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第4章 超越者の門出編
第110話 救出……皆、無事で本当に良かったです
しおりを挟む[前方から接近する者あり。アンデットではない様です]
アユムからの報告を受け、俺は素早く右手に枝分かれしていた通路へと身を隠す。ティアも俺に続き身を隠した。そして少しの間を置いて、一人の見覚えのある奴が俺達の脇をそそくさと走り抜けて行った。
「?? ……今の井上か?」
[その様ですね。お披露目式の時に壇上に上がっていた者と同一人物です]
いまいち確信が無かったがアユムの確認が取れ、井上だったとわかった所で疑問が浮かぶ。
「なんで一人なんだ?」
《デストラップから逃げてきたんじゃないかな。1人で》
ニアの素っ気ない口調の推測を聞き、井上のみ逃げてきたという現実が生み出すであろう惨劇が、頭の中でゆっくりと映像化されていく……
「健一達がやばいじゃないか!」
幾ら何でも前衛二人に後衛二人では、アンデットの囲みを突破するのは勿論、その場で凌ぎきるのも難しい筈。
「そんな事も分からないのか、あのバカは!」
《そういう事態を想定できる様な良器の持ち主なら、そもそも仲間の経験値を奪うなんて真似しないよね》
悪態をつきながら走り始めた俺に、ニアがバカにするのを通り越し、呆れ返った様に突っ込みを入れてくる。全くその通りなのだが、今はそれに答える時間も惜しい。
[次の十字路を右です]
どんどんと湧き上がってくる焦燥の中、冷静に健一達の気配が感じられる方角を教えてくれるアユムの言葉に従い、次々と湧いてくるアンデットどもをあしらいながら突き進むこと暫し、ついに目的の大きな広間へと出る。感覚的には凄く長かった気がするが、実際は井上とすれ違ったからあまり時間は経っていない筈。
健一達は……いた! ってやべぇ!
「ティア!」
気配を頼りにすぐさま広間を見渡し、健一達を視認したのだが、その健一に対しスケルトンが剣を振り上げようとしているのを目撃し慌ててティアに呼び掛ける。しかし、俺が呼び掛けた時にはティアは既に弓を引き絞っていた。
流石です、ティアさん。
健一に凶刃を振り上げるスケルトンはティアに任せ、俺は魔術の発動に着手する。使うのは【神級聖神魔術】サンクチュアリ。聖域を擬似的に作り出す【超級聖神魔術】ホーリースペースの強化版で、そのスペース内にいる者のHP、MP回復効果も高めてくれる優れもの。
ティアが矢を放つ。
ティアの手元から放たれた矢は、密集しているアンデットの隙間を掻い潜り、見事健一に剣を振り上げたスケルトンのこめかみに突き刺さった。
一撃必中を体現するティアの技量を目の当たりにして、思わず安堵の笑みが漏れたところで、すかさず魔術を発動させる。
「【神級聖神魔術】サンクチュアリ!」
魔術が発動し、健一達の周りに光が溢れ出す。
これで、一先ずは安心だ。
今まで胸を締め付けていた焦燥の思いがやっと晴れ、胸を撫で下ろしていると、驚愕に目が見開かれた健一と目が合った。
健一、待たせたな。まあ、約束の時間より随分と早く来たんだから、文句は言わせないけどね。
胸中で軽口を叩きながら、俺はティアと共に健一達に向かって歩き始めた。
ーーSide 窪ーー
暖かな光が辺りを包む中、俺は驚愕の思いで博貴と見知らぬ少女を見つめていた。
少女は先頭に立ち、進行方向に立ち塞がる敵を次々と短刀で斬り伏せていく。その動きは残像すら残す様な素早さで、敵が充満するこの空間で確実に移動スペースを確保していっていた。
そして、その後ろに続く博貴。ついこの間まで素人だった筈の博貴は、少女が確保した進路を悠然と歩いてくる。その歩き姿は体の中心線が全くブレない実に見事なもの。博貴はその惚れ惚れとする歩き姿を維持したまま、一見無造作にも見える所作で側面や後方からくる敵を槍で突き、または薙ぎ払っている。
その姿を見て、俺は身震いし歓喜で背中がゾクゾクっと震え上がった。
この世界ではあそこまて武を高められるものなのか! 博貴のあの立ち振る舞いは、元の世界では武に一生を費やしても得られる領域ではない。俺も、この世界で研鑽を積めば、あの域まで自分を高められるのか……
武の道を歩む者として、この上ない見本を見せられた俺は、際限なく込み上げてくる歓喜に身を任せながら、頼もしくなった博貴の姿を見続けた。
ーーSide 桃花ーー
「ふふっ、随分とカッコよくなっちゃって」
あの再開した時に、見事に背後を取られちゃったから強い事は分かっていたけど、まさかここまで強くなっているとはお姉さんビックリだよ。
アンデットがごまんといるこの空間を、平然と歩み寄ってくる姿は頼もしいの一言。お姉さん惚れ直しちゃったね。それにしても……
「博貴君の露払いをしているあの子……凄いわね」
サラサラの金髪をなびかせ、縦横無尽にアンデットを屠っていくあの女の子。あれだけ激しく動いているのに、気配が霞みがかっている様に分かりづらい。同じ隠密系スキルを持ってるから分かるけど、かなり凄い隠密系スキルを持ってると見た。恐らく本気で身を隠されたら私では見つけられないと思う。それにーー
「可愛いわね。合流したら博貴君に紹介してもらわなきゃ」
ーーSide 美姫ーー
ひろちゃんが来てくれた!
あの私達が防戦するので精一杯だった、見るだけで怖気が込み上げてくる敵を軽くあしらう姿、間違いなくひろちゃんだ!
まるで能を舞っているかのように優雅に槍を振るうひろちゃんの姿に、思わず見惚れてしまう。
この浴びてるだけで心安らぐ光も、ひろちゃんの魔法だよね。私と同じ光魔術の系統の魔法みたいだけど、私の使う魔法とは根本的に何かが違う……
恐らく魔術のランク自体違うのかな? それ程までにひろちゃんは強くなったんだ。
この世界に来てしまった当初は、何の力も無くなってしまって頼りなくなっちゃったけど、あの危機を危機とも思わないで平然と乗り越える飄々とした姿こそ、元の世界の頃の本当のひろちゃんだよ。
「本当のひろちゃんが帰って来た!」
ーーSide 健一ーー
「本当のひろちゃんが帰って来た!」
ヒメの喜びに満ちた言葉を聞いて、僕はホッと胸を撫で下ろす。
仕方なく引き受けたけど元々、僕は皆をまとめるリーダー気質じゃないんだよね。お陰で気苦労が酷くて禿げるかと思ったよ。まあ、博貴もそういうタイプじゃ無いと思うけどね。
でも、本当に良かった。これでヒメの精神も安定してくれれば、僕も肩の荷が下りるってものだよ。あっ……なんか今までの苦労を思い出したら涙が出そう……この気持ちは博貴が来たら愚痴って吐き出そう。それにしても……
僕は視線を博貴から、その前で縦横無尽に飛び回る少女に移す。
あの子、もしかしてエルフだったの?
可愛らしい長い耳がピコピコ動いてる。博貴の仲間みたいだけど、どうやって知り合ったんだろ? 僕なんか城でむさいおっさんとか、一癖も二癖もありそうな爺さんとぐらいしか出会いのフラグが立たなかったのに……
博貴、君はリーダー気質は無くても、主人公気質はありそうだよ。
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