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第4章 超越者の門出編

第113話 ささやかな宴……視線が痛いです

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「あれ……??」

   冒険者ギルドの自分の部屋に転移すると、其処には誰もいなかった。

「ここで待ってる様に言ったんだけど、何処に……」

   呟きながら【気配察知】で確認して思わず絶句してしまう。
   健一達、ギルドマスターの部屋にいるよ……何でだ?   ここで待ってる様に言ってたのに移動したという事は……!   かなねぇに呼ばれたか?
   俺達の中で一番の決定権を持つのはかなねぇだ。皆が俺の言葉を反故してギルドマスターの部屋にいるという事は、そういう事なんだろう。

「う~ん、気配で健一達がここにいることがバレたかなぁ……健一達がここに居る理由、聞かれるだろうなぁ。別にかなねぇやレリックさん辺りなら、言い触らさないだろうからバレても問題はないんだけど……」

   レリックさんの回りくどい質問責めを思い浮かべ、俺はげんなりとした。
   出来れば行きたくない。しかし、一人ここにいても事態が進展するわけもなく、俺は覚悟を決めて部屋を出た。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

「目的達成おめでとう!」

   ギルドマスターの部屋に入ると、かなねぇの発声の元、皆からの拍手で迎えられた。隠していた能力についてジト目で迎えられ、詰問されると思っていた俺は思わず呆然としてしまう。

「偉業を成し遂げた本日の主役が何を立ち竦んでいるんです。ささっ、こちらへどうぞ」

   背筋が寒くなる程の笑顔を携えたレリックさんが、気持ち悪い程丁寧に俺をコタツの一角へと導き、座ると同時にかなねぇがお茶を俺の前に置く。実に至れり尽くせりで、普段の二人を知ってる身としてはとても気持ちが悪い。

「本当は盛大に行きたいところなんだけど、事が事だけに大袈裟には出来ないじゃない。だけど、折角けんちゃん達との合流が成功したんだから、質素になっちゃうけど、お祝いくらいはしようと思って」

   かなねぇがそう言ってる間に、簡単な料理やカットされたフルーツなどがティアとヒメ、桃花さんの手によりコタツの天板に所狭しと次々に置かれていく。
   あまりの事態の不自然さに思わず俺は、邪魔にならないようにと窪さんと一緒に少し離れた場所に立っていた健一に視線を送った。

   ーーおい、これはどういう事だ?
   ーー分からないよ。僕達は博貴の部屋で待ってたんだけど、突然かなねぇがやって来てここに連れてこられたんだ。
   ーーかなねぇは健一達に、ここに来た経緯を聞いてないのか?
   ーーうん、何も聞かれてない。僕達はかなねぇに、ここで博貴の帰りをまちましょう。って、言われただけなんだよ。
   ーー嘘だろ……かなねぇは勿論だけど、レリックさんがここに健一達を送った方法を聞こうとしないのはおかしいだろ。
   ーー僕もそう思う。だけど事実なんだよ。
   ーー一体、どうなってるんだ……
   ーーそんな事気にしないで、取り敢えずけんちゃん達の合流を祝いましょう。
   ーーかなねぇ……俺と健一のアイコンタクトに割り込まないで……

   アイコンタクトと簡単なジェスチャーで健一から事情を聞き出そうとしたが、健一の背後に回ったかなねぇに笑顔で割り込まれ、仕方なく情報収集は一時中断。かなねぇとレリックさんに乗せられる事になるが、取り敢えず健一達の合流を祝う、ささやかなパーティに付き合う事にした。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

「ほほぅ、軍部は全て宰相の手の内だと思っていたのですが、そうではないと?」
「はい。少なくとも、竜騎士の皆さんは反発してましたね」
「俺と共に切磋琢磨していた、向上心がある騎士団の一部の人達も宰相は毛嫌いしていました。もっとも、騎士団のトップ連中は宰相派だから表立っては言えない様でしたがね」

   お祝いの宴が始まり、俺の右手側ではレリックさんと健一、窪さんが話し込んでいる。初めは当たり障りのない世間話だったが時間が経つにつれ、レリックさんの誘導により城の内情の話へと変化していた。
   左手側ではかなねぇとヒメ、桃花さんが話し込んでいるが、内容は他愛もないガールズトーク。下手に口出しして巻き込まれたくないから適当に聞き流しているが、かなねぇのカリスマ性に引き込まれて、桃花さんはすっかりかなねぇと仲良くなっている様だ。
   元々、健一とヒメはかなねぇと幼馴染みで、窪さんは仲の良かった同級生。かなねぇの算段ではこれで桃花さんとの親密度も上げれば、俺達パーティを冒険者ギルド寄りに出来る、と言ったところだろうか。
   お祝いの宴と称して、国の内情の情報収集と俺達の懐柔を同時に行う。相変わらずこの二人は抜け目がない。

「ん、ひろにぃこれ美味しい」

   二人の手腕に感心しつつもげんなりていると、俺の隣で黙々と食べる事に専念していたティアが、一口サイズにカットされた黄色い果物を、フォークに刺して俺に差し出してくる。

(はぁ~……この子はどんな状況でも我が道を行くなぁ)
《ティアちゃんは世間体を気にしないからね。ティアちゃんの世界は、ティアちゃんとマスターを中心に回ってるんだよ》

   ニアの言い様に妙に納得しつつ、誰にもなびかず常に俺の隣にいるその姿にホッコリして、ティアに差し出された果物をパクッと食べる。
   うーん、味はパイナップルとキューイフルーツを足した感じかな……確かに美味しい。ティアも気に入った様だし、後でどんな果物かかなねぇに聞いてみよう。
   フルーツを味わいながらそんな事を考えていると、周りから様々な視線が突き刺さっているのに、今更ながらに気付いた。
   窪さんは違うが、窪さんと話しているレリックさんはやれやれと言った感じでこっちを見ており、健一はアイコンタクトでーーそれは不味いよ博貴。と送ってよこす。
   その反対側からは、ニヤニヤとした笑みでこちらを見るかなねぇと、微笑ましいといった感じの視線を投げかけてくる桃花さん。そして、正しく突き刺さるという形容が似合う視線を笑顔でぶつけてくるヒメ。

「え~と……なにかな?」

   何故急に注目されたのか分からずおずおずと尋ねると、ヒメが口を開きかけたのを、かなねぇが手で塞いだ。

「いやー、微笑ましい光景だと思ってね。ところで、そろそろ、皆を窮地から救った武勇伝を本人の口から聞きたいんだけど」

   何か言いたげに必死にモゴモゴしているヒメの口を塞ぎながら、かなねぇはそう言って片目を瞑って見せる。
   成る程、宴もたけなわな所で本題に入るって事か。
   いきなり話を振らず、俺から話しかけるのを待っていたな……
   仕方がないとため息を吐きながら、皆が注目するなか俺は静かに話し始めた。
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