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薔薇と私

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「シーア、王子様と何かあったのか?」
行きとは打って変わって黙りこくって馬車に乗るシーアに父親は心配そうに話しかけた。
「王子様、全然王子様じゃない!シーアあんな人いや!」
「シーア!そんなことは言ってはダメだよ。もしかしたら緊張していただけかも知れないよ?」
「それでもあんなに態度がひどいなんて!」
「…ソレイル殿下は自身のオッドアイを気にしていらっしゃるのだよ。」
「おっどあい?」
「ソレイル殿下の目は片目ずつ色が違うだろ?とても珍しく美しいのだが…ソレイル殿下はそれを疎んでいらっしゃる。そのせいで家族以外の人に心を開かず、素っ気ないそうだ。」
「そんなのシーア気にしないのに!」
あの目はとても美しい。王子様がそんなことに悩んでいたとは。
「…シーア酷いこと言っちゃった。王子様置いて出て行っちゃった。」
「謝れば許してくださるよ。殿下は優しいお方だから。」
「…うん。謝る。」
「いい子だね。」

次はいつ王子様に会えるのだろう。
シーアは毎日王子様のことを考えるようになった。

次に王子様と会えたのは6歳のときだった。女神様に洗礼をしてもらうため、神殿には多くの貴族の子供が集まっていた。その中には王子様もいた。
前回会った時はひどい態度をとってしまった。今度こそ、仲良くなりたい。しかし、なかなか話しかけられずにいた。
話しかける決心がついた時には既に茶髪の男の子が王子様とお話をしていた。

「まだ、大丈夫。この後のパーティーがあるから。」
シーアは自分を奮い立たせる。
しかし、パーティーでも茶髪の男の子と遊んでおり、シーアはむしゃくしゃした。
あの男の子さえいなければ、シーアは今頃王子様と仲良くなって、あのうつくしいおにわでキスをするのに。
シーアは名も知らぬ彼に恨みを募らせていた。


アストロ公爵家長男のマーズ・アストロの誕生会。沢山の子供達が呼ばれていた。その中には王子様、そしてあの男。
彼らは顔を寄せてコソコソと話し合い、微笑み合う。その姿にシーアはドキッとした。謎の胸の高鳴りにシーアは首を傾げる。王子様たちはパーティー会場を離れて、静かな庭園へと向かった。
シーアも慌てて追いかける。

「人酔いは大丈夫?」
王子様が聞いたことのないような優しい声であの男に話しかける。
「ん、大丈夫になった。ありがとな!」
彼は王子様相手だというのに何と砕けた口調だろう。しかし、王子様はそれを非難することもなく、良かったと微笑んでいる。
彼は少し上目遣い気味で王子様を見つめた。
「あとさ…実は庭園に行きたいって言ったのはソレイルと2人きりになりたかったのもあるんだ。」
彼は少し照れたように笑った。
そんな彼を見て王子様は今までにないほどに甘く微笑んだ。

どっどっどっどっ
心臓が鳴る。
何かいけないものを見てしまったかのような気持ちになる。
彼らの間にあるのは、友情なんかではない。友情よりももっと…。
食い入るように2人を見ていると王子様と目が合った。彼にバレないよう、王子様は口元に手をやり、しっと口を動かした。

シーアは堪らず庭園を駆け出した。

それからシーアは彼について調べた。彼はアース・フレイム。侯爵家の長男だが、女神に選ばれて子供が生まれるらしい。そういえばお父さまがそんなことを言っていたかも、と考える。
彼は王子様と結ばれる可能性もある。王子様と彼の仲睦まじい姿を想像してシーアは顔を赤くした。王子様の隣は私ではない。ソレイル殿下はアースの隣にいてこそ輝くのだ。

私も立派な淑女になって愛する人と結ばれたい。私を輝かせてくれるような人と出会えるよう努力しよう。そこにはきっと何よりも大切な何かがあるはずだから。

その日からシーアは変わった。
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