愛などもう求めない

白兪

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もうしばらくは

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次の日の午後、ジュスティスが到着した。

「お久しぶりです、ヴェリテ様。」
「久しぶり。」
ヴェリテはダンスをしたあの日のことを思い出して、少し顔が赤くなる。

「もっとヴェリテ様と一緒に過ごしたかったので、陛下にわがままを申してしまいました。ご迷惑ではありませんでしたか?」
ヴェリテは顔がさらに熱くなっていくのを感じながら、ブンブンと首を横に振った。
「いえ!僕も会いたかったので!」

「俺の可愛い弟を誑かすのはやめろ。」
兄が現れ、ヴェリテを隠すように抱きしめる。
「同意見だ。」
父までも真顔でそんなことを言う。

「ふふふっ…」
ヴェリテはまるで自分が本当に愛されているかのように感じて思わず笑いながら泣いてしまった。

「ヴェリテ?」
「申し訳ありません!僕がた、たぶらかしてしまったからですか?」
「おい、俺の息子を泣かせるな。」

「違います…。…嬉しいんです。
…こんなに愛されたのは初めてなので。」

3人はハッとした表情を浮かべ固まった。

皇帝は息子を冷遇した日々を思い出した。
王太子は弟を遠ざけた日々を思い出した。
令息は婚約者の不満を口にした事を思い出した。

「すまない、ヴェリテ。タンドレッスを亡くして、お前に当たってしまいそうで恐ろしかったのだ。こんな言い訳をしたって許されないことはわかっている。でも、信じて欲しい。俺はヴェリテのことを愛している。」
「悪かった、ヴェリテ。母上を亡くし、お前と距離を置いてからどうやって接すればいいのか分からなくなっていた。ヴェリテのことを憎んだことなど一度もない。ヴェリテは大事な弟だ。」
「申し訳ありませんでした、ヴェリテ様。あの頃の僕は本当に愚かでした。自分のことばかり考えて、誰かのことを思いやることなどしたこともなかったのです。ヴェリテ様、貴方だけを愛すると誓います。」

ヴェリテはほろほろと涙を流した。
「3人とも、謝るのはおやめください。僕は誰も悪いとは思っておりません。僕は誰のことも憎んでおりません。」

3人はヴェリテを抱きしめた。
ヴェリテはその暖かさに癒されていくのを感じた。


しばらくは、このままで。
どうか、このままでいさせて。

本来ならファクティスが受けるはずだった愛を今は、僕に譲って。



7年後、ヴェリテは15歳になった。
逃亡しようと決めていた歳だ。

「離れ難いなぁ…。」

父も兄もジュスティスも、夢で見た時より、ずっと親密な関係になれた。自分のことを愛してくれていると感じるのは自惚などではないと思う。

それでも。

それでも、自分が偽物だという事実は変わらないし、父だって本当の息子の方が良いに決まっている。
ジュスティスだって、僕なんかよりファクティスの方がお似合いだ。
夢で見た、ファクティスに寄り添うジュスティスの姿を思い出して、胸がちくりと痛む。

ファクティスが現れる前に消えなくてはみんなに嫌われるかもしれない。愛する皆に偽物だったのかと落胆され嫌悪されるくらいならば、自ずから身を引いて逃げてしまった方がいい。

コソコソと宝石や服を売ってある程度のお金は貯めた。あとは逃げるだけだ。
しかし、それからが進まなかった。
どうやって逃げるのか、どこへ逃げるのか、そんなことを考えていると辛くなって思考を放棄してしまう。

目の前の現実から逃げちゃダメだ。

そんなことは分かっている。
それでも、今はこのままでいたい。


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