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第5章 『水の国』教官編

第162話 弾丸攻略完了……こんな簡単な料理でもスキルの力が左右されますか

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「……本当に、夕食前に戻ってこられたんですね」

   四十層で転移魔法陣を使いログハウスに戻った俺は、早く夕食の準備をしなくてはと思い、いそいそとリビングへと入った。すると、美香さんが驚いた様な表情でドアの前で出迎えてくれた。
   そんな美香さんに、椅子に座っていた美希さんが背中越しに振り返りながら呆れた様に肩をすくめる。

「美香ねぇ、本当に四十層まで行ったわけないじゃない。全く、疑うってことを知らないんだから……博貴さん、何層まで行けたんです?」
「四十層まで行きましたよ」

   今朝の俺の言葉を間に受ける姉で申し訳ないと言わんばかりに、苦笑いを向けてきた美希さんに即答すると、彼女は笑顔のままピシリと固まる。
   そして、再起動すると大きく目を見開いた。

「えっ……マジで?」
「ええ、思っていたより手こずって、少し遅くなってしまいましたが」
「……どんだけ強行軍だったんだよ、博貴さん……」

   目をまん丸に見開き、呆れた様に呟く美希さんに苦笑いを返しつつ、リビングを見渡すと、残り二人の姿が見えない。気になって、ニコニコしながら正面に立つ美香さんに視線を戻した。

「あれ?   美久ちゃんと美子ちゃんは?」
「二人なら厨房にいますよ」
「厨房?」
「美久達は、博貴さんの料理は美味しいんですけど、どうも肉料理に偏りがちだから今日は自分達が作ると……」

   部屋を見渡す俺に、美香さんは頬に片手を当てつつ小首を傾げて、申し訳なさそうに眉尻を下げながら微笑んだ。
   むぅ……肉料理に偏り気味か。今までティアが側にいたからなぁ~。すっかり肉に比例して野菜を出せば問題無いという考えが染み付いていたらしい。
   ストックの食材に海産物が無いのも問題なんだよな……
   というか、俺の料理は基本的に男飯、料理イコール焼く、食べる!   なんだよ……って、待てよ。もしかして、ティアの肉好きはそんな俺の料理を食べ続けた結果なのか?
   ティアが側にいたから肉料理に偏ったんじゃなくて、俺の料理が元々肉料理に偏っていた?
   ティアの今の性格も、そんな食育の招いた結果かもしれない……野菜中心の食生活をしていたら、もっとお淑やかになってたのかなぁ……
   実際、食事の献立が性格に影響するのか分からないが、そんな考えが頭の中をグルグルと巡り呆然としていると、肉料理ばかり出していたことがショックで落ち込んだとでも思ったのか、美希さんが慌てて口を開く。

「別に、博貴さんの料理が悪いって言ってるんじゃないんだ。実際、私は美味しかったし」

   そう言ってニッコリと笑う美希さんを見て思わず、その性格がティア寄りだと思ってしまい、やっぱり肉好きは好戦的な性格になるんだろうかと肩を落とすと、今度は美香さんが慌ててフォローに入る。

「あの二人は、本気でそう思ってるわけではないんですよ」

   美希さんの追加情報が気になりそちらに視線を向けると、彼女は力強く頷いた。

「あの子達は疲れて帰ってくるであろう博貴さんに、食事を用意しておきたかったんだと思うんです。博貴さんの料理に対する批判は照れ隠しですよ」
「まっ、だろうね。美久達はここ数日の食事を楽しみにしていたし、手伝おうとした美香ねぇも断ったみたいだから、自分達だけで博貴さんを労いたいと考えてるみたい」

   姉妹ゆえの意思の解釈だろうか?   それが本当なら救われるけど、あの子達の思考回路はいまいち理解しがたいところがあるからなぁ……
   苦笑を浮かべつつそんなことを思っていると、厨房へと続く扉が静かに開かれる。美香さん達と共にそちらに目を向けると、そこには少しショボくれた美久ちゃんと美子ちゃんの姿。

「あらあら、どうしたの?」

   母の様な優しい口調とともに美香さんが二人の下に近付くと、二人は俯いたまま、不貞腐れた様に口を開く。

「むうぅ……美味しくできない……」
「なの……」

   悔しそうな美子ちゃんの言葉に美久ちゃんが同意する姿を見て、俺は思わず苦笑してしまう。
   う~ん……もしかして俺と同レベルの味を求めたのだろうか?   だとしたら、根本的に料理のスキルのレベルが違い過ぎるから無理だよな。
   元の世界で二人にどれほどの料理の腕があったかは知らないけど、この世界では料理の味はスキルに左右される。二人のスキルは【料理】レベル5のままだろうから、どんなに手の込んだ物を作ろうとしても、一応食べられる程度のレベルの物しか作れないだろう。
   ヒメも、早く料理のスキルを上げたいと嘆いていたのを思い出し、自分の限界を思い知ってしまって、美香さんに慰められながらも項垂れる美久ちゃんと美子ちゃんに近付いてその頭に手を置いた。

「上手く出来なかったのかい?」
「むぅ……この世界に来る前はよく美香ねぇの料理を手伝ってたから、上手く出来ると思ったのに……」
「どんなに頑張っても、美味しく出来ないの」

   理想通りに事を運べず、むくれながら上目遣いで見上げてくる二人に、俺は小さく微笑む。
   機嫌の悪い子供の相手は、ティアで大分慣れたなぁ俺も。

「そうか。だったら、俺が少し手を貸すから一緒に夕食を作ろうか」

   俺の提案に、二人はむくれた表情を崩さずに渋々といった感じで小さく頷いた。

   そんな訳で、俺が要所要所で手を加えることで格段に味が向上した料理が完成し、手嶋姉妹と食卓を囲む。
   メニューはチーズフォンデュ。基本、切ったパンや野菜を火にかけたワイン入りのチーズに絡めるだけの料理なのだが、俺が手を出しただけで格段に味が変わったらしい。

「……理不尽なの」
「本当だよ。作業的に簡単だからチーズフォンデュにしたのに、何で博貴さんが手伝っただけでこんなに美味しくなるの?」

   ぐちぐちと文句を言いながらも、次々とチーズを絡めたパンや野菜を口に運んでいく美久ちゃんと美子ちゃん。
   そんな二人をフォーク片手に笑顔で見ていた美香さんが、俺の方に顔を向ける。

「博貴さん。今日、四十層まで攻略したと言ってましたが、と言うことは……」
「明日からはみんなで四十一層以降の攻略を始めます」

   美香さんの言わんとすることに気付いて、その言葉を引き継ぐ様に俺がそう言うと、楽しく談笑しながら食事をしていた他の三人も真顔で俺の方に顔を向けてくる。
   その表情には緊張の色がありありと見えた。
   まぁ、緊張するのも仕方がないか。なんせ四十層以降には、兄の様にしたっていた公彦さんが死ぬ原因となったリザードマンが現れる階層だから。

「そう……ですか」
「美香ねぇ。そう、気負わないの。公彦にいちゃんの敵討ちがやっと出来るんだから」

   固唾を呑む美香さんに、恐怖に飲まれそうな気持ちを奮い立たせる様に、美希さんが拳を握りながら力説する。

「そうだよ。リザードマンなんが、けちょんけちょんにしてやるんだから」
「うん……今度は失敗しないの」

   美希さんのヤル気に押され、美子ちゃんと美久ちゃんも鼻息荒く同意すると、美香さんはそんな妹達を見回して笑みを浮かべながらコクリと頷いた。
   リザードマンを相手にするという現実を前に、奮起出来るほどトラウマを回復させた忍さんの鬼軍曹ぶりは流石だけど、これ、前屈みになり過ぎないよな?
   リザードマンを見た瞬間に全員で特攻なんて真似、しないでくれよ……
   一抹の不安を感じながら、俺は必要以上に意気込む姉妹を見つつ嘆息をついた。



   ーーーーー

   久し振りの更新、本当に大分空いてしまい申し訳ありませんでした。
   もうちょっと更新が不定期になりますが、何卒ご容赦下さい。
  
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