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第3章 人間超越編
第34話 歓迎できない客人……礼儀知らずには腹黒で対応します
しおりを挟むーーSide???ーー
「何故儂がこんなへんぴな所まで足を運ばねばならんのじゃ」
森の中を進む馬車の中で、黒いローブを着た八十を超える齢の老人は苛立ちを隠さぬ口調でそう吐き捨てると、自分の正面に座る少女を睨みつけた。
綺麗な金髪を肩の辺りで切り揃えた十五、六歳位の可憐な少女は、老人に睨みつけられ怯えながら俯く。
老人はそんな少女の様子を見て、眉間に皺を寄せる。
「全く、我が血を引きながら魔法の才能は無いわ、勇者の引き込みは遅々として進まぬわ、本当に役に立たぬ孫じゃな」
「申し訳ありません……お爺様」
か弱い声で謝る孫を『ふんっ』と鼻で笑うと、老人は窓の外へと目を向けた。
老人の名はレイモンド・E・レクリス。『風の国』ファルテイムの宮廷魔術師筆頭という肩書きを持つ人物である。
レイモンドは城内で宰相と勇者の争奪戦を繰り広げていたが、その要である孫娘、エルシアの健一と美姫の引き込みが遅々として進まないのに痺れを切らし、二人の無二の親友だという博貴を自ら傀儡にしようと乗り出したのだ。
(うちの魔術師どもは目先の破壊力ばかりに目を奪われ、人を傀儡にする様な搦め手を知らぬバカが殆どだからな。儂が出張る羽目になったが……まあ良い。レベル0の雑魚などさっさと傀儡にして、それを餌にあの小生意気な勇者二人を手駒にしてくれるわ!)
レイモンドはほぼ確定したと思われる未来予想図を思い浮かべ、ニヤリと嗤う。
レイモンドは知らなかった。自分がレベル0と見下している相手が、今期の勇者の中で最強の力を手にしている事を……
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ーーSide博貴ーー
《来ちゃったね》
ニアが軽い口調で来訪者がログハウスの前まで到達した事をつげる。その口調に焦りの色は無い。
それもその筈で、来訪者の鑑定はもう済んでいる。その内容に焦る要素が無いのだ。
「レベル150前後の武術系スキル持ちが五人と、レベル321の【臨界突破】持ちの【超級闇術】と【超級風術】それに【超級炎術】を持った魔術師が一人。後の一人はレベル5の戦闘系スキル無しねぇ」
レベルから考えれば向こうの方が圧倒的に有利に聞こえるが、レベル150の連中は能力値の平均が800程、レベル321の魔術師でさえ、知力と精神力と魔力が2400強で、後は1600前後なのだ。平均能力値7000の俺と、6000強のティアの敵では無い。
「『風の国』からの客人だとは思うけど、はてさて、どんな要件かな?」
馬車から魔術師風の老人と可愛い少女が降りたのを確認し、扉から外に出る。
《マスター、あの子の事、可愛いって思った?》
ニアが冷やかしてくるが無視。この招かれざる客人の目的が分からない以上、シリアスに対応したい。
ちなみに、ティアにはログハウスの中で待機してもらっている。騎士達の中には【気配察知】を持っている者もいたが、【気配察知】ごときで【忍ぶ者】の【気配隠蔽】を見破る事は出来ない。
「ほう、貴様が勇者の残りカスか」
いきなりの老人の言葉に苦笑いを浮かべる。
(はは、いきなり残りカスと来たか)
[マスター、この無礼者をすぐ様八つ裂きにしましょう。魔法使用の許可を]
いつもはまとめ役のアユムが物騒な事を言い始める。
〈アユム落ち着いて。この者からは情報を引き出さないといけないんだから〉
《そうそう、殺っちゃうのなんていつでも出来るんだからさぁ》
ああ……トモとニアが諌めると思ったら、まさかの『いつでも殺れる』発言。【共に歩む者】連合では、殺る事は決定事項らしい。
背後からは、弓に矢をつがえたティアがウズウズしている気配がする。
俺を侮辱されて怒ってくれるのは嬉しいけど、どうも彼女達は物騒でいけない。
ため息を一つ吐き、御老体に言葉を返す。
「挨拶も無く、いきなりのお言葉ですね。それで、貴方様はどちら様で?」
「ふん、小生意気に挨拶を求めるか……まあ、良かろう。儂は『風の国』ファルテイムの宮廷魔術師筆頭、レイモンドじゃ。今日は儂直々に貴様を迎えに来てやったのじゃ。有り難く思え」
おおう、見事な上から目線。いやはや、国の重鎮がここまで見事に高圧的な態度を取るとは……健一、苦労してるだろうなぁ。
しかし、宮廷魔術師筆頭って事は、国に所属している魔術士たちのトップってことだろ。何でそんなお偉いさんが俺を迎えに来たんだ? まさか、俺が強くなった事がバレたか……
だとすると面倒な事になるなと思っていると、そんな事は杞憂だった事がすぐ分かる。
「儂が名乗ってやったのに、レベル0のカス如きが何を黙っておる。恐ろしくて声も出ぬか」
こちらをとことん見下して嗤う老人に半ば呆れながらも、情報を引き出す為に話を合わせる事にする。
「その様な位の高い肩書きを持つ貴方が、俺なんかに何の用事があるというのです?」
「ふんっ、貴様は勇者を釣る餌に過ぎぬのだ。下らぬ詮索などせず、黙って儂について来ればいいのじゃ」
(【高速思考】発動。さて、俺が勇者を釣る餌ねぇ……)
[勇者と言うのは勿論ーー]
(健一と、ヒメの事だろうな。だとすると、俺があの二人と仲が良いって情報はどっから来た?)
〈迎えに来た時の兵士達では?〉
(いや、違うな。あの時のやり取りで、俺を抑えれば二人が付いて来る何て情報は得られない筈……)
《なら、二人から直接聞いたって事だね》
(だよな……って事はヒメ辺りにあの女の子を近づけたか)
《ヒメって子、そんなに口が軽いの?》
(まぁ……相手に悪意が無いと判断すると、真摯に対応しちゃうんだよね)
[純真……というとこですか、美徳ではありますが、腹芸が出来ないのは困り者ですね]
(まあ、そう言うな、それも長所と捉えてくれ。しかし、あの二人を引き入れたいと言う事は、『風の国』は一枚岩ではでは無いな)
[ですね。国内に敵対勢力があって、そちらが勇者達を抑えているという所でしょう]
(だとするとーーあの爺さん、利用したいな)
《えー! 殺らないのー?》
(いやいや、国の重鎮がここに向かったまま行方不明は不味いでしょ。明らかに俺に注目が集まる)
〈と、言う事は、あの者達には戻ってもらう上で、ここの情報を漏らさない様にするって事ですね〉
(まっ、そう言う事だな。力を見せて従順になるなら良し、そうでなければ、【中級闇黒魔術】で精神操作だな)
《わーい。マスターはっらぐろー!》
ニアの茶々は受けながす。健一とひめを道具扱いする様な奴に礼儀なんて必要ないんだ。
行動方針を決めた俺は【高速思考】を解除した。
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