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再会
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教会の小さな部屋で子供たちに読み書きを教える。6歳から8歳の子供たちが集まっている。
「じゃあ、今日は詩の音読をしようか。」
「「はーい!」」
子供達は今日も元気だ。
「じゃあ、僕の後に続いてね。」
その時、不意に扉が開いた。
「おお、新しい先生が来たのか。」
どこかで聞いたことのある声。
スラリとした体躯に真っ黒な髪の美丈夫。
「なぜ…、ロジエ様がここに…。」
レベス王国の王太子、ロジエであった。
「ヴェリテ様!?」
ロジエもすぐにヴェリテに気づき、目を丸くする。驚きで第二声が発せない。
「違うよー!ヴェリテじゃなくてベルだよ、王子様!」
「ベル…?」
ただならぬ事情を察したマザーが慌てて仕切り直す。
「あなたたち!ベルは今から用事ができたみたいだから、今からは私が教えるわね。」
「ええー!ベルがいい!」
「もう!文句言わないのよ。」
不満を口にする子供達だが、表情は明るくケラケラと笑っている。皆んな、マザーのことが大好きなのだ。
「ベル、詳しいことは後で聞くから、今は殿下とお話ししてきなさい。」
ヴェリテはロジエをチラリと見た。まだ、ロジエは状況が飲み込めていないようだ。ヴェリテはどうしたものかと頭を悩ませた。
「えっと、僕はベルと申します。」
一応しらを切ってみる。
「おかしなことをおっしゃらないでください。確かに最後に会ったのは2年前ですが、あなたは間違いなく、シュペルブ帝国の皇子、ヴェリテ様ではありませんか。」
やはり、ダメだった。
ヴェリテは軽くため息を漏らす。
「何故こんなところに?」
「王宮を出てきました。…誰にも言わずに。」
「いったい何故!?」
「それは話せません。」
ヴェリテはロジエをまっすぐ見つめ返した。ロジエはこれ以上聞くのは無駄だろうと踏んだ。
「ずっとここで暮らすおつもりですか?」
「はい、今のところは。最近は家事にも慣れてきて頼られることも多いのですよ。」
ロジエは水仕事でカサついたヴェリテの手を取る。
「ご家族が心配しているはずです。戻りましょう。」
「それは無理です。一生の別れを覚悟して王宮を出てきました。」
ヴェリテはロジエの手を振り払った。
「ロジエ様、どうかお願いです。僕がここにいることは誰にも言わないでいただけませんか?」
「しかし、これは…!」
「分かっております。これは外交問題にも関わることだということは。それでも、秘密にしていただきたいのです。お願いします!」
ヴェリテは深々と頭を下げた。
「どうか頭を上げてください。私もまだこの状況に混乱しているばかりです。しばらく考えてさせてください。その間は誰にも話さないと誓います。」
「ありがとうございます!」
ヴェリテはロジエの手を握りしめた。
ロジエの耳は真っ赤に染まる。
「また来ます。」
こうして何とか難を逃れたヴェリテだった。
「ベルさん!」
「ロジエ様!またいらっしゃったのですか?」
あれからロジエは今後誰にも話さないことを誓ってくれた。
それは良かったのだが、何故か1週間に1度現れるようになった。
「視察ですよ。これも大事な王太子の役目ですから。」
遊んでばかりいるように感じられるが、彼の評判はとてもいい。王太子としての職務は忙しいだろうに、余裕そうなのをみるにとても優秀なのだろう。
「今日はベルさんにプレゼントを持ってきたんです。」
「僕に?」
そう言って手渡してきたのは美しいライラックだった。淡い紫色が愛らしい。
「可愛い!すっごく嬉しいです!ありがとうございます!」
「ベルさん、王宮に戻りたくないなら私と一緒にレベスの王城で暮らしませんか?」
「え?」
「どうか、私についてきてはくれませんか?」
真剣な面持ちのロジエに、彼が決して冗談などで言っているのではないと言うことがわかる。
「僕は…」
「いくら王太子と言えども、婚約者のいる方を口説くのは見過ごせませんね。」
その時、懐かしい愛しい声が聞こえた。
「じゃあ、今日は詩の音読をしようか。」
「「はーい!」」
子供達は今日も元気だ。
「じゃあ、僕の後に続いてね。」
その時、不意に扉が開いた。
「おお、新しい先生が来たのか。」
どこかで聞いたことのある声。
スラリとした体躯に真っ黒な髪の美丈夫。
「なぜ…、ロジエ様がここに…。」
レベス王国の王太子、ロジエであった。
「ヴェリテ様!?」
ロジエもすぐにヴェリテに気づき、目を丸くする。驚きで第二声が発せない。
「違うよー!ヴェリテじゃなくてベルだよ、王子様!」
「ベル…?」
ただならぬ事情を察したマザーが慌てて仕切り直す。
「あなたたち!ベルは今から用事ができたみたいだから、今からは私が教えるわね。」
「ええー!ベルがいい!」
「もう!文句言わないのよ。」
不満を口にする子供達だが、表情は明るくケラケラと笑っている。皆んな、マザーのことが大好きなのだ。
「ベル、詳しいことは後で聞くから、今は殿下とお話ししてきなさい。」
ヴェリテはロジエをチラリと見た。まだ、ロジエは状況が飲み込めていないようだ。ヴェリテはどうしたものかと頭を悩ませた。
「えっと、僕はベルと申します。」
一応しらを切ってみる。
「おかしなことをおっしゃらないでください。確かに最後に会ったのは2年前ですが、あなたは間違いなく、シュペルブ帝国の皇子、ヴェリテ様ではありませんか。」
やはり、ダメだった。
ヴェリテは軽くため息を漏らす。
「何故こんなところに?」
「王宮を出てきました。…誰にも言わずに。」
「いったい何故!?」
「それは話せません。」
ヴェリテはロジエをまっすぐ見つめ返した。ロジエはこれ以上聞くのは無駄だろうと踏んだ。
「ずっとここで暮らすおつもりですか?」
「はい、今のところは。最近は家事にも慣れてきて頼られることも多いのですよ。」
ロジエは水仕事でカサついたヴェリテの手を取る。
「ご家族が心配しているはずです。戻りましょう。」
「それは無理です。一生の別れを覚悟して王宮を出てきました。」
ヴェリテはロジエの手を振り払った。
「ロジエ様、どうかお願いです。僕がここにいることは誰にも言わないでいただけませんか?」
「しかし、これは…!」
「分かっております。これは外交問題にも関わることだということは。それでも、秘密にしていただきたいのです。お願いします!」
ヴェリテは深々と頭を下げた。
「どうか頭を上げてください。私もまだこの状況に混乱しているばかりです。しばらく考えてさせてください。その間は誰にも話さないと誓います。」
「ありがとうございます!」
ヴェリテはロジエの手を握りしめた。
ロジエの耳は真っ赤に染まる。
「また来ます。」
こうして何とか難を逃れたヴェリテだった。
「ベルさん!」
「ロジエ様!またいらっしゃったのですか?」
あれからロジエは今後誰にも話さないことを誓ってくれた。
それは良かったのだが、何故か1週間に1度現れるようになった。
「視察ですよ。これも大事な王太子の役目ですから。」
遊んでばかりいるように感じられるが、彼の評判はとてもいい。王太子としての職務は忙しいだろうに、余裕そうなのをみるにとても優秀なのだろう。
「今日はベルさんにプレゼントを持ってきたんです。」
「僕に?」
そう言って手渡してきたのは美しいライラックだった。淡い紫色が愛らしい。
「可愛い!すっごく嬉しいです!ありがとうございます!」
「ベルさん、王宮に戻りたくないなら私と一緒にレベスの王城で暮らしませんか?」
「え?」
「どうか、私についてきてはくれませんか?」
真剣な面持ちのロジエに、彼が決して冗談などで言っているのではないと言うことがわかる。
「僕は…」
「いくら王太子と言えども、婚約者のいる方を口説くのは見過ごせませんね。」
その時、懐かしい愛しい声が聞こえた。
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