45 / 172
第3章 人間超越編
第41話 カナねぇとの腹の探り合い……でも侮れないのはやっぱりナイスミドル
しおりを挟む「では改めて、私はフロライン。冒険者ギルドの総統をしてます」
席に座ったかなねぇは先ずそう挨拶した。
(それが今のかなねぇの名前と肩書きか……)
〈冒険者ギルドの総統ですか、中々の大物ですね〉
(ギルドって確か同業者組合の事だったよな。偽名は何の為だろう?)
《マスター達の名前って、響きが独特で目立つからじゃない》
(そうか……勇者って事を隠すなら日本名は目立つのか……)
俺もこの世界で勇者の肩書きを捨てて暮らすなら、偽名を考えないといけないかなぁなどと思いつつ、トモ、ニアとの念話を一旦中断し、かなねぇの丁寧な挨拶に答える。
「これは御丁寧に、俺は桂木博貴。ここに来たという事は、既に存じているとは思いますが、勇者の出来損ないです」
かなねぇの丁寧な挨拶に取り敢えず合わせつつ、出来損ないを強調して答える。
しかし、そんなよそ行きの挨拶交わす二人を、レリックさんが一刀両断にした。
「ふぅ、博貴殿はまだそんな戯言事を宣うのですねぇ。それとフロライン様、今更取り繕っても、既に入り口でのやり取りを後ろの四人は聞いているのですよ。回りくどい言い回しはおやめになっては?」
「ああ! もう、折角猫かぶってたのに何でそう横槍をいれるかなぁ」
両手をブンブンと振り回しながら駄々っ子の様に文句を言うかなねぇ。そしてそれを驚いた顔で見つめる冒険者四人。
いやいや、被ってた猫はレリックさんの言った通り入り口で脱いじゃってるよね。
カナねぇの行動に嘆息を吐きながら、俺の後ろで隠者のローブのフードを被って気配を殺してたティアの方に視線を向ける。
「ティア、悪いけどお茶と茶菓子を準備してくれる?」
「ん、あれを出すの?」
一瞬、嫌な顔をするティア。あれとは最近、食後のデザートとして出していた物で、作り置きがまだ冷蔵庫もどきの勝手に冷える箱の中に入っていたはずだ。
「また幾らでも作ってやるから、人数分切り分けて持ってきて」
「……ん」
ティアは渋々頷き厨房へと消えていった。
「へ~、結構仲いいんだね~」
言われてかなねぇの方に視線を戻す。するとかなねぇはテーブルに両肘を付き、両手を顎に添えてニヤニヤしながら俺を見ていた。
「それであの子は誰なの? あんまり親密になると、後でヒメちゃんが爆発するわよ」
何故そこでヒメの名前が出るのかは知らないが、かなねぇは冷やかす気満々のご様子。
ここで変に狼狽えると、かなねぇに主導権を握られるな……かなねぇの冷やかしグセはタチが悪いからなぁ、冷静に対処しないと。
「あの子は偶々、行動を共にする事になった子だよ。それより、フロラインさんは俺の情報をどこで?」
俺が冷静に対処した事で、かなねぇは少しムッとする。
「ま~たそんな分かり切った事聞くの? そんなのけんちゃん達に決まってるでしょ」
予想はしていたが、やっぱり健一だったか……
「健一はフロラインさんに会って何の躊躇も無く俺の情報を?」
睨む一歩手前位の視線でかなねぇを見据え、声のトーンを落として尋ねる。すると、かなねぇも戯けた表情を消し、笑みを浮かべた。
「あら、けんちゃんが私に何の躊躇をする必要があるの?」
「フロラインさんがかつてのフロラインさんなら、俺も無条件で信用するんだけどね……その辺の事は健一なら理解出来ると思ってたんだけど……」
俺がそう言うと、かなねぇは天を仰いだ。
「あ~あ、やっぱりひろちゃんは警戒するかー」
「そりゃあそうでしょ。冒険者ギルドの総統様相手に迂闊な約束でもしようものなら、権力闘争の道具にでも使われかねない」
「そんなつもりは……ちょっとしか無いわよ。けんちゃん達にだって私の事はちゃんと説明したもの」
「ちょっとはあるんかい! ……って、今のフロラインさんの立場を知った上で健一達は俺の事を話したのか?」
驚きだ。てっきり昔のよしみを最大限に生かして情報を引き出したのかと思ってたけど……
俺が驚くと、かなねぇがまたニヤァっと笑う。
「あっらぁ、長い付き合いなのに分からなかったの? けんちゃんはね、人のあしらいは上手いけど、腹の探り合いはイマイチなのよ」
……そう言えば健一って、自分の興味外の事には無関心だったな。だから、気に入らない人間をあしらう技術は高いけど、気に入らない人間の腹を探る気なんてもともと持ち合わせていないから、腹の探り合いは下手だったのか。あれ? という事は……
「もしかして健一達って、城で腹黒い奴らにいい様にされてる?」
心配になりそう聞くと、かなねぇの隣に座るレリックさんが嘆息混じりに口を開いた。
「ええ、それはもう。このまま行けばその内傀儡にされると思い、先日お会いした時に少しばかり喝を入れさせて頂きました」
レリックさんの喝って……
先程の精神的に疲れるやり取りを思い出し苦笑いを浮かべていると、ティアがお盆を持ってリビングに入って来る。
「ああっ!」
「……ほう」
お盆に乗っている物を見て、かなねぇが大声を上げ、レリックさんが感嘆の声を上げる。
やっぱりこの世界にはこの手のお菓子って無いんだな。
二人の反応を見て、そう確信する。
ティアが持って来たのはケーキ。スポンジに生クリームを塗ってフルーツをトッピングしたシンプルな物だが、【至高の料理人】の補正によって、極上の仕上がりになっている。
ティアがケーキを並べていくと、かなねぇは自分の前に置かれたケーキに釘付けになった。
「ひろちゃん……これって……」
カナねぇがケーキを睨みつけながら、体をワナワナと震わせている。
「ケーキだよ。やっぱりこの世界には無いの?」
「無いわよ! お菓子っていったら硬いクッキーとか、飴とか、手間の余りかからない物ばかりだもの」
「勇者が再現しなかったの?」
「【料理】スキルを持ってる勇者なんていなかったわよ! そう言えば今回の勇者は最初っから付けてもらってたんだっけ?」
「そう言えばそんな事いってたっけ。前の勇者が料理出来なくて栄養失調や食中毒になったとか……」
俺がそう言うと、かなねぇは勿論、レリックさんまで無言で渋い顔をした。口に出したくはない、トラウマでもあるんだろうか?
「まぁ……そんな事はどうでもいいわ。これ、頂くわね」
かなねぇはそう言うが否やフォークでケーキを一口サイズに切り分け、口に運び満面の笑顔を浮かべた。
かなねぇが食べたのを見て、冒険者四人も手渡されていた皿に乗ったケーキをフォークで食べ始める。
そして驚愕の表情になった後、満面の笑みを浮かべる。
「何これ!」
「うまっ!」
皆が笑顔でケーキに舌鼓を打っている中、レリックさんだけが一口食べた後、真面目な顔でジッとケーキを見つめていた。
「このケーキは、博貴殿がお作りに?」
「えっ、ええ、そうですけど……」
ケーキを見つめたまま突然質問されて慌てて答えると、レリックさんは『う~む』と唸った後、俺に視線を向ける。
「このケーキの味、完成度から推測するに、博貴殿は【料理の達人】……いや、【至高の料理人】を取得されてると見ましたが?」
ああ、この人はお茶請けからもここまで情報を引き出しすのか……
俺は頭を抱えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
冒険者四人組にカナねぇ達が元勇者だとバレない会話を、と思いましたが、この会話を聞いていたら察しますよね。
その辺は突っ込まないで下さい。
神尾優でした。
1
お気に入りに追加
4,329
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。
猫正宗
ファンタジー
白羽明星は気付けば異世界転移しており、背に純白の六翼を生やした熾天使となっていた。
もともと現世に未練などなかった明星は、大喜びで異世界の大空を飛び回る。
すると遥か空の彼方、誰も到達できないほどの高度に存在する、巨大な空獣に守られた天空城にたどり着く。
主人不在らしきその城に入ると頭の中にダイレクトに声が流れてきた。
――霊子力パターン、熾天使《セラフ》と認識。天界の座マスター登録します。……ああ、お帰りなさいルシフェル様。お戻りをお待ち申し上げておりました――
風景が目まぐるしく移り変わる。
天空城に封じられていた七つの天国が解放されていく。
移り変わる景色こそは、
第一天 ヴィロン。
第二天 ラキア。
第三天 シャハクィム。
第四天 ゼブル。
第五天 マオン。
第六天 マコン。
それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。
気付けば明星は、玉座に座っていた。
そこは天の最高位。
第七天 アラボト。
そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。
――これは異世界で神なる権能と無敵の天使軍団を手にした明星が、調子に乗ったエセ強者を相手に無双したり、のんびりスローライフを満喫したりする物語。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
召喚アラサー女~ 自由に生きています!
マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子
信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる