上 下
40 / 141
第2章 初めての旅

第40話 騒動のあとに

しおりを挟む
 岬の洞窟の最深部には、下級魔族とその配下の魔物がひしめいていた。リヨンさんとミミは見事に敵を殲滅したが、我々が到着した時には、行方不明者は既に敵の手に落ちていた...。

 リヨンさんの手には、倒した下級魔族から『魔族の爪』というドロップ品があった。その硬さと鋭さから、武器の加工素材として活用できるかもしれない。タイゲンのカバンにしまっておこう。岬の洞窟を後にする際には、魔物だけでなく犠牲者の遺体もそのままにしておき、現場を荒らさずに立ち去った。

◇ 港町ペルモート ◇

 私たちはペルモートに戻り、岬の洞窟で起こった一連の出来事を街の衛兵に報告した。取り調べを受けることとなったが、岬の洞窟に残された魔物の遺骸のおかげで、亡くなった方々を殺害した容疑は晴れた。しかし、私たちは逆に英雄として称えられることになってしまった。

「おおっ!英雄たちだ!あんたたちのおかげで街は救われたんだって?本当にありがとう!今度一杯奢らせてくれよ!」

「英雄さん、今日の漁でとれたカマトトを持ってきたよ。新鮮なやつだ、受け取ってくれ!」

「あんたらが噂の英雄さんかい?息子を殺した魔物を倒してくれてありがとうね。あのままだったら、息子は死んでも死にきれなかっただろうよ。」

 こんな感じで、私たちは一日中、周りからの称賛の声を受け続けた。犠牲者が出たことは悲しいことではあるが、私たちの行動が評価されたことに心から喜びを感じた。しかし、同時に罪悪感も抱いていた。もっと早く到着できていれば、あんな惨劇は防げただろうか...。

 宿に帰る際、私は二人とは別行動をとることにした。明日、王都に向けて旅立つため、彼女たちには必要な物資の調達を頼んだ。

 私は、『シールドスキル』を付与する媒体を手に入れるため、アクセサリー屋に立ち寄った。こっそりと購入し、二人にプレゼントするつもりだった。アクセサリー屋は狭い店だったが、壁紙や陳列などから店主のセンスの良さがうかがえる店構えだった。

 店内には、さまざまな装飾品が美しく陳列されていた。価格帯は手頃なものが多かった。

 私は熟考の末、リヨンさんのために華麗な花柄のイヤリングを選んだ。ミミには、猫時代の首輪のイメージを持つ、レッドメタルの輝きが特徴的なチョーカーを選んだ。その他、商品化も見据えて複数のアクセサリーを購入して店を後にした。

◇ 宿屋 鞠音 ◇

 宿屋の自室に戻る。リヨンさんとミミはまだ買い物から戻っていないようだった。私はベッドに寝転がり、手に入れたアクセサリーを眺めていた。

 岬の洞窟での戦闘は、私が経験した中でも最も危険なものだった。特に下級魔族の攻撃は壮絶で、一撃でも受ければ、最良の場合でも瀕死の重傷、最悪の場合は即死だっただろう。今後、大切な仲間を失わないためにも、私たちの弱点である『打たれ弱さ』に対策を講じることが必須だと感じる。

 私はベッドから飛び起きた。手に入れたアクセサリーに『シールド』を付与する作業を始めた。シールドの効果を付与するだけなので、簡単にできる。ただし、私自身は戦闘スキルを持っていないため、効果を試せないのが難点だ。まあ、失敗はしていないけどね。

「よし、完成だ」

 良い機会なので、スキルを付与したアクセサリーをさらに強化してみるか。私は、すでにシールドを付与したアクセサリーを強化するために『錬成』してみた。

名前: 鉄壁のイヤリング
種類: 特殊魔道具
価値: ☆☆☆☆☆
相場価格: 金貨35枚~
効果: 防御力+5% ・シールド(レベル2)
説明: 装備者の防御力を5%上昇させる。シールドスキル(レベル2)が付与されている。※シールドスキル(レベル2)は、シールドスキル(レベル1)よりも1.5倍の耐久度を持ち、シールド展開時間は5分、リキャスト時間も5分。シールド展開中に攻撃も可能。サカモト・レイ作

 驚くことに、シールドスキルがレベル2に進化していた。これは、錬成によるスキルの進化なのだろう。シールドの耐久度がかなり向上したようだ。ただし、シールドの耐久度を超える攻撃を受ければ破壊される可能性があるので、注意が必要だろう。

 同様の性能を持つチョーカーには、「鉄壁のチョーカー」という名前が付けられていた。

「金貨35枚以上!う~ん、これってかなり価値があるんじゃないかな?」

 アクセサリーの価値だけではあまり大したことはない。そして、防御力+5%も魅力ではあるがそこまで高い価値ではないだろう。価値が高いのは、間違いなくシールドスキル(レベル2)である。

 この世界での私は、商売を生業としているので、こういう優れた物を作成して販売する稼ぎ方もアリかもしれない...。ただし、あまりにも高性能な商品を流通させるのは考えものだ。それは様々な分野でパワーバランスを崩す可能性があるからだ。極端な話、それが軍事利用される可能性すらあるのだ。

 そこで、個数を限定したり、廉価版を作成して販売するなどの工夫が求められるだろう。装備品の開発については、将来的に色々と試してみることにしよう。

 アクセサリーは完成したが、まだ二人は帰ってこない。私は再びベッドに寝転がり、天井を見つめながら考え事に耽っている。今回の戦闘での下級魔族のことだ。もしも、彼らよりもさらに強力な存在が現れたとしたら、勝つことはできるのだろうか?いや、現状ではかなり難しいとしか言いようがない。私たちは今後、理不尽な暴力に対抗できる力を身につけていかなければならない。

「レイ様、ただいま戻りました!」
「ご主人様、ただいまにゃん!」

「ああ、ニ人ともお帰りなさい。今日は本当にお疲れさまでした。」

 私はベッドから起き上がり、笑顔で二人を出迎える。

「街の皆さんからもたくさんお礼を言われましたよ。」

「それは良かった。私たちの頑張りが評価されるのは嬉しいものですね。そうだ、二人に贈り物を用意しました。シールドスキルが付与されたアイテムです。ぜひ身につけてください。」

 私は、それぞれに手渡し、簡単に機能説明もしておいた。

「嬉しい!レイ様、ありがとうございます。」
「わぁ!ご主人様、ありがとうにゃん!」

 感激のあまり、二人が一斉に抱きついてきた。さまざまな感触が一気に私に伝わってきたため、私は戸惑ってしまった。

(柔らかくていい香りがする!っていかんいかん!)

 女性に慣れていない私は、こうした状況にどう対処すべきか悩んでしまった...。

 何にせよ、この特別なアイテムによって二人が戦闘時に危険な状況に陥ることが回避されるなら、それは大きな収穫と言えるだろう。

 私たちは、二人が買ってきてくれた食料や生活用品などをタイゲンカバンに収納し、旅の準備を整えた。明日の出発に向けて万全の態勢を整えたのであった...。

― to be continued ―
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界に射出された俺、『大地の力』で快適森暮らし始めます!

らもえ
ファンタジー
旧題:異世界に射出された俺、見知らぬ森の真中へ放り出される。周りには木しか生えていないけどお地蔵さんに貰ったレアスキルを使って何とか生き延びます。  俺こと杉浦耕平は、学校帰りのコンビニから家に帰る途中で自称神なるものに拉致される。いきなり攫って異世界へ行けとおっしゃる。しかも語り口が軽くどうにも怪しい。  向こうに行っても特に使命は無く、自由にしていいと言う。しかし、もらえたスキルは【異言語理解】と【簡易鑑定】のみ。いや、これだけでどうせいっちゅーに。そんな俺を見かねた地元の地蔵尊がレアスキルをくれると言うらしい。やっぱり持つべきものは地元の繋がりだよね!  それで早速異世界転移!と思いきや、異世界の高高度の上空に自称神の手違いで射出されちまう。紐なしバンジーもしくはパラシュート無しのスカイダイビングか?これ。  自称神様が何かしてくれたお陰で何とか着地に成功するも、辺りは一面木ばっかりの森のど真ん中。いやこれ遭難ですやん。  そこでお地蔵さんから貰ったスキルを思い出した。これが意外とチートスキルで何とか生活していくことに成功するのだった。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...