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蜻蛉
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薄暗い空の中、目を覚ます。
普段の起床よりずっと早い時間だ。夜中に何度も何度も目が覚め、安眠などちっともできなかった。また悪夢を見るのが怖くて、今日はこのまま起きていようと決める。
久しぶりに見たーーいや、前に見たのは夢だったから初めてのーーファクティスは相変わらず美しかった。
部屋の額縁の中のタンドレッスも美しい。
「お母様…。」
彼女のこともお母様と呼ぶ権利などない。
今は母親の温もりがたまらなく欲しかった。
「ヴェリテ様、今日は中庭に行きませんか?来る途中に目に入ったのですが、とても美しかったのです。是非ヴェリテ様と一緒に見たいと思って…。」
ジュスティスがおずおずと提案する。
「素敵ですね。行きましょう。」
気分転換になって、このずんと重い気持ちも晴れるかもしれない。
「風が心地よいですね。」
「…はい…。」
「見てください、このお花美しいですね。」
「…はい…。」
「南部にしか咲かない貴重な花なのだそうですよ。」
「…はい…。」
「ヴェリテ様、困っていることはあるのではありませんか?」
「…はい…。」
ジュスティスは困ったように眉を下げて、ヴェリテを抱きしめた。
「じゅ、ジュスティス様!?」
「ヴェリテ様、僕はいつでも貴方の味方です。どうか僕を頼ってください。」
ヴェリテはジュスティスの優しさに思わず泣きそうになった。
「ジュスティス様、実は…」
「わっ!!」
その時、美しいボーイソプラノの声が響いた。
木の茂みから現れたのは、ファクティスだった。
「ご、ごめんなさい!お邪魔をするつもりはなかったんです!」
「いえ、構わないですよ。貴方はどちら様ですか?お会いしたことがありませんよね。」
「ぼくはファクティスと申します!」
「ファクティス様、お怪我はございませんでしたか?」
2人の視線が行き交う。
これ以上、2人の姿を見ていられずヴェリテは逃げ出してしまった。
「ヴェリテ様!?」
遠くで名を呼ぶジュスティスの声が聞こえる。
嫌だ 嫌だ 嫌だ
絶対、絶対に返すから。
ファクティスの家族も立ち位置も婚約者も。
全部返すから。
だから、今だけは僕の物でいさせてよ。
「…ぐずっ…ぐずっ…。」
部屋で1人泣いているとコンコンっとドアをノックされた。
「失礼します。
ヴェリテ様、大丈夫ですか?」
ヴェリテはジュスティスに何も告げずに突然走り去ってしまったことを恥じた。
突拍子もないことしてしまった恥ずかしさで、ジュスティスの顔が見れない。
「…ヴェリテ様?」
「ごめんなさい。」
「こちらを見てくれませんか?」
ヴェリテは首を横に振った。
「どうしてですか?僕のことをお嫌いになられましたか?」
「そんなわけない!ジュスティス様のことを嫌いになるなんて絶対にないです。」
ヴェリテは思わずジュスティスの方を見た。
ジュスティスは微笑んだ。
「僕もヴェリテ様を愛しております。僕たちは同じ気持ちだと信じています。」
ジュスティスがヴェリテの頬の涙を拭う。
ヴェリテは何とも答えられず黙りこくった。
代わりに頬が熱くなり、瞳がさらに潤んだ。
それだけで十分だった。
「愛しています、ヴェリテ様。」
ジュスティスの柔らかな唇がヴェリテの唇に触れた。
「僕もです。愛しています、ジュスティス様。」
思わずそんな言葉が出てきてしまった。
1番恐れていたことを避けられなかった。
結局は、ジュスティスのことを愛してしまった。
普段の起床よりずっと早い時間だ。夜中に何度も何度も目が覚め、安眠などちっともできなかった。また悪夢を見るのが怖くて、今日はこのまま起きていようと決める。
久しぶりに見たーーいや、前に見たのは夢だったから初めてのーーファクティスは相変わらず美しかった。
部屋の額縁の中のタンドレッスも美しい。
「お母様…。」
彼女のこともお母様と呼ぶ権利などない。
今は母親の温もりがたまらなく欲しかった。
「ヴェリテ様、今日は中庭に行きませんか?来る途中に目に入ったのですが、とても美しかったのです。是非ヴェリテ様と一緒に見たいと思って…。」
ジュスティスがおずおずと提案する。
「素敵ですね。行きましょう。」
気分転換になって、このずんと重い気持ちも晴れるかもしれない。
「風が心地よいですね。」
「…はい…。」
「見てください、このお花美しいですね。」
「…はい…。」
「南部にしか咲かない貴重な花なのだそうですよ。」
「…はい…。」
「ヴェリテ様、困っていることはあるのではありませんか?」
「…はい…。」
ジュスティスは困ったように眉を下げて、ヴェリテを抱きしめた。
「じゅ、ジュスティス様!?」
「ヴェリテ様、僕はいつでも貴方の味方です。どうか僕を頼ってください。」
ヴェリテはジュスティスの優しさに思わず泣きそうになった。
「ジュスティス様、実は…」
「わっ!!」
その時、美しいボーイソプラノの声が響いた。
木の茂みから現れたのは、ファクティスだった。
「ご、ごめんなさい!お邪魔をするつもりはなかったんです!」
「いえ、構わないですよ。貴方はどちら様ですか?お会いしたことがありませんよね。」
「ぼくはファクティスと申します!」
「ファクティス様、お怪我はございませんでしたか?」
2人の視線が行き交う。
これ以上、2人の姿を見ていられずヴェリテは逃げ出してしまった。
「ヴェリテ様!?」
遠くで名を呼ぶジュスティスの声が聞こえる。
嫌だ 嫌だ 嫌だ
絶対、絶対に返すから。
ファクティスの家族も立ち位置も婚約者も。
全部返すから。
だから、今だけは僕の物でいさせてよ。
「…ぐずっ…ぐずっ…。」
部屋で1人泣いているとコンコンっとドアをノックされた。
「失礼します。
ヴェリテ様、大丈夫ですか?」
ヴェリテはジュスティスに何も告げずに突然走り去ってしまったことを恥じた。
突拍子もないことしてしまった恥ずかしさで、ジュスティスの顔が見れない。
「…ヴェリテ様?」
「ごめんなさい。」
「こちらを見てくれませんか?」
ヴェリテは首を横に振った。
「どうしてですか?僕のことをお嫌いになられましたか?」
「そんなわけない!ジュスティス様のことを嫌いになるなんて絶対にないです。」
ヴェリテは思わずジュスティスの方を見た。
ジュスティスは微笑んだ。
「僕もヴェリテ様を愛しております。僕たちは同じ気持ちだと信じています。」
ジュスティスがヴェリテの頬の涙を拭う。
ヴェリテは何とも答えられず黙りこくった。
代わりに頬が熱くなり、瞳がさらに潤んだ。
それだけで十分だった。
「愛しています、ヴェリテ様。」
ジュスティスの柔らかな唇がヴェリテの唇に触れた。
「僕もです。愛しています、ジュスティス様。」
思わずそんな言葉が出てきてしまった。
1番恐れていたことを避けられなかった。
結局は、ジュスティスのことを愛してしまった。
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