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第5章 『水の国』教官編

第152話 訪問者……ああ!まさか、あの人みたいなのがもう一人いるなんて!

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   その人は、何の前触れもなく突然現れた。
   何も無かった空間に突如として現れる一人の女性ーーいや、【気配察知】には二人の反応があるのだけど、今見えてるのは一人。歳の頃は二十代後半、銀色の腰まである髪に目つきの鋭い美人さん。服は白い紬の様な和服に近い形だ。
   女性は現れた後、辺りをキョロキョロと見回しガウレッドさんを見つけると、ニッコリと微笑んだ。

「久しぶりですねガウレッド」
「ああ、久しぶりという感覚は無かったが、お前が来たと言う事は百年振りになるんだな、セリス」

   ガウレッドさんからセリスと呼ばれた女性は、ガウレッドさんの言葉を聞いて、笑みからわざとらしい驚きの表情へと変える。

「あら、この百年を短く感じるとは随分と充実した竜生を送っていたんですね」
「はっ、俺が何年生きてると思っているんだ。百年なんて時間など俺にしてみれば一瞬でしかない」
「そうですか……私は前回不覚を取ってから、今日という日を千秋の思いで待ち続けたというのに、貴方は同じ時間を随分と謳歌して過ごしたようですね」

   徐々にドスを効かせながらガウレッドさんにそう宣ったセリスさんは、とても極悪な笑みを浮かべていた。
   ああ……この人、ガウレッドさんと同類だ……
   その身から発せられる威圧感とその笑みから感じられる危機感に、セリスさんの威圧に当てられ流石に緊張して身構えていたティアを抱き上げ、思わず数歩後退る。
   そのまま二人から離れるように壁際に向かって後ずさっていると、セリスさんの背後から何かが勢い良く飛び出して来た。

「ちょっとセリス!   いきなり殺気を滲ませて、着いて早々始める気!   私が二人の争い事に巻き込まれたら死んじゃうじゃない!」

   憤慨して、早口に捲し立てながらセリスさんの周りを飛び回るのは、ピンクの髪にシャツとベスト、膝上のスカートを履いた身長二十センチ程の一人の妖精。
   成る程、【気配察知】に反応していたもう一人はあの妖精だったのか。

「おっ、リアお前も来ていたのか」

   ガウレッドさんからリアと呼ばれた妖精はその場でピタリと止まり、ガウレッドさんに『やぁ』と片手を上げて気軽に挨拶をする。
   この二人、ガウレッドさんの知り合いか……という事はもしかして……

「暇だったからセリスについて来たんだけど、まさか直ぐに喧嘩腰になるとは思わなかったよ……って、アレ?」

   リアがガウレッドさんに挨拶をしてる最中に、目ざとく俺達を見つける。

「あの二人ってもしかして……」
「ああ、人間とエルフの新たな超越者だ」
「ほぉ……」
「へぇ……」

   今までガウレッドさんしか眼中になかったセリスさんも俺達に視線を向け、リアと一緒に意味ありげに繁々と俺達を見つめる。そしてーー

「うおっ!」
「んっ!」

   二人は時空間移動で一瞬で俺達の目の前に現れた。
   突然の事にティアは俺の腕の中でファイティングポーズを取り、俺はそんなティアを庇うように半身になって身構える。しかし、そんな俺達の緊張をよそに、セリスさんは腰を屈めて覗き込むように俺達を見つめ、リアは物珍しそうに俺達の周りを飛び回る。

「ふむ、成る程……」
「アレ?   こっちの人間って……勇者として呼ばれた異世界人だよね」

   瞬時に俺の正体を見抜いたリアの言葉に、セリスさんがふむと頷く。

「神の戯れで呼ばれた者ですか……難儀でしたね」

   セリスさんが温和な笑みで優しく声を掛けてくれる。
   あっ、この人ガウレッドさんと本質は同じだと思ったけど優しい人だ……と思ったのもつかの間、その鋭い眼光がカッと見開かれた。

「確かに同情すべき立場のものではありますが、ガウレッドの力が混じっているのが気に入りませんね」

   えっ、ガウレッドさんの力?   ……【時空間魔法】か!
   この人、なんだかんだ言ってガウレッドさんに敵対心てんこ盛りだ。
   ほぼゼロ距離の間合いで鋭い目付きで睨まれ、蛇に睨まれた蛙状態になってしまった俺達に、それを保護するかのようにセリスさんと俺達の間にリアが割って入ってくれる。

「まあまあ、セリス落ち着いて。この人達、力にかまけて好き勝手してるわけじゃなさそうだし、ガウレッドが【スキル譲渡】で少しばかり力を分け与えたからってそんなに目くじら立てなくてもいいじゃない」
「むぅ……確かにその様な者達ではない様ですが……」
「今日、ガウレッドに勝って溜飲を下げられれば、そんな事気にならなくなるでしょ」
「そう……ですね」

   リアに窘められて威圧感が萎んでいくセリスさん。
   でも、今なんて言った?   ガウレッドさんに勝つ?   まさかこの二人、これから戦う気か?
   その状況を想像して戦慄を覚えていると、リアが不意にクルリと俺達の方に向き直った。

「自己紹介がまだだったね、私はリア。妖精の超越者だよ。取り敢えず君達の事は認めてあげる……取り敢えずはね」

   意味深な言葉を交えてリアが挨拶すると、背筋を伸ばして姿勢を正したセリスさんが続いて口を開く。

「私はセリス、龍の超越者です。言っておきますが、トカゲの様な竜ではありません。そこを間違えない様に」

   念を押すセリスさんの姿に、かつてのガウレッドさんが重なる。
   ああ、やっぱりこの二人同類だ……

「俺は桂木博貴です」
「ん、ティア」

   俺達が自己紹介を済ますと、リアが『うん、ヨロシク』と答えて俺の肩に乗り、セリスさんは軽く頷いた後に直ぐにガウレッドさんの方に向き直る。

「今、今回は俺に勝つと聞こえたが俺の空耳か?」

   ニヤニヤとセリスさんを見るガウレッドさんに、セリスさんはフンと鼻で笑う。

「前回は偶々負けましたが、勝率で言えば私の方が上のはずですよガウレッド」
「はっ、毎日の様に戦っていた大昔の勝負を勘定に入れるなよセリス。今の様に百年に一度の勝負にしてからは、十六勝十五敗で俺が勝ち越してる筈だぞ」
「ふん、それも今日でイーブンにしてあげます」

   ジワジワと殺気を滲ませ始める二人に気圧されながら、俺は壁際まで後退って肩に乗るリアの方に視線を向ける。

「え~と、リア……さん。やっぱりあの二人、これから戦うの?」
「あー、リアで良いよ。うん、百年に一度の二人にとっては本来の姿で思いっきり暴れられる大イベントだからね。ハデになるわよ」
「思いっきり……ですか」

   これから目の前で繰り広げられるであろう大惨事、こんな至近距離にいる俺達は生き残れるのだろうか……
   
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