王子様から逃げられない!

白兪

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目を覚ますと見知らぬ天井が広がっていた。いつもより固いベッド、薄い布団。
訳がわからずポカンとしていると、不思議な声が脳内に響いた。

(僕はリリス、16歳。先日聖魔法の力に目覚めて魔法学校『ファンタム学園』に入学することになった。どんな学校生活が始まるのかな。頑張るぞ!!)

「リリス…?」

聞き馴染みのある響きに首を傾げると人の姿が目に入った。

「うわっ!誰だ!?」

そう叫ぶと鏡に映る少年も同じように口を動かした。

「ん…?この顔、この瞳…」

間違いない、この顔はリリスだ。妹もやっていた大人気BLゲーム「マジカル⭐︎ドリーム!王子様はキミに夢中!!」の主人公の…。

すると突然、リリスとしての記憶が脳内に流れ込んできた。

孤児院で暮らしていたこと。怪我した仲間を前にして聖魔法を開花させたこと。そして昨日、この寮に入寮したこと。

「これって…、流行りの異世界転生?」

鏡に映るリリスも首を傾げる。

「いやいや、まさかな。どうせ何かのドッキリだろう。健太もリクもイタズラが好きだったしな」

悪い予感を振り払うように大きな声を出す。

「おい!すげぇな、これ!俺に連動してリリスも動くなんて!この鏡、CGか何かか?」

しかし、返答はなく辺りはシーンとしている。

「おい!なぁ、聞いてるんだろ?」

変わらず沈黙が続く室内に耐えられなくなり、状況を把握するため部屋の外に出ることにした。

扉を開けると、長い廊下があり、たくさんのドアがある。まるでホテルのようだ。
赤茶色の絨毯の敷かれた廊下を進み、階段を降りる。
一階は食堂のような場所だった。

「ちょっとあんた!なにパジャマでうろついてんのさ!着替えてから来なさい!」

突然おばさんに叱られてしどろもどろになる。

「いや、えっと…」

「ほら、早く!」

おばさんに急かされて仕方なく部屋に戻る。
クローゼットを開けるとシャツとズボンと、そして制服のようなものが入っていた。

「これがファンタム学園の制服か…?」

とりあえずシャツとズボンにだけ着替えてまた一階に降りる。

「そういえば、あんたは昨日入って来たばかりだったね。名前は…リリスだったわね?」

「えっと、これは何ですか?ドッキリですか?」

「ドッキリ?何だい、それは」

キョトンとするおばさんの目は嘘をついていない。その事実を認めたくない。

「昨日も言ったけど、私はここの寮母のアマンダだよ。朝ごはんの用意はできてるからさっさと食べちまいな!」

おばさんがニカっと笑う。

俺は顔面蒼白になった。

「いや、これはドッキリだ。ドッキリなんだ。みんなが俺を騙そうとしてるんだ」

急いで玄関を出て街に出る。

そこは明らかに日本ではない、ヨーロッパのような風景が広がっていた。道行く人も皆、日本人離れした顔つきだ。

「嘘だ。嘘だ…!嘘だ!!
お父さん、お母さん、舞…!どこにいるんだ…?ここはどこなんだ…?」

突然、体の奥がグラリと揺れて、視界がぼやけた。

「お父さん…お母さん…」

次に目が覚めた時はベッドの上だった。


「あ、目が覚めたかい?」

「君は…?」

「僕はダニエル。倒れてる君をここまで運んだんだよ」

「あ、ありがとう」

「気にしないで。困った時はお互い様じゃないか。それにこれからクラスメイトになるんだし」

ダニエルはニコッと笑った。茶髪にそばかすの優しそうな少年だった。

「本当に申し訳ないんだけど、しばらく1人にしてくれないかな。このお礼は後で必ずする!」

「分かった。無理しないでね」

ダニエルは最後まで人の良い笑みを浮かべて去って行った。


「状況を把握しないと…」

ここは「マジカル⭐︎ドリーム!王子様はキミに夢中!!」、略してマジドリの世界に間違いない。さっきのはダニエルで、たしかサポートキャラだったはずだ。メインキャラではないものの人気らしく、妹がたくさんグッズを持っていた。

「舞…」

いつも喧嘩ばかりの妹だった。趣味も食べ物の好みも全く違う。だけど大事な大事な妹だった。

「もう会えないのか…?」

視界が滲む。

「お父さんにもお母さんにも。健太にもリクにも。もう2度と会えないのか…?」

何も不満のない日々だった。優しい家族と面白い友人。恋人はいなかったが、毎日楽しかった。幸せだった。


「何とかしてこの世界から出ないと」


恭弥は拳を強く握りしめた。






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