笑いあった方々を救えなかった事実に、強い悲しみを覚えた。

 ミミは村人の救助に死力を尽くしたが、残念ながらかなわなかった。しかし、必死に水魔法で鎮火につとめていたらしく、村の火災はほぼ鎮火していたのだった。

 私たちは、そっと泣き崩れているミミの元に近づいた。

「ご主人様~!ミミ、助けられなかったよぉ。うぅ…。」

 泣きじゃくるミミの姿に私も心打たれた。

「ミミは頑張ったよ!ほら、ハマカゼ村の火災は君のお掛けで収まったのですから。」

「でも…。」「あっ、村長!ミザーリアも!」

「そう。何とか助けられたよ。」
「ミミさん、辛かったでしょう?よく頑張ったわね。」

「ご主人様、リヨンにゃん!」

 私たちは、村人たちの死を目の当たりにし、涙を流した。ミミは悲しみのあまり、声を詰まらせていた。ガラフさんやミザーリアさんも気絶したままだった。私は無力さと怒りで胸が痛んだ。

(ん!!この感じは!!)

 ここからかなり遠い場所から強い悪意を感じている。もしかしたら、この悪意を向けてきている相手が、村をこんな風にしたのかも知れない。

 何とか場所を特定し、接触しようと『マップ表示』と『悪意探知』を併用して見たが、発動した途端に悪意が探知できなくなった。恐らくは探知可能な範囲から離れた場所に移動してしまったのだろう。



「クソッ、あの人間…。よくも邪魔してくれましたねぇ。まあ、実験は成功しましたから、帰りますかねぇ。おい、お前!あの人間を始末しておきなさい。」

「かしこまりました。」

― to be continued ―
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