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第3章 人間超越編

第38話 魔物と魔素……お楽しみは又お預けの様です

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「そう言えば、魔物とモンスターの違いって聞くの忘れてたな」

   朝食をテーブルに並べながら、ふと、御老体との戦闘中に生じた疑問を聞きそびれていた事に気付く。
   御老体が強襲してきたのは昨日の三時頃。そしてニッコニコになって帰って行ったのが夕方。その後ティアに急かされ夕食に入った為、そのままいつもの流れで、入浴、就寝と進めていって聞くのをすっかり忘れていた。

[そうでしたね。でしたら、朝食の後にお話いたしましょう]
「あっ!」
〈マスター?〉
《どうしたの?》
[どういたしました?]
「ん?」

   ある事をし忘れた事に気付き声を上げた俺に、四者四様の声が掛けられる。

「お話で思い出した……俺を化け物呼ばわりした騎士に、お、は、な、しするの忘れてた」

   御老体のはしゃぎっぷりに毒気を抜かれて、その事を失念していた事に後悔するが、4人の反応は『なんだそんな事か』程度だった。
   今日の朝食は朝からお肉が信条のティアの為に、第六十層以降に現れたクレイジーホーンのステーキとサラダ。それと、クレイジーホーンの骨で取った出汁を使ったスープだ。
   ティアにはお肉を食べるなら同量の野菜をと言い聞かせている。なのでティアはお肉と野菜を口に放り込み、それをスープで流し込むという豪快な食事を披露している。
   俺はティアの豪快な食事を横目に、説明を聞いた後のヒヒイロカネの加工の事に想いを馳せていた。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

   朝食の後片付けが終わり、再びリビングに集まってアユム先生の魔物講座を開始する。

[では、魔物とモンスターの違いですが、自ら繁殖し人間に危害を加える生物、魔術の力で生み出された戦闘能力の高い魔法生物やアンデットの事を一般にモンスターと言います]
「自ら繁殖して?」

   その言い回しに引っかかりを感じて思わず口に出してしまう。その言い方だと、魔物は違うのか?

[はい。魔法生物やアンデットを除いたモンスターは、あくまでこの世界に自然発生した生物です。しかし、魔物は魔素が集まり形作る事で生まれる異形の存在なのです]
「魔素?   ……って何?」

   また聞いた事の無い単語だ。健一なら直ぐにピンと来るんだろうなぁ。

[魔素とは、空気中に溶け込んだ魔力の事です。その原理はまだ分かっていませんが、まず、魔素が集まり核を形成します]
「ちょっと待って、核って魔物しか持ってないの?」
[はい。例えばゴブリンですが、ゴブリンにはこの世界に自然発生しているゴブリン種のゴブリンと、魔素が形成した魔物種のゴブリンがいます。しかし、核を持つのは魔物種のゴブリンだけです]
「つまりここのダンジョンには魔物種しかいないって事だな」
[はい。どの様な仕掛けなのかは分かりませんが、この『試練のダンジョン』は、常に一定の魔素濃度を保持しています]

   魔素の安定供給か……ここのダンジョンの管理を神って奴がしてるとしたら、その程度は造作無いか?
   まだ判断材料が少ないから断定は出来ないが、やっぱり神の思惑は……って言うか、ここのダンジョン『試練のダンジョン』って言うんだ。初めて知った。

[では続きですが、そうして形成された核に魔素が集まり、魔物の体を形成します。その時、核の中にある情報を元に形が決まると言われています]
「!   ……とゆう事は、核に外部から情報を入力する事が出来れば、思い通りの魔物を作れるのか?」
[今の定説が正しいという前提があればイエスです。ただ、定説は証明されていませんのでなんとも言えません。少なくとも、ドロップされた核からは情報の形跡は見つかってはいませし、核の情報がどの様にもたらされるのかも分かっていません]

   核の内部情報の証明か……それが出来れば、あのヒューマンを故意に作れる証拠になるのだが……死んだ魔物の核からは情報が消えてしまってるみたいだから核が形成された瞬間を狙うしか無いよな、それって完全に運任せじゃないか……あれ?   そう言えば、

「なあ、そもそも魔素の元になる魔力は何処から来てるんだ?」
[それは、この世界にいる全ての動植物からです]
「………………はぁ?」

   意味が分からない。それってこの世界中の動植物が魔力を垂れ流しにしてるって事?   少なくとも俺にその自覚は無い。
   俺が間の抜けた声を出したせいか、からかい魔のニアが口を挟む。

《あはは、マスター、自覚は無いって顔だね。じゃあ聞くけど、マスターは消費した魔力をどうやって回復してるの?》

   ?   ……魔力って、MPの事だよな。MPはMPポーションか、休憩で回復するけど……
   MPポーションは、材料となる薬草に含まれるMPを凝縮した物と思っている。何故、エクストラMPポーションでMPが全回復するのかは謎だけど……
   休憩での回復は……!

「動植物は絶えずMPを生み出してるのか?」
《せいか~い!   この世界の動植物は言わば『自動魔力精製装置』なんだよ。それでぇ、マスターはMP満タンの時にその『自動魔力精製装置』は止まると思う?》

   意地の悪い笑みを浮かべた少女姿のニアが思い浮かばれる。こういう時のニアは本当に生き生きと喋る。
   ニアは戯けながら喋っているけど、その内容は俺を戦慄させるのに十分な内容だ。

「まさか……」
《そのまさかだね。MPが満タンになっても『自動魔力精製装置』は止まらないよ。そして、体内に留めて置けない余剰分の魔力は体外に放出される》
「それが魔素か……」
[正確には放出された純粋な魔力が、空気中の不純物と結合した物が魔素です。それ故、魔素は魔力としての利用が不可能になっています]

   アユムがナビさん時代に聞いた核の魔力利用の話を思い出す。確か核に含まれる魔力も不純物が多くて、純粋な魔力としては使用出来ないんだったな。まあ、核の元である魔素に不純物が入ってるんだから当然と言えば当然の話だ。

〈あのー、白熱してる所すいませんが……〉

   魔素に付いて考え込んでいると、トモがおずおずと話し掛けてくる。

「どうした?」
「誰か来てる」

   どうしたのかと尋ねると、今まで大人しく俺の隣に座っていたティアが口を開く。

「ん?   ……本当だ」

   言われて【地図作製】と【気配察知】を同時使用すると、人の反応が六つ、既に四キロ程の所まで迫っていた。

「はぁ~、こりゃあヒヒイロカネは今日もお預けか?   ……たくっ、仕方がない。ティア、フル装備で準備しておいて」
「んっ!」

   着替える為に元気良く自室に戻るティアを見ながら、俺はまたお預けを食らったヒヒイロカネの恨みをどうしてくれようか考えていた。

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   また説明会になってしまいました。
   騎士のお、し、お、きの件は本当に忘れていたのをアユムのお話というワードで思い出し、そのまま博貴に代弁して貰いました。
   色々設定を頭の中に詰め込んでいるので、何か抜けていそうで怖いです。
   神尾優でした。
   
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