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第1章 異世界に迷い込んだ男

第19話 旅の準備(中編)

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◇ 服屋 ゲッコウ ◇

 リヨンさんに案内されて、私は既製服の店『ゲッコウ』に入った。異世界の服屋は初めてだ。どんな服があるのだろうか。

 店内は清潔感があり、服が綺麗に陳列されている。日本のブティックと似た感じだが、色は地味で暗く、素材は厚くて重そうだ。冒険者向けの実用的な服が多いらしい。革や毛皮の匂いが漂っており、魔法陣が刻まれたアクセサリーや防具が目についた。

「いらっしゃいませ。どのような服をお探しでしょうか?」

 奥から美しい女性が現れた。店主らしい。スレンダーで色っぽく、スリット入りのワンピースが似合っている。

「近々、彼女と港町ペルモートまで出かけるんです。道中着ていく服を二人分見繕ってください。戦闘になっても対応できるような服装がいいですね。」

「承知しました。」

 店主以外にもう一人店員がやって来て、それぞれに専属で対応してくれることになった。私の方は生地が丈夫で動きやすいものを選んでもらった。キージャーという獣の皮で作られたレザーパンツとレザーベストだ。インナーは白のシャツだった。

「お客様。こちらはいかがでしょうか?」

 私は鏡の前に立ち、店主に勧められた服装をチェックする。

(う~ん。結構カッコイイんじゃないか?やはりスリムで若い体は何着ても様になるな。前のぶよぶよな体型じゃ絶対におかしいオヤジに見えるわな。)

「ではこれに決めます。そのまま着て帰りますね。あともうワンセット似たような物を用意しておいてください。」

「ありがとうございます!承知しました。お任せくださいませ。」

 好みの服を入手できたので満足である。さてリヨンさんはどうかな?店内を見回してリヨンさんを探す…。

「レイ様!どう…ですか?」

 恥ずかしそうに顔を赤らめながらこちらを伺うリヨンさん。動きやすそうなブーツとニーソックスと短パンとジャケットという組み合わせだった。

 リヨンさんを見て『ズキューン』と心臓が跳ねた。

「美しい…。」

 うっかりリヨンさんを目の前にして口に出してしまった。メイド服や黒装束のリヨンさんとは別の魅力がある。

「レイ様…あの…。」

「あ、ああ。リヨンさん。とってもお似合いですよ!」

 真っ赤に顔を赤らめるリヨンさん。私もきっと同じだろう…。

「良かったらもうワンセット選んでください。」

「で、ですが…。」

「移動時間に数日かかるんです。必ず必要になります。お金は大丈夫ですよ。護衛役をお願いするんです。これくらいはさせてくださいよ。」

「レイ様、ありがとうございます。」

 もうワンセットも決まったので支払いをする。

「毎度ありがとうございます。ご主人様が二着セットで銀貨四枚。奥様が二着セットで銀貨六枚でした。合計で金貨一枚を頂戴致します。」

「ご主人様!?」
「奥様!?」

 私達は同時に声を張り上げてしまった。

 店員には夫婦に見えたらしい。私達はお互い恥ずかしくなって支払いを済ませると、早足で店を後にしたのだった。

◇ 武器屋 ワホウ ◇

 最後に武器屋へ足を運んだ。私は戦いに向いていないし、武器を持っても扱えないので、護身用の武器は必要ない。

 今回はリヨンさんの武器を探しに来た。現在のリヨンさんの武器は、価値☆のアイアンソードの双剣だ。いくら『迅雷』と言われた方でも、剣の攻撃力も耐久力も最低だ。モンスター遭遇時には心もとない。

「らっしゃい!」

「こんにちは!ちょっと見せてもらいますね。」

 店の中の品定めをしていく。大剣や片手剣や槍や斧や弓矢や杖など様々な武器がある。冒険者向けの実用的な武器が多いらしく、素材の品質はイマイチだ。

 店主は筋肉質で髭面の男性だった。彼は胸元が開いたシャツとズボンとサンダルというラフな格好で接客していた。自らが武器を扱えるようで、腰には大きな斧がぶら下がっていた。

「そこのお兄さん、武器の価値がわかるのかい?大したもんだなぁ。」

「まあ、これでも商人の端くれですので。」

「そうかい。じゃあ、吹っかけたら見破られて、ぶっ飛ばされるな。ハッハッハ!」

「ぶっ飛ばしたりはしませんよ…。あはは。」

 双剣に関しては二種類しか扱っていなかった。この国を始め、この世界には質の良い武器があまり流通していないらしい。

 双剣は☆のアイアンソード(双剣)と☆☆のアルミニエッジ(双剣)だ。

 リヨンさんは手に取って素振りして感触を確かめていた。

「リヨンさん、アルミニエッジの方はどうですか?」

「アイアンソードよりは少し軽くなりましたね。切れ味はわかりませんが…。」

「武器の価値はこっちの方が優れていますよ。こっちにしておきますかね…。」

「わかりました。レイ様、武器まで支払って頂いて申し訳ありません。」

「いいんですよ。私は戦闘では役に立たないので、せめてリヨンさんの装備だけでも良くしないとね。」

「レイ様…ありがとうございます。」

 双剣なので一本銀貨一枚で合計が銀貨二枚だった。定価で購入を済ませて店を後にした。

 残念ながら王都ではこれ以上の武器は手に入らないらしい。少しでも品質を上げたいので、ちょっと手を加えようと思う。馬車の中でリヨンさんの双剣を手に取り早速錬成を始める。リヨンさんに相応しく、斬れ味も耐久力も兼ね備えるようにイメージして練り上げる……。

「よし!できた!!」

名前 クイーンエッジ
種類 双剣 (レア)
価値 ☆☆☆
相場価格 銀貨6枚~金貨1枚
効果 攻撃+25 耐久力+40 軽量
説明 アルミニエッジを錬成した改良版。アルミニエッジに比べて、斬れ味、耐久力、軽さにおいて能力が向上した。作者 サカモト・レイ

「リヨンさん、錬成したので試してみてください。今はクイーンエッジという剣になっていますよ。」

「レイ様。この剣、見た目も変わっています!刃が銀色に輝いています!凄い…素敵ですね。では…。」

 リヨンさんがクイーンエッジを手に取り、感触を試している。

「!!!」
「これは凄いです!アルミニエッジとは大違いですよ。これなら比較的硬い魔物とも戦えそうです。レイ様は一体…。」

「実は前に上級の錬成スキルを習得しちゃったんですよね。」

「ええっ!そうなんですか?錬成士は数少ないのに上級まで…。上級の錬成士は現在この国にはおりません。ですので、上級錬成士は失われた職種と言われているんですよ。どおりであの品質のポーションができてしまうのすね。」

「商人でありながら錬成スキルが身についたのは好運でしたよ。リヨンさんに喜んで頂けたなら錬成した甲斐がありました。」

「私も素敵な服や武器に見合った働きをします!」

「無理しないでくださいね。そして楽しい旅にしましょう。」

「はい!ありがとうございます。」

 帰りに野営用のテントや寝具を買い揃えたが、想像していたものより程度は良くなかった。キャンプグッズ程度の道具は欲しかったな。自分で作った方がいいかもしれない。

 とりあえず商業地区でやるべきことはやり終えたので帰宅することにした。

― to be continued ―
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