ギャルゲー主人公に狙われてます

白兪

文字の大きさ
上 下
5 / 17

6月

しおりを挟む
「おはよう、、、」
「秋人おはよう。どうした?寝不足か?」
「寝不足に決まってんだろ!今日は遠足だぞ!!」
 俺はまだ少し重い瞼を大きく開いて反論する。

 今日は遠足。この遠足で誰と過ごすかでどのルートに入るのかという初期選択が決まる。2年の紫苑先輩のルートに入りたい時は、遠足には参加せず学校に行く。だが、黒瀬は遠足のバスに乗り込もうとしているし、紫苑先輩ルートではないのだろう。後からルート変更もできなくはないが。

 黒瀬は誰のことを選ぶのだろう。隣の座席の黒瀬のことをじっと見る。
 黒瀬はゲーム設定通り、整った顔立ちをしている。くっきりとした二重に高い鼻、手足は長くモデルのようだ。だが、西洋風という感じもなく純日本風のイケメンだ。
 俺はこの3年以上の月日を黒瀬と共に過ごしてきた。黒瀬のゲーム設定に載ってないようないいところもたくさん知っている。黒瀬ならどのヒロインを選んでもうまくいくだろう。
 またドクンと心臓が大きく鼓動した。

「そんなに見つめてどうした?
もしかしてこのお菓子欲しいのか?ほらよ。」
 そんな俺とは対照的に、いつも通りすぎる黒瀬に思わず笑みがこぼれてしまう。
「さんきゅ。でも俺、ガムはミントじゃなくてソーダ味派だから。これからはそっちを買ってきて。」
 いつもなら何か言い返す黒瀬も、様子のおかしかった俺がいつも通りの口調に戻って安心したのだろうか、
「秋人の好きな味くらい知ってる。ソーダ味もあるよ。」
と言って微笑んだ。
 また胸が強く鼓動した。でも嫌な感じはしなかった。


 バスはBBQ会場に到着した。
「海だー!!!」
騒ぐ俺に黒瀬はやれやれといった表情だ。
「海を見ながらBBQなんて最高じゃん!しかも午後は海のほうに行ってもいいんだって!」
「6月だぞ。海の中には入るなよ?」
「わかってるって」
 BBQのメンバー表を見る。BBQのメンツは俺、黒瀬、青柳さん、桃瀬さん、赤星さん、そして田中君だ。

「オレ、田中翔っていいます!よろしくね~」
田中くんが笑顔で挨拶する。明るくていい人そうで安心だ。
「黒瀬に、鈴木、だったよな。俺ら入学式早々話題になってた美人四天王と一緒なんてラッキーだよな」
田中くんがこそこそ耳打ちする。
「美人四天王?」
何だそのダサい名前。
「知らねぇの?青柳さん、桃瀬さん、赤星さん、黄川さんの4人で美人四天王!あそこはずば抜けて美人だから、俺芸能人かと思っちゃったよ」
「へー」
黒瀬が興味なさそうに返事をする。
「え!興味ねぇの?お前モテそうなのに恋愛とか興味ない感じ?」
「いや、恋愛に興味がないことはないけど、、」
「あ!!好きな人いるんだろ。」
黒瀬の耳が少し赤くなる。
「誰だよ?誰!せっかく一緒のメンバーになったんだし教えろよ~」

「集まって下さーい」
先生の声がする。
「そんなことより収集だ。行こう。」
「ちぇっ。なんかはぐらされた気がする」
 誰だ??ていうか好きな人いるなんて話聞いてない!俺親友なのに、、、
 そういえば今まで黒瀬と恋愛話なんてしたことなかったな。ゲームの題名「premier amour」はフランス語で初恋の意味。だから高校までは恋愛なんてしないだろって思って一切そういう話をしてこなかった。
 黒瀬の好きな人。気持ちが昂ったような、焦燥感のような、切なさのような、そんな気持ちが胸に広がる。
 親友の黒瀬にいよいよ恋が訪れるのかもしれないと焦っているのかもしれない。俺は恋愛なんてしたことないから。前世では小学校時代に一度だけあったが、何もせず終わってしまった。恋愛初心者なのだ。

「黒瀬!」
「ん?」
 気がつけば黒瀬の名前を呼んでいた。
「どうした?」
「どっちが速く集合場所行けるか勝負な!」
 俺は思い切り地面を蹴って黒瀬を追い越した。
 黒瀬にこんな醜いことを思ってるなんて知られたくなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺に告白すると本命と結ばれる伝説がある。

はかまる
BL
恋愛成就率100%のプロの当て馬主人公が拗らせストーカーに好かれていたけど気づけない話

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

彼はオレを推しているらしい

まと
BL
クラスのイケメン男子が、なぜか平凡男子のオレに視線を向けてくる。 どうせ絶対に嫌われているのだと思っていたんだけど...? きっかけは突然の雨。 ほのぼのした世界観が書きたくて。 4話で完結です(執筆済み) 需要がありそうでしたら続編も書いていこうかなと思っておいます(*^^*) もし良ければコメントお待ちしております。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

とある冒険者達の話

灯倉日鈴(合歓鈴)
BL
平凡な魔法使いのハーシュと、美形天才剣士のサンフォードは幼馴染。 ある日、ハーシュは冒険者パーティから追放されることになって……。 ほのぼの執着な短いお話です。

前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果

はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

処理中です...