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第4章 超越者の門出編
第62話 束の間の休息……本当に休めるよな?
しおりを挟む「あ~~……睡眠が足りん……」
異世界に来てログハウス以外での初めての朝。
穏やかな良い朝なのだが、俺の目覚めは最悪だった。ああ、明るくなると目が覚めてしまう自分の習慣が恨めしい。
俺は睡眠不足の原因である、机に置いていた三枚の卵の殻のカケラを見つめた。
昨夜ティアをベットに運んだ後、ワイバーンが飛んでいた辺りを捜索して見つけた物だ。
「卵の殻を砕いて村の近くに広範囲にばら撒く……随分と計画的だな」
アユムの話では、ワイバーンの親は子供の匂いを追って来た、との事だったのでワイバーンがたむろっていた辺りを探してみたらドンピシャ。アユム曰く『[冒険者達は卵を略奪して来たのでしょうが、途中で子供が孵ってしまい、その卵の内側に付着した子供の匂いを利用して、この村に追って来る可能性のあるワイバーンの親を擦りつけたのではないでしょうか]』との事。
俺が気が遠くなる程肉を焼く羽目になった原因を作った冒険者……もし会うことがあったら必ずその報いを受けて貰おう。
俺はまだ見ぬ冒険者達に取り敢えずの復讐を誓い、気持ちを切り替える事にした。
「さて、朝食は何だろう?」
ログハウスでは食事は全て俺が作っていた。【至高の料理人】を持っている筈なのにティアは『ひろにぃのが美味しい』と言って頑なに作らなかったのだ。だが、そんな朝の手間も今日は無い。その辺は実に喜ばしく、少し気分が良くなりながら着替え始める。
着替えが終わり部屋の扉を開けると、丁度向かいの部屋で寝ていたティアも扉を開けて出てきた。
「……ティア」
そのティアの様子を見て、ガッカリしながら呟く。
ティアは寝巻きにしている俺のTシャツ1枚に、ボサボサの髪という格好で、更に半眼でボーっとしていたのだ。そして俺の姿を見つけて一言。
「ひろにぃ……頭いたい」
「……ティア、それは二日酔いだ」
ティアにキッパリと言ってやり、さっさと着替えてこいと再び部屋に押し込める。
折角戻り掛けた気分を台無しにされながら一階に降りると、一階は閑散というか誰もいなかった。
宿の一階は冒険者ギルド兼食堂らしいのだが、よく考えれば泊まっているのは俺とティアだけなのだから当たり前なのだが、冒険者ギルドの受付にすら誰もいない。
「うーん、これは一体……」
困惑してると食堂の奥から一人の優しそうなおばさんが出て来た。
「あら命の恩人様お早いですね」
早い? 何が?
おばさんに言われ一瞬何の事か分からなかったが、ふと、ワールドクロックを確認してみると、朝の六時。
ああ、そういえばログハウスでは暗くなったら寝て、明るくなったら起きるって生活をしてたから、つい起きて来てしまったけど、確かにこれは早いわ。
「すいません、確かに早いですね。ちなみに朝食は何時からです?」
普通に時間を聞いてしまったら、おばさんに首を傾げられてしまった。
[マスター。この世界では夕方の六時から朝方の五時までを闇の一刻から闇の十二刻と呼び、朝の六時から夕方の五時までを光の一刻から光の十二刻と呼びます。従って時間を聞くときは『何刻からですか』と聞くのが正解です]
アユムからの情報提供を得て、慌てて聞き方を訂正する。
「ああ、それなら光の二刻から光の四刻までですよ」
「有難うございます。それと冒険者ギルドは何刻頃に開きますか?」
「冒険者ギルドのほうは光の一刻から」
光の一刻? それって今じゃ……
不思議に思っておばさんの方を見ながらギルドのカウンターを指差すと、おばさんは自分で自分を指差す。
「あれ? おばさんは宿の人じゃ……」
「そうよ。でも冒険者ギルドの受付もやってるの」
話を聞くと、何でもこの村に来る冒険者はあまりいないため、正規のギルド職員は滞在してないらしい。
だから宿のおばさんがここで冒険者が森で取ってきた素材を換金し、それをこの村の先にある街、ルティールへ輸送してるそうだ。
輸送費とおばさんへの人件費で赤字になるらしいが、冒険者への支援が目的のギルドとしては、赤字でも支部を置かないわけにはいかないらしい。
ここのギルドの事情を聞き、早速おばさんに素材を換金してもらう事にした。
「あらあら、魔物の核をいっぱい持ってるのね」
マジックバックを通して時空間収納から取り出した袋一杯の核を見て、おばさんが目を白黒させる。
袋の中に入っていたのはレベル50前後の魔物の核が約百個。おばさんは一生懸命核の数を数え、その品質を調べていく。
「うーん、レベル47のが三十二個、レベル50が六十五個、レベル54のが三個か……」
呟きながら紙になにやら計算をし始めた。
「核の相場はレベル20以下がレベルかける銅貨1枚。レベル21以上がレベルかける銀貨1枚、レベル100以上になるとレベルかける金貨1枚だけどいいかしら?」
おばさんに確認され、静かに頷く。
ハッキリ言って相場も貨幣の価値も分からないんだけどね……
相場はともかく、何とか貨幣のの価値が分からないかと思案して、それとなくおばさんに聞いてみる事にした。
「ちなみに、ここの宿って一泊いくらなんですか?」
「? 銀貨八枚ですけど、まさか払うつもりですか? やめてくださいよ、こっちは命の恩人様から代金を頂こうなんて思ってないんですから」
おばさんにそう言われ、素直に気持ちを受け取るむねを伝えて、貨幣の価値を割り出し始める。
(一泊で銀貨八枚って事は……おそらく銀貨一枚は千円位か……)
アユムの意見も欲しかったので念話で確認していると、アユムが追加情報をくれる。それを元にアユムと価値を割り出すとーー
銅板 ーー10円
銅貨 ーー100円
銀貨 ーー1000円
金貨 ーー1万円
大金貨ーー10万円
白金貨ーー100万円
白金棒ーー1000万円
こんな感じだと思う。そして、今回の核の値段はなんと金貨四百九十一枚と銀貨六枚。約五百万円を稼いだ事になる。
(これは美味しい)
〈そうでも無いんですけどね。普通、百匹の魔物を倒すとなると、装備や回復薬を多く消費する事になります。だから普通の冒険者がこれだけの戦果を挙げるとすると、それらの経費で金貨四百枚は飛んで行くんです〉
(それは世知辛い……)
現実の厳しさを語るトモとそんな念話をしてると、二階からティアが降りて来る。そして一言、
「ん、お腹すいた」
ティアの言葉を受け、俺はおばさんを見た。するとおばさんは両手を顔の前で合わせる。
「ごめんなさいね、昨日まで森には入れなかったから食材が全然ないのよ」
「いえいえ、食材なら提供しますよ」
そんな提案をしていると、奥から今度は五十代前半位のおじさんが出て来る。どうやらおばさんの旦那らしい。
「おお、おはようございます。命の恩人殿」
陽気に挨拶をして来るおじさんに返事をしていると、おばさんがおじさんに朝食の件を話す。どうやら調理はおじさんの担当らしい。
おばさんの話を聞いたおじさんが難色を示す。
「俺が命の恩人殿に料理を出すのか? あのワイバーン肉を見事に焼き上げた命の恩人殿に?」
ああ、何か嫌な展開になって来た気がする……
「お腹すいた」
ティアが俺の側まで来て訴える。
ああ……やっぱりのんびり出来ないのか。
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