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第5章 『水の国』教官編
第147話 ガウレッドさん襲来……忍さんでも、畏縮しますか
しおりを挟む「え~と……」
[すいません、マスター。【空間掌握】に反応が出るのと同時に肩を叩かれまれました]
【気配察知】にも引っ掛かからずに俺の肩を掴んでくる相手に困惑していると、申し訳無さそうに事後報告してくるアユム。
【空間掌握】に反応ね……っていう事はあの人だよね。
半ば諦めムードでゆっくりと振り返ろうとすると、いち早く俺の背後を確認した忍さんが俺の脇から凄い勢いで飛び退き、俺の背後を見据えながら身構えて背中の大剣の柄に手を伸ばす。が、その手は掴む直前で止まった。その表情には驚きと焦燥の色が見える。
うん。その判断は正しいよ忍さん。後ろのお人は下手に攻撃意思を見せれば、嬉々として絶望するしかない様な反撃をしてくる人だから……
「抜かんのか?」
背後から聞こえてきたのは、少し楽しんでいる様な声色の聞き覚えのある声。その疑問に、忍さんは構えを解かずに緊張の面持ちで首を左右に振る。
「どなたか知りませんが、その身に宿す強大な力、私では到底敵わないと悟っています」
脂汗を額から流しながら、慎重に言葉を選ぶ忍さん。
うん、分かる。この人との初顔合わせは怖いよね。
硬直し、俺の背後の人の出方を窺うしか出来なくなった忍さんに代わり、俺は正面を見据えたまま口を開く。
「これは、これは超魔竜様。突然この様な所にお越しとは、どうしたんです?」
「どうしたもこうしたもあるか! お前が一向に来ないから、こうして俺がわざわざ足を運んだのだろう」
おどけてみせると、不機嫌な口調とともに肩に置かれた手の力が強まる。
「いてててて、一方的に約束しておいて、直ぐに来いっていうのは無理ですよ」
「一方的な物言いはお前も同じだろ。俺様が直に迎えに来てやったんだ、少しは有り難がれ!」
「ガウレッドさんの登場を、一度も有り難いなんて思った事ないですよ!」
「なんだとぉ!」
ガウレッドさんは俺の両肩に手を乗せ、ギリギリと力任せに肩を揉み始める。
「あだだだだ、痛い痛い!」
「クッカッカッカッ、生意気言うからだ!」
「超魔竜……だとぉ?」
必死にガウレッドさんから逃れようとジタバタする俺と、その背後で俺の足掻きなど物ともせずに肩を揉み続けながら高笑いするガウレッドさんを交互に見やり、忍さんは信じられないといった感じで目を見開く。
「その、博貴君とじゃれ合っている御仁が超魔竜殿なのか!?」
「これがじゃれ合っている様に見えますか! 一方的に虐められているんですよ!」
「クッカッカッカッ、虐めてなどおらん。可愛変がってるだけだ」
「信じられん……この大陸の畏怖の象徴たる超魔竜殿が、この……」
俺の背後に視線が釘付けになる忍さん。その顔は頬が引きつりまくっていた。
「ほう、信じられんか。だったら、その身をもって試してみるか?」
右手を離し、歴戦の勇者も裸足で逃げ出す様な剣呑な気配を放ちながら俺の顔の横で拳を作るガウレッドさんに、忍さんは両手を前に出して待ったの姿勢を作りながら首を凄い勢いで左右に振る。
「いやいやいや、滅相も無い! 信じます、信じますとも!」
身の危険を感じ取ったのか、全力で申し出を断る忍さん。
流石に戦闘狂の忍さんもガウレッドさんの誘いは断るのか……戦闘経験が多い分、絶望的な力量の差が分かるんだろうな。
ガウレッドさんは『そうか』と少し残念そうに呟き、俺の頭を鷲掴みにすると反転させて顔を覗き込んできた。
「行くぞ、博貴」
「ガウレッドさん? ……一体何処に?」
「決まっているだろう。せっかく盛大に遊ぶのだ、ティアを仲間外れにしたら可哀想だろ」
「ティアが可哀想って……まさか……」
「クッカッカッカッ! さぁ、ティアを誘ってフルコースで遊ぶぞ!」
上機嫌のガウレッドさんに手を掴まれて引きずられ始め、咄嗟に振り返ると、忍さんは苦笑いを浮かべながら手を振り、『水の国』の勇者達は身を寄せ合って事の成り行きを見守っていた。
「博貴君、『水の国』の勇者達は私が見ておいてやるから心配するな。例え君が戻って来なくとも、私がきっちり育てといてやる。だから、達者でな」
「えっ……俺、死ぬの確定ですか!」
「超魔竜殿とは初めて対面したが、噂以上だな……姿を見ただけで勝てないと感じたのはこれが二度目だ」
「ほう……」
忍さんの言葉に、ガウレッドさんの歩みが止まる。
「お前、俺の他にそんな素晴らしい者を知っているのか?」
振り向き、好奇に満ちた口調で尋ねるガウレッドさん。
これは、まだ見ぬ強者を期待しているな。忍さんも余計な事を言わなきゃいいのに……
ガウレッドさんに射抜かれる様に見つめられ、緊張で硬直しながらも忍さんは口を開く。
「私の組織の本拠地は『光の国』ですので……」
絞り出す様に発せられた忍さんの言葉に、ガウレッドさんは『ああ、あいつか……』と落胆の声を上げる。
あいつ? あっ! 『光の国』の【超越者】か!
「忍さん!その人は……」
「行くぞ、博貴!」
ガウレッドさんが俺を気に入らないかもしれないと言った『光の国』の【超越者】の情報。忍さんから聞けるかもしれないと思ったが、期待が外れて少し不機嫌になったガウレッドさんは俺の手を掴んだまま時空間転移を発動する。
「一体、どんな人なの!」
「へっ?」
突然目の前に現れた俺の叫びを聞き、エプロン姿のその少女は素っ頓狂な声を上げる。
「……えっ? ヒ……メ……?」
恐らく生クリームを作っていたのだろう。ボールを小脇に抱え、泡立て器を片手にビックリしているヒメが目の前にいた。
あれ? ……何でガウレッドさんの転移先にヒメが居るんだ?
落ち着いて周りを見渡してみると、そこはログハウスの厨房。呆然と俺を見つめるヒメの横に、同じく顔にクリームを付けながら一生懸命生クリームを泡立てるティアの姿があった。
「ティア」
「ん? ……ひろにぃ!」
名前を呼ばれ、俺に気付くと同時に飛び込んでくるティアを抱き止め、俺は隣に居るガウレッドさんへと目を向ける。
「頭に思い描いた人の下へと行ける転移ってやつですか?」
「うむ、便利だろ」
「便利というか、反則ですよね」
呆れ返りながら俺が呟いていると、ヒメが目をパチクリさせながら俺とガウレッドさんを交互に見ている。
「……誰?」
「ガウレッドさん。恐らくこの大陸最強生物」
俺の紹介が気に入ったのか、ガウレッドさんは満足気に胸を張り『うむ』と頷く。
「そう……ケーキ食べます?」
「うむ、いただこう」
まだ、呆然としているヒメの口から咄嗟に出た社交辞令的な言葉に、ガウレッドさんは間を置かずに答える。
甘い物……好きなのかな? とても良い笑顔で頷いてる。
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