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第5章 『水の国』教官編

第151話 そして来る地獄……光明が見えません。

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   ガウレッドさんとの楽しいお遊戯が始まって三日が経つ。
   ここにいると太陽や月が見えないから昼夜の区別がつかず時間感覚がおかしくなるが、【ワールドクロック】のお陰で何とか時間の流れを理解出来ている。
   さて、この三日間の活動内容だが、初日、ティアとともにガウレッドさんに我武者羅に攻め込むも、一歩も動かずに棒立ちのガウレッドさんが無造作に払う腕に阻まれ、こちらの攻撃は全く当たらなかった。その上、例によってティアには優しく、俺には鬱陶しい蝿を払うかのような追撃が加えられ、夕方にはボロボロに……
   ガウレッドさんの腕の動きは目で追えている。何故こちらの攻撃が当たらないのか、どうしてガウレッドさんの攻撃が避けられないのか、検討もつかない。
   そのまま夜を迎え、赤いドラゴン(火竜だそうだ)の作ってくれた夕食をいただき、そのまま地面に倒れ込むように就寝。火竜の作ってくれた料理は確かに、不味くはないが美味いとも言えない肉料理だった。
   二日目、朝起きて初日の感想が夕食の微妙さだけなのに気付く。このままでは本当に死んでしまうと、この日はガウレッドさんに攻撃を加えつつ、追撃を避ける事を重点に置いて戦ってみた。
   結果、ガウレッドさんの腕の振りの初動が、俺の反応速度をはるかに上回る早さなのに気付く。ガウレッドさんは俺が反応出来ないスピードで腕を振り始め、防御が間に合わない間合いで速度を緩めるという攻撃を行ってた。
   俺が見えていると思っていたのは、既に防御が間に合わない範囲の動きだったんだ。防御は勿論、避けられないのは無理もない話である。
   それに気付き、午後からはティアとの連携を密にしてガウレッドさんの反応速度に対抗してみたが、ガウレッドさんは連携で初動が遅れた分、腕の振りの速度を上げてきた。どうやらガウレッドさんはまだまだ本気の域ではないらしい。
   ガウレッドさん酷い、最初っから俺達じゃ対応出来ない動きをしていたんだ。と、寝る前にボロボロになった身体にエクストラヒールを掛けながらティア相手に愚痴をこぼしてみたら、ティアから『ん~もうちょと頑張れば何とかなる?』という、疑問文的な回答を小首を傾げられながらいただいた。何とも心強い事だ……
   ちなみにここにいる間、朝と夕、二食食事が出るがどれも肉料理。朝は煮て、夜は焼く。不味くはない、不味くはないのだが、今日の夕食の時点で肉料理大好きのティアが微妙な顔をし始めた。
   そして三日目の朝、起きたら隣で丸くなって寝てた筈のティアが居ない。暫く待ってみると、奥に通じる通路から自分の身体が隠れる程の大皿に大量の肉料理を乗せたティアが登場。その姿に唖然としていると、いつの間にか隣にナイフとフォーク持参でガウレッドさんが座っていた。
   肉料理は唐辛子を主とした甘辛いタレが味付けになっており、辛味と肉本来の味がマッチしてとても美味しかった。ガウレッドさんも顔をほころばせて食べていたけど、これでこの後の戦闘で手心を加えてくれるということは、無いんだろうなぁ……
   その日の午前中……

[解析した結果、ガウレッドの攻撃及び防御はには、無駄な動きは一切認められませんでした]

   何とか隙を突けないかとアユムにも協力を願ったが、結果は今の通り。どうやら、ガウレッドさんの一見無造作に見える動きは、腕を最短距離で振るっている事で生まれた動きの様だ。構えていないから、ただ腕を振るってるだけに見えるが、最短距離で腕を振るい、更に戦闘不能にならない程度に力加減をしているとても洗練された動きだったらしい。

(うっわ……なんかこの先、絶望感しか感じられないや)
《勝とうと思うから絶望しか感じられないんだよ、マスター。先ずは一撃入れる事だけ考えれば?》
(いやいや、元々勝とうなんて思ってないよ。ただ、生き残ろうと必死なだけ)
《それはそれで、なんか情けない様な気がするけど……取り敢えずこのままダラダラと戦っても意味は無いんじゃない?》
(確かに、目標ぐらいはあった方が良いか。よし、先ずはニアの言う通り一発入れる事を目標にして、集中しよう。じゃないと、いつか心が折れて立ち直れなくなりそうだ)

   目標設定が低い気がするけど相手はガウレッドさん、仕方がないよね……
   そんな事を思いつつガウレッドさんの背後に回り込み隙を窺っていると……

   バシッ!

「おおっ!」

   撫でようとティアの頭に伸ばされたガウレッドさんの腕が、ティアによって払い除けられる。驚きの表情を浮かべるガウレッドさんに、ティアがすかさず一歩踏み出しながら腹部に拳を放つ。それに合わせて俺が後方上空から側頭部に回し蹴りを繰り出してみたが、ガウレッドさんはそれを空間移動でティアの背後に移動して躱す。

「クッカッカッカッ、ついに動かされたか」

   愉快げに笑うガウレッドさんを尻目に、俺は驚きの視線を躱されて残念がっているティアへと向ける。

「よくガウレッドさんの撫で撫で攻撃に反応出来たな」
「ん、身体が勝手に動いた」

   どうしたのか本人もよく分かってないのか、ティアはガウレッドさんの腕を払い除けた自分の右手を不思議そうに見つめながら小首を傾げていた。
   秘訣を聞こうかと思ったが、どうやら無理らしい。

「博貴、今ティアがやった事を聞こうとしても無駄だ」

   そんな俺の心中を読んだのかの様な言葉に、俺はガウレッドさんの方へと視線を向ける。すると、ガウレッドさんはニヤニヤと俺を見据えていた。

「今のティアの防御はティア自身、自覚がねぇよ。無意識に身体が反応したんだ、反射というやつだな。攻撃にしても防御にしても考えすぎるお前には無理な芸当だ」
「うぐっ……確かに俺は思考から入りますけど……」

   先ずは頭で考えてから行動する癖が付いている事を自覚させられ渋面を作っていると、ガウレッドさんがそんな俺を見ながら片眉を上げる。

「絶えず戦いに身を置いていれば、考えずとも効果的な動きを身体が勝手にしてくれるものだ。それが出来ないのは単純に実践が足りねぇんだよ」
「それは、実力行使を最後の手段にしている俺への当てつけですか」
「弱肉強食のこの世界で、その考えはどうかと思うが……」

   説教とも訓示とも取れる言葉を途中で止めたガウレッドさんは、厳しい目付きになり、不意に外への出入り口の方へと視線を向けた。
   ん?   誰か居るのか?
   ガウレッドさんに集中するために使ってなかった【忍ぶ者】の【気配察知】を発動させてみるが、通路の方に気配は感じられない……
   不思議に思っていると、隣にいたティアが突然身構えた。

「何か……来る」
「来るって、何が……」

   【気配察知】には相変わらず反応が無いのに、妙な警戒心を露わにするガウレッドさんとティア。一人理解が出来ずに首を傾げていると、アユムからの警告が飛んでくる。

[マスター!【空間掌握】に反応があります!]

   【空間掌握】!   通路を来るんじゃなくて、時空間転移か!
   
   
   
   
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