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目覚め
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「お父様!どうして僕にそんなに辛く当たるのですか?」
「お前など俺の息子だと思ったことはないからだ。」
「お兄様、どうして僕と仲良くしてくれないのですか?」
「お前と同じ血が流れてると考えるだけで吐き気がする。」
父と兄は顔を見合わせて笑う。
「「それもそうか。お前は偽物だからな。」」
「ヴェリテ様?大丈夫ですか?随分うなされていましたよ。」
どうやら馬車の中で眠り込んでしまっていたらしい。
「あ、ああ…。いつもの事なので大丈夫です。ご心配をおかけしました。」
ヴェリテが平気だと微笑んでみせるとジュスティスは不安そうにこちらを見つめた。
あの予知夢を見てから、どんなに家族から愛されているのだと思っても、悪夢にうなされない日はなかった。まるで自分の罪を忘れるなとでもいうように。
父も兄もそんな酷いこと言う人ではない。
そんなことはとうの昔に分かっている。
それでも、心の片隅に残る、不安な気持ちがまだ悪夢を見せているようだった。
「長い帰路ももう終わりが近づいていますね。あの数時間も経てば王宮につきますよ。」
「…そうですね。」
「本当に大丈夫ですか?」
ジュスティスがヴェリテの手を握りしめる。
「少し…不安なんです。身勝手に王宮を飛び出してきてしまったから落胆されていないかとか…。あと僕が本当に偽物だったらとか…。
いつまでも凹んでいてはいけないですよね。前を向かないと、」
過去ーー予知夢ーーに怯えてばかりではダメだ。予知夢とは色々なところが変わってきている。もう、あれに囚われる必要はないのだ。
だから家族を信じきらなくては。愛しきらなくては。
「いつでも前を向いていられるなんてことできないと思います。僕も昔、人の顔色ばかり伺って、父上に落胆されたらどうしようとばかり考えて、何も自分で行動できませんでした。そんな僕を救ってくれたのはヴェリテ様ですよ。ヴェリテ様が僕に身勝手でもいいと教えてくれたのです。だからヴェリテ様も身勝手でいいのですよ。誰かに落胆されてもいいのですよ。僕は絶対に貴方の味方だから。」
「ありがとうございます…。」
また視界がぼやけてくる。
「1人で恐怖に打ち勝つことはできずとも、周りに助けを求めることはできます。それを忘れないでくださいね。」
ジュスティスの言葉は陽だまりのようにあたたかく、優しくヴェリテの心に溶け込んでいくようだった。
ヴェリテは優しく微笑むジュスティスを見て、また恋に落ちた。
馬車が止まった。
心臓がパクパクと鳴っていまにも破裂しそうだ。
嫌な想像ばかり湧き出てくる。
やはり教会でひっそりと暮らしていく方が良かったのではないかとさえ思えてきてしまう。
でも、もう逃げないと決意した。
この捨てられるかもしれないという恐怖に打ち勝つことはできずとも、自分には愛してくれる人がいる。
そう思うだけで強くなれた気がした。
御者が馬車の扉を開く。
ヴェリテは大きく深呼吸をして馬車から一歩踏み出した。
「「ヴェリテ!!!」」
その瞬間、誰かに抱きつかれた。
暖かくて、優しくて、懐かしい匂い。
「お父様…。お兄様…。」
「ヴェリテ、良かった、良かった…。」
「戻ってきてくれてありがとう…。」
「お父様、お兄様、ごめんなさい。僕…」
ヴェリテは涙をポロポロとこぼす。
「僕、自分が偽物なのではないかと不安になって飛び出してしまいました。お父様とお兄様にご迷惑をおかけすると分かっていたのに…!怖くて逃げ出してしまいました。
ごめんなさい…」
「ヴェリテ、はじめてお父様と呼んでくれたな。俺はそれだけで十分嬉しい。
生きてくれているだけで俺は幸せだよ。」
「兄なのにヴェリテの悩みに気づいてやれなくてごめんな。ヴェリテにこんなに不安を感じさせる前にもっと早く手を打っておくべきだった。」
「お兄様、お父様、ぼくを許してくださるのですか…?」
「許すも何もない。ヴェリテは謝る必要などない。」
父が微笑む。
「そうだ。俺たちの元へ戻ってきてくれてありがとう。」
兄も微笑む。
「「愛してる、ヴェリテ。」」
その時、はじめてあの予知夢から目覚めた気がした。
ようやくヴェリテを縛りつけるものは消えたのだ。
「お父様、お兄様、ジュスティス様、本当にありがとうございます。
僕も…愛してます。」
ヴェリテの笑みは今までの中で最も煌めいていた。
「お前など俺の息子だと思ったことはないからだ。」
「お兄様、どうして僕と仲良くしてくれないのですか?」
「お前と同じ血が流れてると考えるだけで吐き気がする。」
父と兄は顔を見合わせて笑う。
「「それもそうか。お前は偽物だからな。」」
「ヴェリテ様?大丈夫ですか?随分うなされていましたよ。」
どうやら馬車の中で眠り込んでしまっていたらしい。
「あ、ああ…。いつもの事なので大丈夫です。ご心配をおかけしました。」
ヴェリテが平気だと微笑んでみせるとジュスティスは不安そうにこちらを見つめた。
あの予知夢を見てから、どんなに家族から愛されているのだと思っても、悪夢にうなされない日はなかった。まるで自分の罪を忘れるなとでもいうように。
父も兄もそんな酷いこと言う人ではない。
そんなことはとうの昔に分かっている。
それでも、心の片隅に残る、不安な気持ちがまだ悪夢を見せているようだった。
「長い帰路ももう終わりが近づいていますね。あの数時間も経てば王宮につきますよ。」
「…そうですね。」
「本当に大丈夫ですか?」
ジュスティスがヴェリテの手を握りしめる。
「少し…不安なんです。身勝手に王宮を飛び出してきてしまったから落胆されていないかとか…。あと僕が本当に偽物だったらとか…。
いつまでも凹んでいてはいけないですよね。前を向かないと、」
過去ーー予知夢ーーに怯えてばかりではダメだ。予知夢とは色々なところが変わってきている。もう、あれに囚われる必要はないのだ。
だから家族を信じきらなくては。愛しきらなくては。
「いつでも前を向いていられるなんてことできないと思います。僕も昔、人の顔色ばかり伺って、父上に落胆されたらどうしようとばかり考えて、何も自分で行動できませんでした。そんな僕を救ってくれたのはヴェリテ様ですよ。ヴェリテ様が僕に身勝手でもいいと教えてくれたのです。だからヴェリテ様も身勝手でいいのですよ。誰かに落胆されてもいいのですよ。僕は絶対に貴方の味方だから。」
「ありがとうございます…。」
また視界がぼやけてくる。
「1人で恐怖に打ち勝つことはできずとも、周りに助けを求めることはできます。それを忘れないでくださいね。」
ジュスティスの言葉は陽だまりのようにあたたかく、優しくヴェリテの心に溶け込んでいくようだった。
ヴェリテは優しく微笑むジュスティスを見て、また恋に落ちた。
馬車が止まった。
心臓がパクパクと鳴っていまにも破裂しそうだ。
嫌な想像ばかり湧き出てくる。
やはり教会でひっそりと暮らしていく方が良かったのではないかとさえ思えてきてしまう。
でも、もう逃げないと決意した。
この捨てられるかもしれないという恐怖に打ち勝つことはできずとも、自分には愛してくれる人がいる。
そう思うだけで強くなれた気がした。
御者が馬車の扉を開く。
ヴェリテは大きく深呼吸をして馬車から一歩踏み出した。
「「ヴェリテ!!!」」
その瞬間、誰かに抱きつかれた。
暖かくて、優しくて、懐かしい匂い。
「お父様…。お兄様…。」
「ヴェリテ、良かった、良かった…。」
「戻ってきてくれてありがとう…。」
「お父様、お兄様、ごめんなさい。僕…」
ヴェリテは涙をポロポロとこぼす。
「僕、自分が偽物なのではないかと不安になって飛び出してしまいました。お父様とお兄様にご迷惑をおかけすると分かっていたのに…!怖くて逃げ出してしまいました。
ごめんなさい…」
「ヴェリテ、はじめてお父様と呼んでくれたな。俺はそれだけで十分嬉しい。
生きてくれているだけで俺は幸せだよ。」
「兄なのにヴェリテの悩みに気づいてやれなくてごめんな。ヴェリテにこんなに不安を感じさせる前にもっと早く手を打っておくべきだった。」
「お兄様、お父様、ぼくを許してくださるのですか…?」
「許すも何もない。ヴェリテは謝る必要などない。」
父が微笑む。
「そうだ。俺たちの元へ戻ってきてくれてありがとう。」
兄も微笑む。
「「愛してる、ヴェリテ。」」
その時、はじめてあの予知夢から目覚めた気がした。
ようやくヴェリテを縛りつけるものは消えたのだ。
「お父様、お兄様、ジュスティス様、本当にありがとうございます。
僕も…愛してます。」
ヴェリテの笑みは今までの中で最も煌めいていた。
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