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第5章 『水の国』教官編
第167話 問題の解決策……もしかして公彦さんっていじられキャラだったのかな
しおりを挟む「貴方はもしかして……公彦さんですか?」
俺の発した質問に、四姉妹は驚いたような表情を浮かべながら固唾を呑む。しかし、等の本人たるリザードマンは嬉しそうにその鼻先の長い口の口角を上げーー
「グル……」
次に泣きそうな表情に変えながら、唸るような声とともに静かに頷いた。
「……嘘」
リザードマンの反応に、美香さんが持っていた杖を落として両手で口を覆い、震える声で呟く。
「ははっ……マジ?」
次に美希さんが乾いた笑みを浮かべながら、構えていた剣はそのままに目をまん丸と見開いてマジマジとリザードマンを見る。そして、美久ちゃんと美子ちゃんは向き合う形で互いの両手を繋ぎながら、不思議そうな顔で俺とリザードマンマンを交互に見やっていた。
「恐らく、公彦さんのオリジナルスキルは憑依系……公彦さんは死ぬ直前にそのスキルを発動して、近くに居たリザードマンに意識を移したのだと思われます」
敢えて憑依系と言ったのは、【憑依】を持っている魔物がいるとアユムから聞いていたから。オリジナルスキルは唯一無二の物。既にこの世界にある【憑依】とは似て非なる物だと俺は考えていた。【森羅万象の理】でも、公彦さんのオリジナルスキルは見えなかったからね、その辺の隠蔽効果もある強化型なんじゃないかな。
俺の推論に、リザードマンーーつまり公彦さんは嬉しそうにコクコクと何度も頷いて、美香さんたちはその様子を呆然と見つめていたが、やがて、美香さんが恐る恐るといった感じで俺に向かって口を開く。
「でも、だったらどうして直ぐにそのことを私達に教えてくれなかったんですか? その場では信じられなくても、ログハウスまで来て何らかの方法で伝えてくれれば、私達も信じられることが出来たかもしれないのに……」
公彦さんが喋れないと判断して俺に聞いたのだろう。確かにその通りで、そこには俺も疑問を感じていた。俺達勇者は最初から【世界共通語】を持っていた。それで喋れないってことは、憑依前の自前のスキルが使えないことだけど、だとしたら【憑依】はオリジナルスキルとしてはお粗末すぎる。まぁ、ログハウスまで行けない理由は分かりきってるけど。
「偶数階層の下り階段の前には、魔物を寄せ付けない安全地帯があります。多分、魔物に憑依した公彦さんはそこに近寄れず、この階層から出られなくなったんじゃないでしょうか」
「あっ、そっか。でも、公彦にぃが始めっからオリジナルスキルを教えてくれてれば、その場で私たちに自分の存在を伝えることも出来たんじゃないのかな」
俺の説明に始めに反応し、そもそもの原因の核心に触れてきたのは美子ちゃん。
ああ、無邪気にそんな疑問をぶつけられても、そんな純粋無垢な瞳で見つめられてたら、俺の口からはあんな邪な理由を説明出来ません。それは、本人の口から聞いてください。
返答が出来ずに苦笑いを浮かべていると、そんな俺に美希さんが近付いてくる。
「博貴さん、そこんところ、なんか知ってるんじゃない?」
耳元で囁く様にそう聞いてくる美希さんに、俺は苦笑いのままその視線を彼女へと移した。
「それは……公彦さんに直接聞いてください」
「ふぅ~ん……確かにそれが道理だけど、公彦にいちゃんは喋れないみたいだし」
「それは、何とかしますよ。それを踏まえて、取り敢えずはこの階層の階段まで行きましょう」
俺の提案に、美香さんは「分かりました」と素直に頷いてくれたが、美希さんは半眼で「ふぅ~ん」と意味ありげに答え、美久ちゃんと美子ちゃんは「教えてくれないの?」と足にまとわり付いてきた。
「公彦さん、貴方も一緒に」
姉妹の視線を振り切る様にそう言いながら振り返ると、公彦さんは羨望とも妬みとも取れる眼差しを俺に向けながらコクリと頷いた。
⇒⇒⇒⇒⇒
「さて、これからのことなんですが」
あれから、迫り来るリザードマンやタコイカを、四姉妹とリザードマンという滑稽なパーティで戦いながらこの階層の下り階段まで辿り着いた俺達は、リザードマンである公彦さんを安全地帯の外に置き、その前でこれからの相談を始めた。
「公彦さんには現在、二つの障害があります」
「二つ? ここから出られないことだけじゃないの?」
「うん、それだけだと思ってたの」
俺の言葉に、即座に美子ちゃんと美久ちゃんが首を傾げる。
うん、君らは今の公彦さんの姿に違和感は感じないのかな? 本当に兄の様に慕ってたんだろうか?
美久ちゃんと美子ちゃんの薄情とも取れる反応に内心、公彦さんへの同情を芽生えさせつつ、俺は言葉を続ける。
「一つ目はさっき美久ちゃんが言った通り、安全地帯に公彦さんが入れないこと。そして、もう一つは公彦さんがリザードマンであること。これは一つ目の障害がクリア出来たとしても、リザードマンの姿では地上で生活するのに色々と支障をきたすからです」
「えー、そっかなぁ。地上の街には亜人もいっぱいいたよ。竜人って言い張れば、通りそうな気がするけど」
「うん、問題無さそうなの」
……美子ちゃん、美久ちゃん……君達、本当に容赦ないね。ほら、公彦さんがガッカリと肩を落として項垂れちゃったじゃないか。
「まぁ、確かにこの姿のままじゃ色々と不便そうだよね」
美久ちゃんと美子ちゃんに苦笑いを向けながら、美希さんが公彦さんに同情する様に言葉を続ける。
「でも、どうするの? 人に憑依する訳にはいかないだろうし……」
「そちらは解決策ははっきりしてます。それよりも問題はやっぱり、この安全地帯に公彦さんが入れないことですね。先ずはこの問題を解決しない限り、そっちの問題に移れません」
「う~ん、そうよねぇ。どうしましょう?」
美香さんが頬に手を当て困った様に首を傾げる。
本当に公彦さんを慮って悩んでる様だが、いくら悩んでも美香さんでは解決策を見出せはしないだろうな。
やっぱりここは俺が何とかするしかないか。
「そっちも、何とか解決策を見つけます。ですから、皆さんはここで待っててもらえますか」
元々、そのつもりでこの安全地帯に来たのだ。俺の中の予定調和であったそのセリフを口にすると、美久ちゃんと美子ちゃんが不安そうに俺を見てきた。
「博貴さん、行っちゃうの?」
「少し、心細いの」
「ははっ、この安全地帯の中なら危険なことはないから、少し待っててよ。それに、そろそろ夕食時、どっちにしても今日の攻略はここまでなんだよ」
そう、既に時刻は十六時三十分。今日の攻略はここまでにしといた方が良い。
美香さん達だけなら、このまま五十層のボスを攻略して転移魔法陣を使ってログハウスで休憩。なんてことも考えただろうけど、今は結界に阻まれてこの階層から出られない公彦さんも一緒だ。ログハウスに戻るのはその問題を解決した後の方がいいだろう。
双子を宥め、俺は四十九層に向かって階段を下りる。
ここからログハウスに戻るなら、五十層まで行って転移魔法陣を使った方が早い。
(アユム、あの結界に何故魔物が入れないのか、そのメカニズムは分かっているか?)
[あの結界は、魔素の侵入を阻害する効果があります。ですので、魔素が凝縮されてその実体を作り出している魔物は、その中に入れないのです]
アユムの回答に、俺は「フム」と頷く。
大体、予想通りではあるな。ならばーー
(公彦さんの身体を同じような効果の結界で覆ってしまえば、魔素の反応を感知されなくて結界内に入れるんじゃないかな)
[魔素の反応を表に出さない為に、リザードマンの周りを同じ結界で覆ってしまうということですね。はい、それならば結界内に入れる可能性は高いと思われます]
やっぱりそうか。よし! その問題さえ何とかなれば、もう一つの問題はこのダンジョンを攻略していけば自然に解決する。何とかなりそうだ。
突如降って湧いた問題に光明が差し、俺はホッとしながら迫り来る魔物どもを払いのけながらダンジョンを進んだ。
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