ギャルゲー主人公に狙われてます

白兪

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7月

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side 黒瀬玲

 昔から大人っぽいと褒められた。親は手のかからないいい子だと褒めた。
 しかし、黒瀬は自分が良い子だなんて1度も思わなかった。ただ癇癪を起こしたり、騒いだりするほどに心が動かされるものがなかっただけだ。全てに対して興味が持てなかった。

 そんな時に出会ったのがバスケだった。中学から新しいことを始めてみようと思って入ったバスケ部だが、ハマってしまった。
 バスケは練習すればするほど実力となって自分に返ってくる。苦手だったドリブルも毎日自主練していくうちにどの1年生よりもうまくなった。
 できないことができるようになっていく。
 何でも器用にこなしていく黒瀬にとって初めての経験だった。

「スタメンを発表する!
相田! 木下! 川西!、、、
、、、黒瀬!」

 俺はばっと顔をあげた。まさか自分の名前が呼ばれるとは思っていなかった。はいと言った返事が少し上擦ってしまった。
 スタメン発表のあと顧問が話しかけてきた。
「黒瀬はまだ1年でバスケ歴も浅い。だが黒瀬は誰よりも成長している。そして誰よりも努力している。これはお前の努力が掴んだ結果だよ。」
 俺は思わず泣いてしまった。そんな俺を見てコーチは青いな、と笑った。

 その日からバスケ部のメンバーの様子がおかしくなった。先輩はよく俺に雑用や後片付けを押し付けるようになった。そして何よりも辛かったのがパスが回ってこなかったことだった。
「何でですか。」
 俺は先輩に問いただした。
「お前生意気なんだよ。
1年のくせにスタメンなって。2年でもスタメンになれてないやつはいっぱいいるんだ。
お前なんて少し背が高いだけだ。
調子に乗るんじゃねぇぞ。」
 先輩はそういうとニヤニヤ笑って去っていった。
 俺は悔しかった。努力したことがかえってこんな形になって返ってくるなんて。
 バスケは団体競技だ。1人でやっても意味はない。バスケを続ける意味はあるのだろうか。
 弱気になりかけた時、俺はバチンと自分の頰を叩いた。
 いや、証明してやろう。バスケに仲間なんていらないんだということを。

 それから俺は敵味方関係なくボールを奪っていった。同級生も先輩にビビってパスなんて渡してくれなかったからだ。

「黒瀬!!」
 急に名前を呼ばれて、ボールが飛んできた。
 俺は急のことで受け取れなかった。
「何やってんだよー。せっかく良いパス出たのに。」
口を尖らせながら文句を言ってくるのは隣の席の鈴木秋人だった。

「なんで、」
「お前周り見えて無さすぎ。そんなんじゃパス出したくても出せないだろ。」
鈴木秋人はそう言ってニカっと笑った。

 部活終わり1人で後片付けをする。
「やっぱりなー」
 鈴木秋人が現れて、片付けに参加する。
「先輩がさ、俺らが片付けするから1年は帰れっていうんだよ。
でもさ、あの先輩たちだぜ?怪しいと思ってたんだけど、好意を無下にするのは良くないしとか思ってたんだけど、、、
戻ってきてよかった。」
「ありがとう。」
「いつも1人でやってたの?」
「ああ。」
「妬みかー?本当最悪な奴らだな。
黒瀬がスタメンに選ばれたのは、先輩が下手で黒瀬が上手かったから!それ以上でも以下でもない!
そんなに悔しいなら自分も自主練しろって話だよ。」
「俺が自主練してるの知ってたのか?」
「見てる奴は見てるってことだよ。」
鈴木秋人はそう言ってまたニカっと笑った。

それから鈴木秋人は片付けを手伝ってくれるようになった。パスも出してくれる。
先輩に目つけられるぞ、と忠告したが、ああやって束になって後輩をいじめるような意気地なしは怖くないと言った。
 鈴木秋人は優しそうな見た目に反して結構はっきりものを言うタイプだった。
 隣の席で話すようになってはいたが、こんなに面白いやつだったなんて全く知らなかった。いや、ちがうな。興味がなかったんだ。

 そんな鈴木秋人の様子を見てか、他の1年も俺を手伝うようになり、パスを出してくれるようになった。
 先輩が俺らにまた生意気だと突っかかってきたが、言い返して実力でねじ伏せた。

 あれから秋人は俺の中心になった。
 秋人はいつも俺のそばにいてくれた。
 ずっと秋人のそばにいたい。秋人の目に映るのが俺だけだったらよかったのに。
 いつしか俺は強い独占欲を抱くようになった。

 
 黒瀬はこの得体の知れぬ感情を恋心だと確信していた。
 絶対に振り向かせてみせる、そんな思いが静かに燃え上がっていた。
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