上 下
46 / 172
第3章 人間超越編

第42話 話し合い……力を前面に押し出してるけどね

しおりを挟む
   
   
   
   
「はぁ?   【至高の料理人】?」

   レリックさんの推測を聞き、かなねぇが素っ頓狂な声を上げた。

「何でまた料理スキルを最上位まで上げてるのよ?」

   身を乗り出して聞いてくるが、俺は首を左右に振る。

「こちらの情報を提示しろと?   それは信用を勝ち取ってからじゃないかなフロラインさん」
  
   俺の拒絶を受け、かなねぇはゆっくりと椅子に座り直し、真面目な顔で正面から見据えてくる。
   ふう……やっと普通の話し合いに持ち込めた。かなねぇが絡むと本題に入るまで時間が掛かるから嫌なんだよ。
   やっと真面目な話し合いになると安堵してると、意外な所から横槍が入った。

「何が信用勝ち取ってからだ!   おい貴様!   勇者崩れの料理人風情が総統相手に何偉そうな事を言っている!」

   そう喧嘩腰に怒鳴ったのはフルプレートを着込んだ冒険者。

「ちょっと、貴方は黙ってなさい」

   かなねぇが諌めるが、冒険者は引かない。

「総統、こんな奴に低姿勢で対応する必要はありませんよ。こんなザコ、脅してやれば一発で言う事聞きます」

   フルプレートの冒険者はかなねぇにそう言うと、俺に視線を移し、嫌味ったらしい笑みを浮かべる。
   ああ、典型的な力でのし上がった奴の論理だな。こういう奴は自分より強い者にはへりくだるけど、弱い者にはとことん高圧的に出る。
   面倒臭い奴がいるなぁと嘆息を付いていると、俺の横から影が飛び出した。

「やばっ!」

   咄嗟に影を掴もうと手を伸ばすが、俺が掴んだのは隠者のローブの襟首。
   隠者のローブの中身であるティアは脱皮するが如くするっとローブを脱ぐと、そのままフルプレートの冒険者の胸元に蹴りを入れた。

   ゴガッ!

   ティアの【初級格闘術】で強化された蹴りはフルプレートの分厚い金属に足型のヘコみをつけ、フルプレートの冒険者は後方にぶっ飛ぶ。ティアは蹴りの反動で後方宙返りをしてテーブル着地すると、キッと吹っ飛んで床に倒れているフルプレートの冒険者を睨んだ。

「ん!   ひろにぃを馬鹿にするのは許さない」

   片方の手で床に倒れるフルプレートを指差し、もう片方の手を腰に当てプンプンと怒るティア。しかし、そんなティアを見て冒険者の一人であるエルフの女が声を上げる。

「何でエルフの子供がこんな所に……まさか、劣等種!」

   フードが外れエルフ特有の長い耳が見えたからティアがエルフだと分かったのだろうが……この女……今、なんて言った?
   心の中からドス黒い怒りがこみ上げてくるが、必死に堪える。
   ティアの行動は子供のやった事と取り成す事が出来る。しかし、俺が喧嘩腰になれば下手をすると対立を免れない。
   ティアを侮蔑したエルフを許せず、奥歯を噛み締め、力を込めすぎて震える拳を必死で抑えていると、アユムが念話で語りかけてきた。

[マスター、何が勘違いをなさっていませんか?]
(勘違いだと?)
[はい。マスターは戦えば勝てないと思っていませんか]
(それはそうだろう。能力値の差が四倍以上あるんだぞ)

   俺がそう答えると、念話の奥から『ふっ~』と、溜息の音が聞こえた。

[いいですかマスター。マスターの持つ【全能力値強化】はあらゆる行動に対し、能力値に三倍のプラス補正を掛けるスキルですよ]

   アユムの言葉を聞き、思わず念話で『あっ!』と叫ぶ。

[それに魔術系補助スキルの最高位である【魔導を極めし者】、探索系補助スキルの最高位【忍ぶ者】、武術系補助スキルの最高位【武を極めし者】まで所持しています。極め付けは人種の最高峰【超越者】。はっきり申しまして、負ける要素が見当たらないのですが]

   そこまで聞いて、俺は心の中でニヤリと笑った。

《うっわぁ……マスター、獰猛な笑みだね》

   表情に出してない筈なのに、ニアが俺の心の表情を的確に表現する。

(スキルポイントはいくつ残ってた?)
〈116です。マスター、ティアちゃんを侮辱したあいつを懲らしめちゃって下さい!〉

   トモの声援を受け、すぐさま【威圧】(2)をレベル10で取得する。
   さて、後顧の憂いは無くなった……この怒り、存分に発散させて貰おうか!
   怒りに任せ、【魔導を極めし者】、【武をを極めし者】、【忍ぶ者】を発動し、【威圧】に上乗せさせて解放する。

「なっ!」
「これは!」

   突然俺が放った威圧感に、オロオロしながらも座っていたかなねぇはすぐさま立ち上がって後ずさり、静かに傍観していたレリックさんは庇う様にかなねぇの前に立ってステッキを構える。他の冒険者どもは威圧を受けた瞬間、腰が砕けた様にその場に座り込むと、怯えた目をこちらに向けた。

「おい、そこのエルフ」
「ひっ!」

   言いながらエルフの女に視線を向けると、エルフの女は小さく悲鳴を上げる。

「今、俺の相棒に何て言った?」

   冷たく言い放つが、エルフは震えるだけで何も答えない。埒が明かなそうなのでエルフに向かって歩き始めると、レリックさんと彼の後ろに隠れたかなねぇが立ちはだかった。

「フロラインさん……フロラインさんは喧嘩を売りに来たのかい?」

   立ちはだかったかなねぇ達に静かに尋ねる。すると、かなねぇはブンブンと首を横に振り、代わりにレリックさんが口を開く。

「それは誤解です博貴殿。確かに彼等の無礼はこちらの落ち度ですが、彼等はあくまで護衛として連れて来ただけで我等に敵対の意思はありません」

   レリックさんの言い訳を聞き、冒険者共に鑑定を掛けるようにトモに指示を出す。

〈進化系スキルは持っていませんが、平均レベルは200強。能力値はほぼ完ストの1000前後で、スキルは低レベルの超級が一つか二つに補助系が少々って所です〉

   トモの報告を聞き、冒険者共に冷ややかな視線を送る。

「護衛、ねぇ……ここに来るだけならこんな格下の護衛なんか要らないと思うけど……もしかして、場合によっては実力行使で話を進める気だったんじゃないの?」

   言いながら視線をレリックさんに向ける。

「いやいや、それこそ誤解ですーー」
「それに!」

   怒鳴る様に大声を出し、レリックさんの言い訳を中断させる。

「レリックさん、あんた俺の力量を測るためにわざとこの騒ぎを黙認してましたね……どうです、目論見通り力をお見せしましたが満足して頂けましたか?」

   言いながら挑発する様に笑って見せると、レリックさんは構えていたステッキを下ろし、シルクハットを脱いで静かに頭を下げた。

   
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

三十歳、アレだと魔法使いになれるはずが、異世界転生したら"イケメンエルフ"になりました。

にのまえ
ファンタジー
フツメンの俺は誕生日を迎え三十となったとき、事故にあい、異世界に転生してエルフに生まれ変わった。 やった! 両親は美男美女! 魔法、イケメン、長寿、森の精霊と呼ばれるエルフ。 幼少期、森の中で幸せに暮らしていたのだが……

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

【第一部完結】忘れられた王妃様は真実の愛?いいえ幸せを探すのです

Hinaki
ファンタジー
敗戦国の王女エヴァは僅か8歳にして14歳年上のルガート王の許へと国を輿入れする。 だがそれはぶっちゃけ人質同然。 住まいも城内ではあるものの少し離れた寂れた離宮。 おまけに侍女 一人のみ。 離宮の入口には常に彼女達を監視する為衛兵が交代で見張っている。 おまけに夫となったルガート王には来国した際の一度切しか顔を合わせてはいない。 それから約十年……誰もが彼女達の存在を忘れていた? 王宮の情報通である侍女達の噂にも上らないくらいに……。 しかし彼女達は離宮で実にひっそりと、然も逞しく生きてきた。 何と王女は侍女と交代しながら生きぬく為に城下で昼間は働き、仕事のない時は主婦として離宮内を切り盛りしていたのである。 全ては彼女達が誰にも知られず無事この国から脱出し、第二の人生を謳歌する為。 だが王妃は知らない。 忘れられた様に思い込まされている隠された真実を……。 陰謀と執着に苛まれる王女の心と命を 護る為に仕組まれた『白い結婚』。 そしてまだ王女自身知らない隠された秘密が幾度も彼女を襲う。 果たして波乱万丈な王妃様は無事生き抜き真実の愛を見つけられるでしょうか。 因みに王妃様はかなり天然な性格です。 そしてお付きの侍女はかなりの脳筋です。 また主役はあくまで王妃様ですが、同時に腹心の侍女であるアナベルの幸せも極めていく予定……あくまで予定です。 脱線覚悟で進めていくラブファンタジーならぬラブコメ?脳筋万歳なお話になりそうです。 偶にシリアスやドロドロ、胸糞警報もありです。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません

ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」 目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。 この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。 だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。 だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。 そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。 人気ランキング2位に載っていました。 hotランキング1位に載っていました。 ありがとうございます。

傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。 実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。 それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。 ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。 目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。 すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。 抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……? 傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに たっぷり愛され甘やかされるお話。 このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。 修正をしながら順次更新していきます。 また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。 もし御覧頂けた際にはご注意ください。 ※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。

処理中です...