愛などもう求めない

白兪

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兄弟

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ヴェリテは図書館を訪れていた。出された宿題にわからないところがあったのだ。

図書館で本を探していると見慣れた人物がいた。
「ヴェリテがいるなんて珍しいな。」
久しぶりに見た兄は相変わらず無表情だった。
「宿題で分からないところがあったんです。」
「ほう。見せてみろ。教えてやる。」
兄は宿題を覗き込んだ。
「これなら教えてやれそうだ。隣に座りなさい。」
ヴェリテはドキドキと鼓動が早くなっていくのを感じた。兄とこんなに近づいたことは初めてだったし、優しくされたのも初めてだった。

「ここは、こうで…、だから…。」

兄の説明は易しく分かりやすかった。
「なるほど!とてもよく分かりました!ありがとうございます!」
「久しぶりに笑っているところを見たな。」
兄がふわりと微笑む。
「僕は初めて殿下が笑っているところを見ました。」
兄はむすっとした表情をした。
「その“殿下”っていうのやめないか?前のようにお兄様と呼んでほしい。」
「いいんですか?なら、そう呼ばせていただきますね。」
そう答えたものの、ヴェリテはその要求を疎ましく思った。
仲が近づけば近づくほど裏切られた時辛くなる。
あの日の、処刑台で向けられた視線を思い出し、また気を張り直す。
「じゃあ、僕はこれで失礼します。」
「いつでもわからないところがあったら来い。教えてやるから。」
ヴェリテは返事をせずに黙って立ち去った。


いつもよりペンが動かない。理由はわかっている。弟のヴェリテのせいだ。
ヴェリテは明るく、元気な子だった。しかし、どうしても好きになれなかった。愛する唯一の母親をヴェリテは殺したからだ。いや、ヴェリテが殺したわけではないことなど分かっている。ヴェリテが悪くないことなど分かっている。それでも子供心に納得させることなどできず、ずっと素っ気ない態度をとってしまっていた。それからどう対応していいのかわからず、ずっと弟との関係は拗れたままだった。話しかけたくても、ついつい嫌味のような言葉ばかりが出てきてしまう。

昔、弟はよく歌を歌っていた。その歌声が母によく似ていた。歌声を聞くたびに母の子守唄を思い出し、泣きそうになり、弟を遠ざけた。

「お前の歌声は不愉快だ。2度と俺の前で歌うな。」
「ごめんなさい…。」

そんなだから。そんなだから、きっと嫌われてしまったのだ。
殿下と呼ばれた時、胸がズキリと痛んだ。他人行儀すぎないか?と怒りたくなったが、今までの態度を考えるとそんなことを言える権利はなかった。
弟を見ていると、いつかふっと消えてしまうのではないかと思ってしまう。弟の自分たちを見つめる瞳は冷たく、孤独な色を纏っている。

愛している。
そんな単純なことも言えず、今日も弟のことを考えて頭を悩ませていた。
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