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第4章 超越者の門出編
第70話 ティアの行動……皆、裏で何をしてるんです?
しおりを挟む「じゃあ次は……」
『趣味の会』の情報はもう得られないと思い、次の質問に移ろうとしたら、ローブを背後からチョイチョイと引っ張られた。
「ん?」
不思議に思いながら背後を振り向くと、ティアが俺を見上げていた。
「どうしたティア?」
「んっ、トイレ」
「ああ、トイレか……うん、行っといで」
そう言うと、ティアはコクンと頷き部屋から出て行った。俺はそれを見送ると、通話球に視線を戻す。
『どうかしましたか? 博貴さん』
「ああ、何でもないんです。それで、一ヶ月程前になるのですが、ワイバーンの子供を連れた冒険者風の者達がいなかったか、調べる事って出来ますか?」
『ワイバーン……ですか。それで冒険者風というのは?』
「冒険者風と言ったのは、誰も冒険者だと確認してないからです」
『成る程、犯罪者ギルドや他の組織の者という可能性もあるということですかーー」
流石レリックさん。一言えば十理解してくる。
『分かりました。それをお調べするのは構わないのですが、その者達は何かしたのですか?』
「ああ、その事なんですがーー」
俺はデルク村で起こったワイバーン事件の話を始めた。
Side ???(ティア)
部屋を出て、ティアは足音無く受付カウンターの奥にひっそりと伸びる廊下へと足を運んだ。
ギルド内は未だ博貴の【威圧】を受けた冒険者や職員が多数いた。彼等はあれ程のプレッシャーをかけた博貴が何者なのかと騒めいていたが、【忍ぶ者】を発動させ、隠者のローブのフードを被っているティアに気付く者は誰もいなかった。
カウンターの裏側は中央に廊下が伸びており、その左側がギルドマスターの部屋。廊下を挟んで右側が職員の部屋になっている。
そして廊下の奥には幾つか部屋があった。
ティアは迷う事なく一つの部屋の前で足を止める。
《間違い無く此処にいるね》
頭の中に響くニアの声に、ティアはコクンと頷く。
先程、ギルドマスターの部屋で大人しくソファに座っていたティアは、廊下を歩いて行く者の声を聞いていた。
『何なんだあいつは!』
始めに聞こえたのはそんなイラついた声。
ティアはその声に聞き覚えがあり、先程、博貴に絡んできた冒険者達の顔を直ぐに思い浮かべ、確かグジーとかいう奴を筆頭にした四人組だと判断する。
『大体、何で俺達が拘束されないといけない』
『あいつのせいだろ? あんな奴強いわけが無い。あの変な威圧感も魔道具か何かを使ったに決まっている』
『此処を出たら待ち伏せしてヤッちまおうぜ』
そんな事を言いながら廊下の奥へと歩いて行く男達。
ティアはその話を聞きながら、密かに瞳の奥に殺気を宿らせていた。
《あいつらマスターに危害を加える気だよ。あんな奴等にマスターが怪我一つ負うとは思えないけど、あの程度の奴等がマスターにちょっかい出そうなんて許せないよね》
ニアの言葉を聞きながら、ティアはその全身から殺気を滲ませつつ、コクンと頷くのだった。
Side ???(アユム)
〈アユム大変よ!〉
[どうしたんですトモ。そんなに慌てて]
〈ニアがティアちゃんを焚き付けて、さっきマスターにちょっかいかけてきた奴等をやりに行っちゃったの〉
[何ですって!]
トモの報告にアユムは驚きの声を上げた。そしてティアとニアという最悪の組み合わせに肝を冷やす。
トモ、ニア、アユム。三つの自我は、其々が好き勝手やっている様に見えて、基本部分では役割分担が与えられていた。
トモはスキルの管理。アユムはマスターのサポート。そしてニアはマスターの保護。
ニアはその役割の性質上、マスターの承認無しにスキルなどを使用出来る権限が与えられている。何故なら、危険が迫っている時にいちいちマスターである博貴の確認を取っていては、間に合わない場合があるからだ。
まぁ、ニアの場合、その権限を自分の好奇心の為に使っている節があるのだが……しかし、その役割の性質上、マスターである博貴に敵対する者に対する残忍性は三人の中で一番高いと言えた。
そしてティア。ティアの種族であるエルフはプライドが高く、他種族を下に見る傾向がある。
ティアの場合、その特殊な育ちの為に博貴と両親、そして【共に歩む者】の三人以外は、皆平等にどうでも良い存在として認識している傾向があった。
ただし博貴が側にいる時は猫を被っているのか、彼に倣って行動している為に博貴は未だに気付いてはいないが、アユムはティアのそんな本質に気付いていた。
そんな博貴が全てのティアと、博貴を守る為ならあらゆる犠牲を厭わないニアは、まさに博貴に敵対する者にとっては最悪のコンビといえる。
[これは不味いです。マスターはあの者達の死など望んでいません。そしてそれ以上に、あの様な者達の為にティアが手を汚す事を良しとしません! 私は直ぐにティアの意識に飛びます。トモはマスターのサポートをお願いします]
トモでは本気のニアを止められないと判断したアユムは、そう言うと、トモの返事を聞く間も惜しんで直ぐにティアの意識へと飛んだ。
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