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第5章 『水の国』教官編
第157話 寄らば大樹の陰……何と無く頼りないけど
しおりを挟む「クッカッカッカッ! 流石はティアだな」
その日の夕食、ガウレッドさんはとても上機嫌だった。
お気に入りのティアが新たな一面を見せ、強さがワンランク上がったのがとても嬉しいらしい。
「それに比べて博貴は……」
残念なモノを見る様な視線を俺に向けながら、ガウレッドさんはフォークに刺した肉をパクリと口に運ぶ。
もう既に食事をする時の定位置となっている空洞の隅っこ。今日の夕飯はガウレッドさんのリクエストでアルティメットミノタウルスのステーキ。
このメンバーで食事をすると、どうしても肉方面に偏る。
「悪かったですね。俺に戦闘の才能が無くて」
「博貴の戦い方は単純に戦闘経験の浅さからくるものですから、追い追い良くはなる筈ですよ。それに私は、博貴は後衛で指示をしながら戦う方が向いている様に思えますが」
肉を箸で挟みながら正面のガウレッドさんにムスッと対応すると、右手に座るセリスさんから援護の言葉が投げかけられる。
ティアが元々【弓】のスキルを持っていて、風の国のダンジョン時代には俺がティアの保護者という自覚を持っていたから、今まで俺が前衛を務めていたけど、成る程、戦闘のプロフェッショナルなら見たら、逆の方がシックリくるのか……
「ふむ、戦闘中に常に余計な心配事まで考えてしまう博貴には、そっちの方が向いてるか……それよりも、ひとつ気になったのだが……」
言いながらガウレッドさんは、チラリとティアの方に目を向ける。
「ティアの【獄雷炎】、何故あんなに威力が低かった?」
ガウレッドさんの疑問に、全員の視線が俺の左手に座るティアに集まるが、当の本人はそれらの視線に意を介しておらず、ステーキに集中していてその疑問に答える気配を見せない。
仕方なく、俺が対応することにした。
「恐らくですが、ティアがスキルを習得する時は、全てレベル1だからじゃないですかね」
「レベル1……そういう事か」
「ふむ、【獄雷炎】はガウレッドの黒炎のブレスと合わさってあの威力を出しています。【獄雷炎】単体でレベル1では、あの程度の威力でもしかたないですか……」
俺の解説に、ガウレッドさんとセリスさんが合点がいったという様に頷くと、テーブルの上でリアが口いっぱいに頬張っていた肉をゴクリと飲み込んで口を開く。
「だったら、直ぐに化け物が出現、なんてことは無さそうだね。低レベルならまだしも、高レベルのスキルは早々レベルか上がるものじゃないから」
「ふむ……だとすると、もっとジックリと育てんといかんな」
そう言ってガウレッドさんは、何やら考え込む素ぶりを見せた。
ガウレッドさんがどんなティア強化計画を思い描いているか知らないけど、それに長々と付き合う時間は無いんだよね。
俺には水の国での勇者育成という依頼があるし、ティアには健一達の引率を頼みたい。
健一達は既に自分達だけでもダンジョン攻略する程の力量があるかもしれないけど、不測の事態というのはそういう油断した時程あり得るもの。ダンジョン内で他の勇者や調停者と鉢合わせ……なんて可能性は無いわけではないから、万全の体制は取っておきたい。
「ガウレッドさん。そのことなんですが、そろそろ帰してもらわないと、こちらのこちらの都合もあるので……」
恐る恐るそう言うと、ガウレッドさんは眉間に皺を俺へと視線を向ける。
「むう……そんなに急ぐ用なのか?」
「ええ、国からの依頼なので、あまり長くは離れたくないんですよ。ティアにも、健一達の護衛を頼みたいし……」
「そうか……少なくとも博貴も、一緒に居た女に勝てるくらいには鍛えたかったのだがな……」
ガウレッドさんの何気無い一言に、思わず俺は目を見開いた。
一緒に居た女って、もしかして忍さんのこと? ガウレッドさんはちゃんと俺のことも考えてくれてたんだ。
表情からまた俺の考えを読み取ったのだろう、ガウレッドさんは小さく嘆息を吐く。
「あの女、仲間ってわけではないろう?」
「えっ! ええ。そうですけど、何でそう思ったんですか?」
「博貴とあの女の立ち位置の距離感や、お前の緊張度合いだな。博貴があの女に気を許してないのが見て取れた」
あの短時間でそこまで分かるのは、人生経験の差か?
ガウレッドさんの見る目の鋭さに舌を巻いていると、ガウレッドさんは再び嘆息を吐く。その様子に俺は忍さんとの力量差にまだ、かなりの差があることを痛感させられる。
「俺は……勝てませんか」
「ああ、俺の見立てでは良いとこ勝率は二割ってところだな。あの女が単独の進化系スキル持ちなら、勝率は五割を超えていたんだが……」
えっ! 進化系スキルが単独じゃないってどういうこと? 進化系スキルは一回しか取得出来ないんじゃ……
ガウレッドさんの口から出た事実に驚いていると、セリスさんがガウレッドさんに確認を取る。
「神が進化系スキルを付けた状態で召喚したという、二期の勇者ですか?」
「ああ、おそらくな。あいつらは元々、進化系スキルを持った状態でこの世界に来てるから、人間とは言えない存在だった。だから、そこから更に進化系スキルを取得し、今までこの世界に存在しなかった種になってるからな。俺の見た感じじゃ、あの女は【鬼人】と【龍人】の複合種、【龍鬼人】といったところだな」
ええ! 進化系スキルを複合してるのか? 俺の前で忍さんが見せた力は多分、【鬼人】だけ……力を隠してるとは思ったけど、まさかそんなデカい隠し球をまだ持ってたなんて……
唖然とする俺を見て、ガウレッドさんは三度、嘆息を吐く。
「まあ、お前も俺との戦いで少しはレベルが上がっているだろ。それで、何とかしてみろ。格上との実戦も、強くなる上では良い経験だ」
確かにガウレッドさんとの模擬戦で、俺のレベルは三つ程上がっていた。このレベルの上がり方は、同レベルの者同士の模擬戦ではあり得ない上がり方なのだが、それ程、俺とガウレッドさんのレベルに開きがあるということだろう。
「私達のレベルは三千オーバーですからね。博貴レベルなら模擬戦でも結構な経験を得たのではないですか? もし、まだ強さを欲するなら、用事を済ませた後に私に連絡なさい。今度は私が付き合ってあげますよ」
「おいセリス。そういうことは俺がやるから、お前はしゃしゃり出てくるな」
「あら、別に博貴は誰の物でもないのですから、貴方にそんな言われ方をされる覚えは無いはずですよ」
俺をめぐって言い争いを始めるガウレッドさんとセリスさん。本来なら直ぐに止めに入りたいところだけど、今の俺はそれどころではなかった。
……レベル三千オーバー……先達の【超越者】ってそんなんばっかりなのか? もし、そんな先達達の中に俺達を気に入らないなんて人が出てきたら……
あり得る最悪の状況に愕然としていると、そんな俺の肩にリアが降り立つ。
「なに世界の終わりみたいな顔してんの?」
「……【超越者】の先達達がもし俺達の存在を認めなかったらって思ったらどうしてもね……だって、レベル三千オーバーだよ……」
俺の言葉にリムルはキョトンとしたが、次の瞬間にはケラケラと笑いだした。
「アッハハハ……そんなこと気にしてたの? ホント博貴って心配性だね。レベル三千オーバーって、この世界が出来上がる前から存在していたあの二人くらいだよ。【超越者】の中ではあの二人に次いで長い私でも、レベルは千七百くらいだもん。あの二人は特別だよ」
……あー、さいですか……でも、千七百オーバーでも十分脅威なんですけど……
肩に乗って笑われているので、耳元で大音量で笑い声を聞かされて思わず顔をしかめながらそんなことを思っていると、リアが言葉を続ける。
「第一、あの二人が認めた博貴達を認めないなんて、そんな度胸のあるヤツは【超越者】の中にはいないって。なんだかんだ言って、ガウレッドとセリスは【超越者】最強だもん。二人の機嫌を損ねるのを覚悟してまで博貴達を否定するヤツは居ないから安心しなよ」
安心材料を提供してくれるリア。しかしそれは、ガウレッドさんとセリスさんという大樹の陰に頼るってことだよな。
目の前で、掴み合いまで発展しながら言い争いを続けてるガウレッドさんとセリスさん。
う~ん……この二人に頼る安全って……
とても大船に乗ってる気がしないんだけど……
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