11 / 14
第十話 招かざるもの
しおりを挟む 静寂を破るかのように、カチャカチャという金属の冷たい音が鳴っている。
「外れそうもないな……。それにこの首輪……んんんっ」
ギルがベッドの上で足枷と首輪を手で確かめていた。力ずくで外そうとするも、勿論外れる訳もない。肩を落とし途方に暮れる。
「セイン様はご無事でしょうか……」
気を取り直して辺りを見渡した。部屋の中はそれなりに豪華に見える。今いるベッドも側に置かれたソファーや家具も豪華な装飾が施されていた。
ギルは立ち上がり、閉め切られていたカーテンを開ける。
「まだ暗い……」
どれくらい眠らされていたのだろう。同じ日の夜なのか、それとも数日経っているのかも分からない。窓から見える景色は暗くてあまりよく見えなかった。
直ぐに視線を入口であろう扉に移し、移動する。扉に手をかけ、押したり引いたりするもびくともしない。
「開くわけないか……わぁっ」
ため息をつこうとしたところ、扉が勝手に開いた。
「起きられましたか。バルダス陛下の命により、本日よりそちらで過ごして頂くこととなりました。今夜のお相手をご用意いたしましたのでゆっくりお楽しみください」
兵士がそう伝えると、真っ赤なドレスに身を包んだ赤髪の女性がおどおどしながら入ってくる。
「えっ? どういうことですか? あの、セイン様は? 他の皆さんはどこに?」
「皆様もゆっくり休まれております。では、失礼します」
「待ってください! それなら、セイン様に会わせっ……」
兵士はそれ以上何も言わずに扉を閉めてしまった。扉の側で女性が俯いたままじっと立っている。
「……すみません、あなたは何か知ってらっしゃいますか? お相手とは何でしょう? 私は直ぐにでもセイン様の元に行きたいのですが」
「……お名前……」
「え?」
「あなたのお名前は?」
顔も上げずに女性が尋ねてきた。
「ああ、失礼しました。私の名前はギル・クラークと申します」
女性がバッと顔を上げ食い入るように見てきた。彼女は困惑しているようにも見える。
「……ま……さかとは思うけど……さっきからあんたが言ってるセイン様って、ローンズ王国の王子じゃないわよね?」
おどおどした姿は影を潜め、睨むように視線を送ってきた。
「そうです。きっとこの城の何処かにいるはずなのですが……。えっと、ここはデール城ですよね?」
「ギル・クラーク……っ!」
女性が突然、右手でギルの胸ぐらを掴んできた。
「えっ? えっ? えっ?」
「だからあんたみたいな弱いやつにセイン様をお任せするのが嫌だったのよ!」
声を押し殺しながら怒りを露にする。
「あんた、側近としてセイン様をちゃんとお守りしなさいよ! 馬鹿じゃないの!? セイン様に何かあったらどーすんのよ!!」
「……す、すみません。本当に私が不甲斐ないばかりに……。えっと、あなたはいったい……」
女性は睨んだまま、胸に置いていた手を突き放すように離した。
「私はアリス。ローンズの先鋭部隊、騎士アリスよ。一度挨拶したことあるけど?」
ギルが首を傾げながらもアリスをよく見る。露出の高いドレスを着ていたため、鍛え抜かれた手足は隠せていない。また、赤い髪とエメラルドの瞳は見覚えがあった。
「ああ、そうですね! 確かにお会いしました。あまりにも美しいので分かりませんでした」
「なっ!」
ギルが微笑むとアリスは顔を赤く染める。
「良かった、助けに来てくださったのですか? それにしては早すぎる気もしますが……。もしかしてあれから何日も過ぎたのでしょうか?」
「知らないわよ。とりあえず何があったか話して。私のことはそれから話すわ」
「はい、わかりました」
アリスに促されるままに、デール王国に着いてからのことを話した。
「そう……分かったわ。話からすると今はセイン様が捕まった当日の夜よ。まだ三時間くらいしか経っていないわね。ギルのこの待遇からしてセイン様もそれなりの待遇を得ているとは思うけど、足枷とその首輪は付けられている可能性はありそうね」
「私もそう思います。何とかここから出て、皆さんを助けなければ……」
「アランとアルバートさんはちょっと心配ね……。アトラスの者だってバレてなければいいけど……。ちょっとその首輪、見せてくれる? ……あんた、背が高いわね。ベッドに座ってよ」
ベッドに腰掛けるとアリスが後ろに回り、首輪を確認する。
「ふーん。これが魔力を消滅させる首輪なのね。噂には聞いてたけど凄いわね。でも、これなら焼き切れそう。ちょっと熱いけど我慢してね」
「え? あつ……っ!」
焼かれるような熱さを感じた後、首輪の重みがなくなった。
「回復出来るんでしょ? 首、火傷させちゃったから自分で直してね」
「ありがとうございます。それで、アリスさんは何故ここに?」
「足枷も同じように焼き切るわね。私は調査で来ていたの。デールが特殊部隊を作っているって噂を聞いてね」
アリスは、ギルの足枷に魔法を注ぎ始める。
「あっつ……。えっと、特殊部隊?」
「そう。魔力を持つ者をこうやって閉じ込めて、女を送り込むの。そうやって魔力を持つ子供を作らせているみたいね」
「子供を!? 人間を家畜かなんかだと思っているんですか!?」
ギルが立ち上がり、足元にいるアリスを見下ろした。
「知らないわよ! でも魔法が使える人間が国に多くいれば、戦争にも魔法薬研究にも有利なのは間違いないわ。今回の戦争にも恐らく多くの魔法使いが参戦するんじゃないかしら。じゃなきゃ、戦争を起こそうなんて気になるわけないもの。ただ、私がここに来たのは昨日なんだけど、そいつらの気配がないのよね……。ぎりぎりまで魔力を封じるつもりなのかしら?」
「陛下に報告は?」
「勿論しているわ。さ、セイン様を助けに行くわよ」
足枷を外したアリスも立ち上がり、ギルの腕を叩く。
「はい! アランさんとアルバートさんも見つけます!」
「わかってるわよ。急ぎましょう」
先ずはこの部屋から上手く抜け出さなければならない。不安そうなギルとは対照的に、アリスは当たり前のように扉に向かって歩いた。
「外れそうもないな……。それにこの首輪……んんんっ」
ギルがベッドの上で足枷と首輪を手で確かめていた。力ずくで外そうとするも、勿論外れる訳もない。肩を落とし途方に暮れる。
「セイン様はご無事でしょうか……」
気を取り直して辺りを見渡した。部屋の中はそれなりに豪華に見える。今いるベッドも側に置かれたソファーや家具も豪華な装飾が施されていた。
ギルは立ち上がり、閉め切られていたカーテンを開ける。
「まだ暗い……」
どれくらい眠らされていたのだろう。同じ日の夜なのか、それとも数日経っているのかも分からない。窓から見える景色は暗くてあまりよく見えなかった。
直ぐに視線を入口であろう扉に移し、移動する。扉に手をかけ、押したり引いたりするもびくともしない。
「開くわけないか……わぁっ」
ため息をつこうとしたところ、扉が勝手に開いた。
「起きられましたか。バルダス陛下の命により、本日よりそちらで過ごして頂くこととなりました。今夜のお相手をご用意いたしましたのでゆっくりお楽しみください」
兵士がそう伝えると、真っ赤なドレスに身を包んだ赤髪の女性がおどおどしながら入ってくる。
「えっ? どういうことですか? あの、セイン様は? 他の皆さんはどこに?」
「皆様もゆっくり休まれております。では、失礼します」
「待ってください! それなら、セイン様に会わせっ……」
兵士はそれ以上何も言わずに扉を閉めてしまった。扉の側で女性が俯いたままじっと立っている。
「……すみません、あなたは何か知ってらっしゃいますか? お相手とは何でしょう? 私は直ぐにでもセイン様の元に行きたいのですが」
「……お名前……」
「え?」
「あなたのお名前は?」
顔も上げずに女性が尋ねてきた。
「ああ、失礼しました。私の名前はギル・クラークと申します」
女性がバッと顔を上げ食い入るように見てきた。彼女は困惑しているようにも見える。
「……ま……さかとは思うけど……さっきからあんたが言ってるセイン様って、ローンズ王国の王子じゃないわよね?」
おどおどした姿は影を潜め、睨むように視線を送ってきた。
「そうです。きっとこの城の何処かにいるはずなのですが……。えっと、ここはデール城ですよね?」
「ギル・クラーク……っ!」
女性が突然、右手でギルの胸ぐらを掴んできた。
「えっ? えっ? えっ?」
「だからあんたみたいな弱いやつにセイン様をお任せするのが嫌だったのよ!」
声を押し殺しながら怒りを露にする。
「あんた、側近としてセイン様をちゃんとお守りしなさいよ! 馬鹿じゃないの!? セイン様に何かあったらどーすんのよ!!」
「……す、すみません。本当に私が不甲斐ないばかりに……。えっと、あなたはいったい……」
女性は睨んだまま、胸に置いていた手を突き放すように離した。
「私はアリス。ローンズの先鋭部隊、騎士アリスよ。一度挨拶したことあるけど?」
ギルが首を傾げながらもアリスをよく見る。露出の高いドレスを着ていたため、鍛え抜かれた手足は隠せていない。また、赤い髪とエメラルドの瞳は見覚えがあった。
「ああ、そうですね! 確かにお会いしました。あまりにも美しいので分かりませんでした」
「なっ!」
ギルが微笑むとアリスは顔を赤く染める。
「良かった、助けに来てくださったのですか? それにしては早すぎる気もしますが……。もしかしてあれから何日も過ぎたのでしょうか?」
「知らないわよ。とりあえず何があったか話して。私のことはそれから話すわ」
「はい、わかりました」
アリスに促されるままに、デール王国に着いてからのことを話した。
「そう……分かったわ。話からすると今はセイン様が捕まった当日の夜よ。まだ三時間くらいしか経っていないわね。ギルのこの待遇からしてセイン様もそれなりの待遇を得ているとは思うけど、足枷とその首輪は付けられている可能性はありそうね」
「私もそう思います。何とかここから出て、皆さんを助けなければ……」
「アランとアルバートさんはちょっと心配ね……。アトラスの者だってバレてなければいいけど……。ちょっとその首輪、見せてくれる? ……あんた、背が高いわね。ベッドに座ってよ」
ベッドに腰掛けるとアリスが後ろに回り、首輪を確認する。
「ふーん。これが魔力を消滅させる首輪なのね。噂には聞いてたけど凄いわね。でも、これなら焼き切れそう。ちょっと熱いけど我慢してね」
「え? あつ……っ!」
焼かれるような熱さを感じた後、首輪の重みがなくなった。
「回復出来るんでしょ? 首、火傷させちゃったから自分で直してね」
「ありがとうございます。それで、アリスさんは何故ここに?」
「足枷も同じように焼き切るわね。私は調査で来ていたの。デールが特殊部隊を作っているって噂を聞いてね」
アリスは、ギルの足枷に魔法を注ぎ始める。
「あっつ……。えっと、特殊部隊?」
「そう。魔力を持つ者をこうやって閉じ込めて、女を送り込むの。そうやって魔力を持つ子供を作らせているみたいね」
「子供を!? 人間を家畜かなんかだと思っているんですか!?」
ギルが立ち上がり、足元にいるアリスを見下ろした。
「知らないわよ! でも魔法が使える人間が国に多くいれば、戦争にも魔法薬研究にも有利なのは間違いないわ。今回の戦争にも恐らく多くの魔法使いが参戦するんじゃないかしら。じゃなきゃ、戦争を起こそうなんて気になるわけないもの。ただ、私がここに来たのは昨日なんだけど、そいつらの気配がないのよね……。ぎりぎりまで魔力を封じるつもりなのかしら?」
「陛下に報告は?」
「勿論しているわ。さ、セイン様を助けに行くわよ」
足枷を外したアリスも立ち上がり、ギルの腕を叩く。
「はい! アランさんとアルバートさんも見つけます!」
「わかってるわよ。急ぎましょう」
先ずはこの部屋から上手く抜け出さなければならない。不安そうなギルとは対照的に、アリスは当たり前のように扉に向かって歩いた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
日は沈まず
ミリタリー好きの人
歴史・時代
1929年世界恐慌により大日本帝國も含め世界は大恐慌に陥る。これに対し大日本帝國は満州事変で満州を勢力圏に置き、積極的に工場や造船所などを建造し、経済再建と大幅な軍備拡張に成功する。そして1937年大日本帝國は志那事変をきっかけに戦争の道に走っていくことになる。当初、帝國軍は順調に進撃していたが、英米の援蔣ルートによる援助と和平の断念により戦争は泥沼化していくことになった。さらに1941年には英米とも戦争は避けられなくなっていた・・・あくまでも趣味の範囲での制作です。なので文章がおかしい場合もあります。
また参考資料も乏しいので設定がおかしい場合がありますがご了承ください。また、おかしな部分を次々に直していくので最初見た時から内容がかなり変わっている場合がありますので何か前の話と一致していないところがあった場合前の話を見直して見てください。おかしなところがあったら感想でお伝えしてもらえると幸いです。表紙は自作です。

檻の中の楽園
白神小雪
歴史・時代
フセイン政権下のイラクに暮らす主人公。彼は、独裁政権の下で何不自由無く過ごしていた。しかし、彼はある日、外国の新聞を見てしまう。その刹那、彼の中の何かが壊れていく音がした。
果たして、真実は人を幸せにできるのだろうか?
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる