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第3章 人間超越編
第42話 話し合い……力を前面に押し出してるけどね
しおりを挟む「はぁ? 【至高の料理人】?」
レリックさんの推測を聞き、かなねぇが素っ頓狂な声を上げた。
「何でまた料理スキルを最上位まで上げてるのよ?」
身を乗り出して聞いてくるが、俺は首を左右に振る。
「こちらの情報を提示しろと? それは信用を勝ち取ってからじゃないかなフロラインさん」
俺の拒絶を受け、かなねぇはゆっくりと椅子に座り直し、真面目な顔で正面から見据えてくる。
ふう……やっと普通の話し合いに持ち込めた。かなねぇが絡むと本題に入るまで時間が掛かるから嫌なんだよ。
やっと真面目な話し合いになると安堵してると、意外な所から横槍が入った。
「何が信用勝ち取ってからだ! おい貴様! 勇者崩れの料理人風情が総統相手に何偉そうな事を言っている!」
そう喧嘩腰に怒鳴ったのはフルプレートを着込んだ冒険者。
「ちょっと、貴方は黙ってなさい」
かなねぇが諌めるが、冒険者は引かない。
「総統、こんな奴に低姿勢で対応する必要はありませんよ。こんなザコ、脅してやれば一発で言う事聞きます」
フルプレートの冒険者はかなねぇにそう言うと、俺に視線を移し、嫌味ったらしい笑みを浮かべる。
ああ、典型的な力でのし上がった奴の論理だな。こういう奴は自分より強い者にはへりくだるけど、弱い者にはとことん高圧的に出る。
面倒臭い奴がいるなぁと嘆息を付いていると、俺の横から影が飛び出した。
「やばっ!」
咄嗟に影を掴もうと手を伸ばすが、俺が掴んだのは隠者のローブの襟首。
隠者のローブの中身であるティアは脱皮するが如くするっとローブを脱ぐと、そのままフルプレートの冒険者の胸元に蹴りを入れた。
ゴガッ!
ティアの【初級格闘術】で強化された蹴りはフルプレートの分厚い金属に足型のヘコみをつけ、フルプレートの冒険者は後方にぶっ飛ぶ。ティアは蹴りの反動で後方宙返りをしてテーブル着地すると、キッと吹っ飛んで床に倒れているフルプレートの冒険者を睨んだ。
「ん! ひろにぃを馬鹿にするのは許さない」
片方の手で床に倒れるフルプレートを指差し、もう片方の手を腰に当てプンプンと怒るティア。しかし、そんなティアを見て冒険者の一人であるエルフの女が声を上げる。
「何でエルフの子供がこんな所に……まさか、劣等種!」
フードが外れエルフ特有の長い耳が見えたからティアがエルフだと分かったのだろうが……この女……今、なんて言った?
心の中からドス黒い怒りがこみ上げてくるが、必死に堪える。
ティアの行動は子供のやった事と取り成す事が出来る。しかし、俺が喧嘩腰になれば下手をすると対立を免れない。
ティアを侮蔑したエルフを許せず、奥歯を噛み締め、力を込めすぎて震える拳を必死で抑えていると、アユムが念話で語りかけてきた。
[マスター、何が勘違いをなさっていませんか?]
(勘違いだと?)
[はい。マスターは戦えば勝てないと思っていませんか]
(それはそうだろう。能力値の差が四倍以上あるんだぞ)
俺がそう答えると、念話の奥から『ふっ~』と、溜息の音が聞こえた。
[いいですかマスター。マスターの持つ【全能力値強化】はあらゆる行動に対し、能力値に三倍のプラス補正を掛けるスキルですよ]
アユムの言葉を聞き、思わず念話で『あっ!』と叫ぶ。
[それに魔術系補助スキルの最高位である【魔導を極めし者】、探索系補助スキルの最高位【忍ぶ者】、武術系補助スキルの最高位【武を極めし者】まで所持しています。極め付けは人種の最高峰【超越者】。はっきり申しまして、負ける要素が見当たらないのですが]
そこまで聞いて、俺は心の中でニヤリと笑った。
《うっわぁ……マスター、獰猛な笑みだね》
表情に出してない筈なのに、ニアが俺の心の表情を的確に表現する。
(スキルポイントはいくつ残ってた?)
〈116です。マスター、ティアちゃんを侮辱したあいつを懲らしめちゃって下さい!〉
トモの声援を受け、すぐさま【威圧】(2)をレベル10で取得する。
さて、後顧の憂いは無くなった……この怒り、存分に発散させて貰おうか!
怒りに任せ、【魔導を極めし者】、【武をを極めし者】、【忍ぶ者】を発動し、【威圧】に上乗せさせて解放する。
「なっ!」
「これは!」
突然俺が放った威圧感に、オロオロしながらも座っていたかなねぇはすぐさま立ち上がって後ずさり、静かに傍観していたレリックさんは庇う様にかなねぇの前に立ってステッキを構える。他の冒険者どもは威圧を受けた瞬間、腰が砕けた様にその場に座り込むと、怯えた目をこちらに向けた。
「おい、そこのエルフ」
「ひっ!」
言いながらエルフの女に視線を向けると、エルフの女は小さく悲鳴を上げる。
「今、俺の相棒に何て言った?」
冷たく言い放つが、エルフは震えるだけで何も答えない。埒が明かなそうなのでエルフに向かって歩き始めると、レリックさんと彼の後ろに隠れたかなねぇが立ちはだかった。
「フロラインさん……フロラインさんは喧嘩を売りに来たのかい?」
立ちはだかったかなねぇ達に静かに尋ねる。すると、かなねぇはブンブンと首を横に振り、代わりにレリックさんが口を開く。
「それは誤解です博貴殿。確かに彼等の無礼はこちらの落ち度ですが、彼等はあくまで護衛として連れて来ただけで我等に敵対の意思はありません」
レリックさんの言い訳を聞き、冒険者共に鑑定を掛けるようにトモに指示を出す。
〈進化系スキルは持っていませんが、平均レベルは200強。能力値はほぼ完ストの1000前後で、スキルは低レベルの超級が一つか二つに補助系が少々って所です〉
トモの報告を聞き、冒険者共に冷ややかな視線を送る。
「護衛、ねぇ……ここに来るだけならこんな格下の護衛なんか要らないと思うけど……もしかして、場合によっては実力行使で話を進める気だったんじゃないの?」
言いながら視線をレリックさんに向ける。
「いやいや、それこそ誤解ですーー」
「それに!」
怒鳴る様に大声を出し、レリックさんの言い訳を中断させる。
「レリックさん、あんた俺の力量を測るためにわざとこの騒ぎを黙認してましたね……どうです、目論見通り力をお見せしましたが満足して頂けましたか?」
言いながら挑発する様に笑って見せると、レリックさんは構えていたステッキを下ろし、シルクハットを脱いで静かに頭を下げた。
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