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第3章 人間超越編

第39話 懐かしき人への傾向と対策……カナねぇにこんなに悩まされるなんて、程々にあったなぁ

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「ん、着替えた」

   フル装備で戻り、腰に手を当て胸を張りドヤ顔のティアの頭を撫でてやる。
   今のティアの装備は、ドリアードのドロップアイテムである希少級+の聖樹の木片から作った薄緑色の胸当てと籠手。
   その上から、宝箱から出て来た伝説級-の隠者のローブを羽織っているのだがこの隠者のローブ、ローブと命名されているのに、何故かティアのサイズで丈が腰下までしかない。しかも腰の辺りに一対のポケットが付いていて、更にフードまで付いてるーーそう、これは何処からどう見てもパーカーなのだ。
   ティアはこのパーカーをいたく気に入り、フードを被った時の特殊効果である気配隠蔽力アップを利用した奇襲を得意としていた。
   俺もこの戦法に協力する為【超級短剣術】を取得し、ティアにラーニングさせている。

「さて、今度のお客様は何処の誰さんかね」

   相手によってはヒヒイロカネの加工を邪魔した腹いせの的にしてやろうと、窓から街道の先を見つめつつ【千里眼】を発動させる。

「………………」

   森の中をこちらに向かって六人組の男女が歩いている。その先頭を歩く、ミニスカ浴衣というこの世界には似つかわしく無い奇抜な姿の女性を見て、俺は無言でこめかみを押さえた。

「ん?   奇襲なら森の中がいい」

   俺の行動に小首を傾げながらも、戦うこと前提で戦闘プランを発表するティアを手で制する。

「いや、戦闘じゃなくて先ずは話し合いだ」
「ん、でも、今度はティアも出る」

   対御老体戦の時に後ろで待機させてたのが不満だったのだろう。鼻息荒く力説するティア。
   ああ、随分好戦的になっちゃったなぁ……やっぱり俺以外に交流が無いダンジョン教育には無理があったか。
   ティアの将来が心配になってきたが、取り敢えずそちらの心配は先送りにさせて貰って、先ずは目先の心配だよな……

[先程から様子がおかしいですが、お知り合いですか?]

   俺の困惑を察知したのか、アユムが念話をしてくる。

(ああ、同郷の幼馴染みだよ。しかも、状況から考えて俺の世界の時間で俺達より一年前にこっちに来てる筈の人だ)
〈マスターより一年前にですか?   それは有り得ないと思いますが〉

   トモの疑問に俺も同意見だった。だから俺の世界の時間でと言ったのだが……
   かつて、ナビさんに聞いた事があった。五百年前の初源の勇者と、それから百年毎に現れる勇者の事を。
   五百年前といったら日本は戦国時代の頃だ。その百年後以降は江戸時代。その頃の人間に異世界転移を認識させ、納得させる?   無理だろ。
   そんな事を思っていた時、転移する時の健一の言葉を思い出した。『カナねぇに逢えるかもしれない』その言葉を思い出すと同時に、カナねぇの時も行方不明者は五人だったという事も思い出す。そして、こう結論付けたーーあっちの世界とこっちの世界は時間軸が違うか、転移の魔法は時間軸を無視すると。
   一方的な説明だけで異世界に放り出す様なふざけた神の事だ、ある程度その辺の知識に長けた者を選別してるのだろう。それに、白い部屋で既に付けられていた【恐怖耐性】。あれは異世界に連れて行かれる恐怖心も消してたんじゃないか?

〈マスター?〉
「……ん?」

   考え込んでいた俺はトモの心配そうな声で我に返った。

[また考え事ですか?]
《また自分だけで考え込んでたの?》

   すぐさまアユムとニアに同時に突っ込まれる。

「ああ、すまん。で、俺の見解なんだが……今こっちに向かって来てる幼馴染みの天野香奈美は、俺達の世代以前の勇者だと思う」
〈えっ、だってマスターはさっき一年前って……〉
「ああ、だから俺達の世界の時間で、と前置きしただろ」
[そういう事ですか。マスターの世界とこの世界では時間軸が違うのですね]
「それか、転移魔法が時間軸を無視するかだな」
《じゃあさぁ、あの変なお姉さんの隣にいる胡散臭いおじさんも勇者かな?   この世界じゃ見ない格好だけど》
「ん、変な人」

   ニアの毒が含まれた言葉にティアがうんうん、と頷きながら同意する。
   ああ、いたな。カナねぇの隣にタキシードにシルクハットを被ったおっさん。中世の貴族って感じの格好だけど、カナねぇと同じく趣味で作った装備だろう。

「多分、そうだろうな。念のために鑑定しとくか」
[それは止めておいた方がよろしいかと]

   俺の提案をアユムが止める。

「ん?   何でだアユム」
[先代の勇者という事は、少なくとも百年はこちらの世界で修練した事になります]
「だろうなぁ」
[それであの若さという事は、【転生者】から更なる進化系スキルを取得してると思われます。その場合の推定レベルは百年で400前後、二百年の場合は600強まで達しているかと]
「……レベル差があり過ぎるか」
[はい。本来【転生者】からの進化系スキルごときで【超越者】のスキルを妨害をする事は不可能ですが、流石にこのレベル差では……]
〈良くて見れるのはHP、MPまでですね。しかも、鑑定を仕掛けた事が相手にバレちゃいます〉

   アユムが口籠もった所をトモのが引き継いで続ける。
   そっか、人種的には上位でもレベル差があると、スキルも妨害されるのか……だとすると、戦闘は厳禁だな。

「一応、【転生者】からの進化系スキルを取得し、レベルが400から600だとして、どれ程の強さになるか聞いときたいんだけど」
[そうですね……人種によって各能力値の上昇値や上限が異なるので、一概には言えないのですが、平均で上昇値がレベルが上がる事に50。上限は2万から3万と言ったところででしょうか]

   アユムの示した上限の数値に思わず目を見開いてしまった。

「2万から3万~!」
《そうだね、それぞれの人種の得意な部類の能力値が大体3万で不得意な方の能力値は2万。それ以外はその間で設定されてるね》
「おいおい、とんでもないな」
《上限無制限の人が何言ってるかな》

   あまりの数値の高さに驚くと、ニアが呆れたように呟く。しかし、その呟きを無視し、俺は計算を始めた。

「レベルが一つ上がる事に、人種効果によって各能力値が50上がるだろ。当然、スキルレベル10の能力値上昇効果もプラスされるから……」
[あっマスター。レベル10のスキルの能力値上昇効果は、マスターに当てはまるのはお止め下さい]
「えっ、何で?」

   アユムに忠告され、計算の手を止める。今現在、俺のレベル10のスキルによる能力値上昇効果は平均100を超えているので、それで計算しようとしたのだが……

[マスターは今まで、ボスやユニークモンスターの討伐ボーナスを除けば、21734のスキルポイントを得ています。それから【超越者】の取得分、10000を引いても11734。
   それに対し、香奈美さん達は、レベル200で【転生者】を取得したと仮定しても、合計スキルポイントは1800。レベルが600で計算しても2400です。
   そこから能力値上昇効果を計算すると、能力値一つに対して30から35が妥当です]
「と、すると、レベルが一つ上がる事に80位?」
[そうですね]
「成る程、じゃあそれを踏まえると……上限振り切るよね」
[……そう、ですね]

   相手の能力値の平均が2万から3万と決まり、久しぶりに絶望に満ちた溜め息を吐くと、トモから報告が入る。

〈相手からの【森羅万象の理】を感知。妨害ーー成功しました〉

   あっ……妨害しちゃったんだ。これでレベル0だから弱いって言い訳も出来ないなぁ。
   再び溜め息が漏れた。

   
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