104 / 172
第4章 超越者の門出編
第100話 お披露目式の朝……レリックさん、その策略はあんまりです
しおりを挟むお披露目式当日。
部屋に差し込んでいた日射しが遮られ、その違和感で目が覚めてゆっくりと自室のベッドから上半身を起こすと、ベッドの傍にティアが立っていた。
「……ティアおはよう」
「ん、おはよ」
条件反射で朝の挨拶をすると、ティアは頷きながら挨拶を返してくる。
……ティアが何でここにいる?
昨夜の工作活動で遅くなった為に睡眠時間があまり取れなかったせいか、頭が良く回らない。
首だけをそちらの方に向けて、半分しか開かない目でティアを見る。
「ティア、なんか用か?」
「ん! 食材が欲しい」
……やけに元気な返事だな。睡眠時間は俺と同じだろうに……
再び倒れこもうとする上半身と、閉じようとする瞼に耐えながら、ティアの申し出の意味を理解しようと必死に頭の中で反芻する。
食材……食材ねぇ……ああ、朝食の準備をしてくれるのか……朝食……朝ごはん……朝……朝ぁ!
上手く頭が回らないなりにそこまで思考ロジックを組み立て、俺は無理矢理カッと目を見開いた。
そうだ! 今日はお披露目の日だった。工作を施した以上、その成果はちゃんと見届けないと。
慌てて【ワールドクロック】を確認すると、時刻は七時十五分をさしていた。
昨日帰って来たのが五時前位だから、二時間ちょいの睡眠時間か……
まあ、その辺は覚悟の上で仮眠を取ったのだから仕方がない。再びティアの方に目を向けると、ティアは両手でお椀を作る様な形で自分のお腹の前に差し出し、食材を無言で催促していた。
「ああ、食材だったな。どんなのが欲しい?」
「んー……野菜はここにあるからいい。味付けするのが欲しい」
味付け? ああ、調味料ね。
俺は時空間収納からめぼしい調味料を引っ張り出しながら、ティアに今日の予定を聞いてみる。
「今日、俺はお披露目式を見に行くつもりだけど、ティアはどうする?」
「ん~……ティアはいい。ティアは料理をいっぱい作って、料理でひろにぃを超える!」
鼻息荒くそう答えるティアに、『俺の料理なんてスキル頼みで底は浅いんだけどなぁ』と思いつつも、苦笑いを浮かべながら味噌、醤油、胡椒やわさび、更に香辛料などを数点渡してやる。すると、ティアは笑顔を浮かべて部屋から出て行った。
⇒⇒⇒⇒⇒
「あら、おはよう」
「おはよう、かなねぇ」
ギルドマスターの部屋に入ると、かなねぇがこたつで食事を取っていた。メニューはパンとサラダとスープ。この世界では一般的なメニューなのでティアが作った物ではないだろう。
かなねぇの向かい側にもう一組食事が準備されていたので、そこに座り朝食に手を付ける。
「いよいよ今日ね」
パンをちぎったところで、かなねぇが話題をふって来たのでパンを口に放り込みながらコクンと頷く。
「勝算はあるの? 龍次さんは問題無いって、全く動じてなかったけど」
「あの人は信じてると言っておきながら、失敗した時の為に何かしらの工作をしてそうだけどね」
「アッハッハ、確かにそうかも」
無邪気に笑うかなねぇだが、その目の下には隈が出来ていた。
何だかんだ言ってもこの人も色々と忙しかったようだ。
「勝算は……まあ、大丈夫じゃないかな。やれる事はやったから、後は天頼みって所はあるんだけどね」
「ふむ……他ならぬけんちゃんとヒメちゃん絡みだから、ひろちゃんが手を抜いてないのは信用出来るけど、そっか、後は天頼みか……」
かなねぇが心配そうな顔で天を仰ぐ。
恐らくは、この世界に来て初めて交わすかなねぇとの裏の無い会話。
懐かしく、温かい気持ちになるが、その話題が健一とヒメの命運を左右する内容だけに、完全にマッタリは出来ない。
「で? 今日はその成果を確認しに行くの?」
目線をこちらに戻し、そう聞いてくるかなねぇに静かに頷いて見せる。
「一応、俺の発案した作戦だからね。その結果くらいは自分で確認するさ。ところで、今朝はレリックさんを見かけないけど何処に行ったの?」
本当に何かしらの工作をしてるのではないかと思い、レリックさんの動向を確認すると、かなねぇが曖昧な笑みを浮かべる。
「んー……龍次さんなら、ティアちゃんに五時頃に叩き起こされたらしいわ。昨日は二時頃まで私の仕事を手伝わせてたから、流石の龍時さんも結構堪えてるみたい」
……そっか、今朝のティアはやけに元気だと思ったら、寝てなかったのか……
ティアの元気っぷりと、レリックさんに御愁傷様の意味合いを込めて苦笑いを浮かべつつ、俺はかなねぇと他愛の無い会話を進めながら朝食を済ませた。
ーーガチャ!
扉が勢い良く開かれたのは食事が終わった直後。
何事かと俺とかなねぇが視線を向けると、其処には朝食を乗せたお盆を持ったティアとレリックさんが笑顔で立っていた。
心なしか、レリックさんの笑みが黒く感じるが……
不安に感じた俺は咄嗟にかなねぇにアイコンタクトを送った。
ーーかなねぇ、どういう事? ーー
ーー知らないわよ! この朝食だって、龍次さんが準備したって持って来たギルド職員の子が言ってたものーー
「おっほん」
幼馴染の特権、アイコンタクトと表情だけで意思の疎通を交わす俺達に、レリックさんがわざとらしい咳払いをする。
「今朝はティア殿が腕によりを掛けて朝食を拵えてくれました。博貴殿にも調味料をいただいたお陰で、素晴らしい出来になっていますよ」
とても楽しそうに、ティアが頑張って作った事を強調するレリックさんと、自慢気に料理を掲げて見せるティア。
ティアは純粋に料理を食べてもらいたい様だが、どうもレリックさんの笑みの陰に『私ばかりが不幸になるのは許せません』という意味合いが見え隠れしている様な気がする。
ーーかなねぇ……ーー
ーーどうやら、龍次さんに嵌められたみたいねーー
ーー胃袋の空きはありそう? ーー
ーー無くても、あんなティアちゃん見たら食べられないなんて言えないじゃない! ーー
ーーだよね。覚悟を決めるしかないか……ーー
「では、ティア殿が作った極上の朝食、じっくりとご賞味下さい」
ティアの自信ありげな満面の笑みを背景に、芝居掛かった口振りと仕草で目の前に置かれていく料理を前にして、俺とかなねぇは引きつった笑みを浮かべながら箸を持った。
1
お気に入りに追加
4,329
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
【破天荒注意】陰キャの俺、異世界の女神の力を借り俺を裏切った幼なじみと寝取った陽キャ男子に復讐する
花町ぴろん
ファンタジー
陰キャの俺にはアヤネという大切な幼なじみがいた。
俺たち二人は高校入学と同時に恋人同士となった。
だがしかし、そんな幸福な時間は長くは続かなかった。
アヤネはあっさりと俺を捨て、イケメンの陽キャ男子に寝取られてしまったのだ。
絶望に打ちひしがれる俺。夢も希望も無い毎日。
そんな俺に一筋の光明が差し込む。
夢の中で出会った女神エリステア。俺は女神の加護を受け辛く険しい修行に耐え抜き、他人を自由自在に操る力を手に入れる。
今こそ復讐のときだ!俺は俺を裏切った幼なじみと俺の心を踏みにじった陽キャイケメン野郎を絶対に許さない!!
★寝取られ→ざまぁのカタルシスをお楽しみください。
※この小説は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
恋人を寝取られた挙句イジメられ殺された僕はゲームの裏ボス姿で現代に転生して学校生活と復讐を両立する
くじけ
ファンタジー
胸糞な展開は6話分で終わります。
幼い頃に両親が離婚し母子家庭で育った少年|黒羽 真央《くろは まお》は中学3年生の頃に母親が何者かに殺された。
母親の殺された現場には覚醒剤(アイス)と思われる物が発見される。
だがそんな物を家で一度も見た事ない真央は警察にその事を訴えたが信じてもらえず逆に疑いを掛けられ過酷な取調べを受ける。
その後無事に開放されたが住んでいた地域には母親と自分の黒い噂が広まり居られなくなった真央は、親族で唯一繋がりのあった死んだ母親の兄の奥さんである伯母の元に引き取られ転校し中学を卒業。
自分の過去を知らない高校に入り学校でも有名な美少女 |青海万季《おおみまき》と付き合う事になるが、ある日学校で一番人気のあるイケメン |氷川勇樹《ひかわゆうき》と万季が放課後の教室で愛し合っている現場を見てしまう。
その現場を見られた勇樹は真央の根も葉もない悪い噂を流すとその噂を信じたクラスメイト達は真央を毎日壮絶に虐めていく。
虐められる過程で万季と別れた真央はある日学校の帰り道に駅のホームで何者かに突き落とされ真央としての人生を無念のまま終えたはずに見えたが、次に目を覚ました真央は何故か自分のベッドに寝ており外見は別人になっており、その姿は自分が母親に最期に買ってくれたゲームの最強の裏ボスとして登場する容姿端麗な邪神の人間体に瓜二つだった。
またそれと同時に主人公に発現した現実世界ではあり得ない謎の能力『サタナフェクティオ』。
その能力はゲーム内で邪神が扱っていた複数のチートスキルそのものだった。
真央は名前を変え、|明星 亜依羅《みよせ あいら》として表向きは前の人生で送れなかった高校生活を満喫し、裏では邪神の能力を駆使しあらゆる方法で自分を陥れた者達に絶望の復讐していく現代転生物語。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる