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第3章 人間超越編
第36話 御老体屈服……老人からの虐待?
しおりを挟む「さて……」
[マスター!]
俺が老人に向き直ろうとした時、アユムから悲鳴に近い警告が飛ぶ。
慌てて正面に向き直ると、御老体は俺に右掌を向けて嗤っていた。
「儂を前にして余裕をかましおって! 喰らうがいい。【超級風術】ライトニングボルテックス!」
御老体の掌から発生した三本の雷が螺旋を描き、ドリルの様な先端が俺へと迫る。
完全に不意打ちだった。
てっきり御老体の心は完全に折れてると思ってたけど、流石は一国の重鎮に登りつめただけあって強かだ。
【共に歩む者】の警告もこのタイミングなのだから、奇襲としては最高の物だろう。
これが老獪というやつか。
妙に落ち着いた気持ちでそんな事を考えながら、ライトニングボルテックスの直撃をこの身に受ける。
胸板に直撃した雷の衝撃が刹那の間に背中へと抜けた。
「ぐぁぁぁぁ!」
「くっはっはっはっはっ! いくらドラゴンボーンウォーリアーを倒した強者であっても、ライトニングボルテックスの衝撃には耐えられまい!」
「おお! 流石レイモンド様!」
「貴様みたいな化け物だろうが、レイモンド様にかかれば敵ではないわ!」
全身を疾る雷の衝撃に思わず叫んでしまうと、御老体が勝ち誇った様に高笑いを上げた。そして、先程まで怯えていた騎士達が活気付く。
おい! 今どさくさに紛れて俺を化け物呼ばわりした奴は誰だ?
[今、マスターを化け物呼ばわりした者を視認しました]
ナーイス、アユム。そいつには後で個人的にお、は、な、しをしなければな!
御老体の高笑いが続く中、ライトニングボルテックスが通り過ぎた後には、背を丸め地面を向いた状態で全身から煙を上げて立ち尽くす俺。
まあ、煙を上げてるのは感電の時に生じた熱で焦げた服なんだけどね。
そのまま動かずに視線だけで右上のHPを確認する。
HP 30938/33350
《約2400のダメージだね》
俺がHPを確認してるのに気付いたのか、ニアがダメージ報告をしてくる。
(【超級風術】の直撃を至近距離で受けて、たったそれだけ?)
〈いえ、レイモンドの魔力とマスターの精神力は三倍近い差があります。更に、【全能力値強化(強)】による精神力へのプラス補正。【超越者】のあらゆる耐性の向上に含まれる魔術耐性を考えれば少しダメージが大き過ぎる位です〉
[恐らく、能力値やスキルに現れない魔法技術の賜物でしょう]
いや、俺は超級の魔法を受けてケロッとしてる自分が、人としてどうなのかなって思っただけなんだよね。
トモの解説とアユムによるその補足を聞いて、ちょっとウンザリな気分になった。
「はっはっはっはっ、儂を侮るからそうなるのじゃ!」
「……けほっ」
まだ勝ち誇って高笑いを続ける御老体を他所に咳き込む。
いや、感電したせいか、口や喉の水分が持ってかれちゃったんだよね。マンガみたいに煙でも出るかなと思ったけど、やっぱり出なかった。
「はっはっはっ……はっ…………は?」
俺の咳を聞いた御老体は高笑いを止め、目を見開いてこちらを凝視した。周りで御老体を囃し立てていた騎士達もその動きを止め、視線を俺に集中させる。
皆が注目する中、ゆっくりと背筋を伸ばし御老体を冷やかに見つめてやった。
「お…………ば………………」
「ストップ!」
目を見開き、俺を指差して口をパクパクさせている御老体から視線をそらさずに鋭く叫ぶ。
「ん……だめ?」
御老体の背後から、その首にナイフを突き立てようとしていたティアが、すんでの所でその刃先を止め、俺を見た。
「うん。駄目」
「でもこいつ、ひろにぃいじめた」
言いながら頬をプクッと膨らますティアに微笑みそうになるのをグッと堪える。
「別にこの程度いじめの内に入らないよ。だから、ね」
「ん……分かった」
ティアはしぶしぶといった感じで御老体の首から刃先を離すと、テトテトと俺の横にやって来る。
そのティアの姿を見て、騎士達がざわめく。
「おい、あんな子供が……」
「しかし、いつの間にレイモンド様の背後を……」
「あれは、エルフか?」
小声で話してるのだろうが、【忍ぶ者】でブーストされた【聞き耳】はその全てを拾ってしまう。
「やかましい。お前ら少し黙れ!」
一喝してやると、辺りには静粛が訪れた。
よし、静かになったな。少しやり方が乱暴だったけど、こいつらは別に客ってわけじゃ無いからまぁ、いいか。
静かになったところで、力無くへたり込んでしまっていた御老体に目を向ける。
「なあ、御老体」
話しかけると、御老体は怯えた目で俺を見上げた。その姿に先程までの傲慢さは毛の先程も見受けられない。
その哀れな姿に溜息が漏れる。
「御老体は『風の国』の重鎮なんだろ? もうちょっとシャキッとしたらどうだ」
出来るだけ諭す様に話すと、御老体は口を開いた。
「おぬしは……いや、あなたは一体何者なのじゃ。魔導を極めた儂の渾身の一撃を受け平然としてるなど、人間とは思えぬ」
御老体の言葉に再び溜息が出る。
あーやっぱり、国の実力者から見ても人間離れしてるんだ……そうじゃないかとは思ってたけど、面と向かって言われると心に刺さるわー。
別に化け物扱いされるほどの力は……求めてたのか?
求めてないと思ったが、約半年前のレベル0の時の途方もない力への渇望を思い出すと、そうは言い切れないと思い直す。
理不尽なこの世界に立ち向かう為に手に入れた力だ。後は化け物扱いされようが、力に溺れない様に気を付けないとね。
今の力を得た状態を当たり前の様に思い始めていた自分を戒めつつ、老人に対応する。
「御老体、俺が何者かは分かってて、ここに来たんじゃないですか? 俺は『勇者』ですよ」
俺の言葉に御老体は目を見開く。
「まさか……しかし、今我が国に居る勇者達はこれ程の力は……」
「今は、ね。しかしこの先、今の俺並みの力を得る可能性はあります」
御老体は青ざめた顔で何やら思案し始めた。
自分達が利用する駒だと思ってた者達が、実は制御など出来ない化け物になる可能性があるという事が分かって、その危険性に気付いたのだろう。
怯えながら思案する御老体に更に言葉を続ける。
「それと、御老体は魔導を極めたと言いましたが、何を持って極めたと? まさか、【超級風術】と【超級炎術】それに【超級闇術】をレベル10にした程度で極めたなどど言ってるんじゃないでしょうね」
俺の言葉を聞き、御老体がその顔を上げる。
「貴方は一体何を言ってるのじゃ。超級を三つも最高レベルで収めれば、それは極めたと言っていいじゃろ」
「成る程、それがこの世界の常識ですか……では、特別にその上をお見せしましょう」
そう言って俺は顔を上げた。俺の足元に御老体。右手に両手を組み祈る少女。そして少し遠巻きに怯える五人の騎士達。
それらを一度見渡してから呪文を発動させる。
「【初級闇黒魔術】ソウルドレイン」
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御老体編、今回で書き切れると思ったら書き切れませんでした。
中途半端で申し訳ありませんが次回に続きます。
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