王子様から逃げられない!

白兪

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ルシファーの過去

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幼い頃は愚かだった。
周りを無条件に信じていた。
皆が自分を愛していると思っていた。
そんなはずないのに。


「ルシファー殿下、城下町に出かけませんか?」

いつもそばで守ってくれている護衛騎士がそう尋ねた。
彼は気の許せる相手であり、兄のような存在だった。

「え!いいの?お父様からは許可もらえたの?」

「はい!ですが、目立たぬように変装しなくてはなりません。こちらに来てください。裏門からこっそり出ましょうね」

「わかった!」


幼い頃は愚かだった。疑うことを知らなかった。


「わー!城下町なんて初めて来た!みんな不思議な格好をしてるね!」

「平民はあれが普通なのですよ。
こちらに来てください。美味しい食べ物が売ってますから」

「こんな細い道に?ワクワクするな~!」

護衛騎士に手を引かれ、路地裏へと向かう。

その時、突然ハンカチで口を覆われた。

「うぐっ!」

甘い香りがしたと思ったら、意識が遠のき始める。

(毒だ…!騙されたんだ!!このままじゃ…死ぬ!)

本当は意識が残っていたが、気を失ったふりをした。

騎士は簡単に脈を測ってその場を立ち去った。
あまりにも雑だったのは、その場からすぐ立ち去りたかったからだろう。
まさか私が、その毒の耐性をつける練習が始まっていたことも知らなかったのだ。

いくら、毒に耐性をつけ始めたと言っても、まだまだ少量だった。
気を抜くと意識を失ってしまいそうであり、立つことはままならなかった。

とにかく明るい方へ、そう思いながら暗い路地裏を這う。

騎士への怒りと苦しみだけが体を突き動かしていた。


「わ!体調悪いの?大丈夫?」

突然平民の少年に声をかけられた。

「…た…すけて…」

「どこか痛いの?大変だ!」

少年は可愛らしい顔を顰めた。

「僕が今すぐ治す!えっとね、痛いの痛いの飛んでいけってすれば楽になるんだよ」

そんなのまやかしじゃないか、そう思ったが、なんでもいいから助けて欲しかった。

「痛いの痛いの、飛んでいけ!」

少年は必死になって何度も唱えた。
すると体が温かくなり、呼吸が楽になった。

「お前…魔法が使えるのか…?」

「魔法?なんのこと?
わっ!僕もう行かなくちゃ!お使いの途中なの!
これさっき八百屋のおじさんからもらった飴ちゃん!君にあげるね」

少年は飴を握らせてきた。

「またねー!」

追いかけたかったが、毒のせいでまだ体が思うように動かなかった。

飴を一つ口に含む。
平民にとってあめは貴重なはずだ。特に子供は甘いものには目がない。
そんなものを見ず知らずの人にあげるなんて、なんて善良なのだろう。

「…甘いな」


それから、ルシファーは彼を探し続けている。
必ず恩返しすると誓って。



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