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楠涼夜は欠点がない

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「あのさ、ちょっと相談したいことがあるんだけど良い?」

5月の中頃、新しい学校生活にも慣れてきた。

雪都が俺にそう言った時、涼夜は丁度委員会でいなかった。
もしかしたら、それを狙ったのかもしれない。
きっと涼夜の話だろう。


誰もいない講義室には春風が吹く。
髪を靡かせて立つ雪都は春の妖精のようだった。

「あのね、お願いがあるんだけど…」
「涼夜のことだろ?」
「え?」
「いや、昔からよくあることだし」
「僕は皆んなとは違うよ!そんな周りの女子とは一緒にしないで!」

彼は目尻をキッと上げる。
彼の地雷を踏んでしまったようだ。
それもそうか。彼はただのファンなどではなく、運命の番なのだから。皆んなと同じ扱いを受けたら腹立たしくなるよな。

「ごめん、そんなつもりはなくて。
えっと、分かってるよ。
雪都が涼夜の運命の番だってことは」

彼は目を大きく見開いた。

「雪都の態度を見ててもだけど、涼夜も雪都に対してはちょっと他の人とは違う対応してるところあるから。」

そう言うと、彼は嬉しそうに微笑んだ。

「雪都は気付いてるだろうけど、俺はベータだからさ。涼夜の運命の番じゃないし」
「それなら話が早いね!僕と涼夜くんが仲良くなれるように手伝ってよ。全然涼夜くんと良い感じになれなくて困ってるの…。」

しょぼんとする彼は庇護欲をそそる。

しかし、俺はすぐにうんとは言えなかった。

「ねぇ?だめ?いや?」
「嫌ってわけじゃないんだけど…」
「じゃあ手伝ってくれるってことだよね!」
「いや、でも、涼夜って結構頑固なところあるし、俺が役に立つかはわかんないって言うか…」
「…協力したくないってこと?
やっぱり、中町くんって涼夜くんのことが好きなんだ」
「違うよ!そんなわけねぇじゃん!」
「じゃあ、手伝って欲しいな。よろしくね~!」

彼はそう言うとパタパタと講義室から出て行った。

途端に俺の心は鉛のように重くなった。

とうとう決意を固める時が来たのかもしれない。
覚悟を決めなくては。
いつかはこんな日が来ると分かっていたのだ。

涼夜と距離を置き、正しい方向へと導く。

これが、親友としてできる、最大の恩返しではないか。

その時、ピコンとスマホが鳴った。

“さっきは突然ごめんね!協力してくれてありがとう!
詳しいこと言うの忘れちゃってたから、今言うと、あんまりベタベタしないで欲しい!たったそれだけ!例えば、アーンし合ったり、手繋いだり、ハグしたり、そう言うことはやめてね”

俺は了解と打ち込む。


出来るだろうか、俺に。

中学生の頃の、登下校の騒動を思い出す。

いや、あの時とは違うんだ。
彼は運命の番で、涼夜もそうなることをきっと望んでいるに違いない。

これで良いんだ。

俺は自分にそう言い聞かせた。
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