愛などもう求めない

白兪

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真偽

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王宮の中では小さめの地味な応接間に行く。まだ確かなことは何も分かっていないうちは、内密にするためだ。
兄もヴェリテが心配だからと着いてきた。

いつの間にか手足が震えていた。
父と兄が手を握りしめてくれる。

「大丈夫だ。どんなことがあろうとヴェリテは俺たちの家族だ。」

深呼吸して扉を開く。

アガサ侯爵ともう1人ーーファクティスが深々とお辞儀をして待っていた。

ファクティスが面を上げた。

「…っ!!」

金髪に菫色の瞳。優しげな眼差しと緊張気味に締められた唇。夢と変わらぬ美しい容貌。誰が見ても、王妃様の子供だと思うだろう。

「ファクティスと申します。姓はございません。」

カナリアのような美しいボーイソプラノが響く。
兄も目を見開き驚きを隠せずにいる。

やっぱり、僕は偽物なんだ。

「今までどこにいたのか教えてくれ。」
「はい。ファクティスはずっと平民の女によって育てられてきました。その女は王宮の侍女だったようです。15年前のあの日、同時期に生まれた自分の子供と皇子を取り替えたそうです。しかし、日々罪悪感が募り、病気にかかり、余命がわずかになってしまったそうで、私の元に彼を連れてきました。その後容態が悪化し、つい先日息を引き取りました。」
「その話に嘘はないな?」
「はい。ございません。」

父ははぁっと短くため息をついた後、
「あれをもってこい。」
と側近のメイユーラミに指示した。

「お持ちいたしました。」
メイユーラミが淡い緑色の液体の入った小さな瓶を置く。
「これは?」
「これは染料を落とす薬だ。」 
「疑っておられるのですか!?」
「念には念を入れなくてはならない。侯爵を疑っているわけではない。その女の話が嘘かもしれん。」

「分かりました。」
ファクティスが凛とした表情で答えた。

ファクティスは液を手に取り、自分の髪につける。

しかし、ファクティスの美しい金髪は変わらず輝きを放っていた。

「ふむ…。」
父は何か考え込んだ。

「ファクティスと言ったな?お前はしばらく宮殿に留まりなさい。アガサ侯爵は今日のところは帰ってもいい。」


やっぱり。
やっぱり、ファクティスは父の本当の子供なんだ。

ずんと気が重くなる。

ファクティスは
「ありがとうございます。」
と礼を言って、侍従に案内されて出て行った。

「ヴェリテ。」
名前を呼ばれてビクッと体を大きく振るわす。
「今日はゆっくり休みなさい。」

父が何を考えているのかわからなかった。
それでも、最後まで微笑みかけ優しく接してくれたのは救いだった。

だが、ファクティスが本物の皇子だと確証したら、僕のことなど捨てるのだろうか。

自室に向かう足取りは重い。

「ヴェリテ、お前は俺の唯一の弟だ。それは今までも、これからも、ずっと変わらない。」
「お兄様…。」

兄がぎゅっと抱きしめてくれる。

優しい温もりに涙が溢れる。

「お兄様、ごめんなさい…。」
去り行く兄の後ろ姿にそう呟いた。
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