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戸惑い
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「皇子殿下は変わられた」
そんな噂がたちまち王宮中に広まった。
「もう、皆変わった変わったって言いますけれど、そんなに変わっていらっしゃりませんよね。確かに前よりも大人っぽくなられましたが、甘えん坊なところは今も変わっていないのに。」
ガルディエーヌがクスクス微笑む。つられてヴェリテも微笑む。
「こんなこと言ったら迷惑かもしれないけど、ガルディエーヌのことは母親のように思ってるんだ。」
ガルディエーヌは目を見開く。
「まあ!本当ですか!とても嬉しいです。私こんなに素晴らしい息子を持てて幸せです。」
ガルディエーヌが涙ぐむ。
大事な唯一の家族を守るためにもあの未来は何としてでも阻止しなくては。
ヴェリテは決意をまた強くした。
月に1回父親から宝石が送られるようになった。
7歳児が宝石などもらって本当に喜ぶと思うのか。やはり自分のことなど何も考えていないのだろうな。
ヴェリテは深くため息をつく。
しかし、今のヴェリテにとって宝石は非常に有り難かった。逃亡の際の大事な資金源になるからだ。
でも、こんなに持っていてもな。逆に山賊たちに狙われるかもしれないし。それに、税金泥棒と難癖をつけられても困る。この5つ分さえあれば、100歳まで生きても安心だろう。あとは自分の服なんかを売ればいい。豪勢な生活など望んでいないのだから十分だ。
ヴェリテは父親に向けて手紙をしたためた。
“いつも美しい宝石をありがとうございます。自分には十分すぎるほどの量をいただきました。これ以上は結構です。
ヴェリテ・ドゥズィエム・ロワイヤル”
ソリテールは深くため息をついた。ため息の原因はもっぱら息子のヴェリテである。自分でも、冷たく接していたという自覚はある。亡くなった妻のことを愛していた。愛するがあまり、ヴェリテを見ると当たってしまいそうで会いたくなかった。ヴェリテは髪色も瞳も妻に全く似ていないが、笑った時の顔がよく似ていた。
そういえば、最後にあの子の笑顔を見たのはいつだっただろう。
思い出そうとしても、浮かんでくるのは無表情のヴェリテだけだ。
今更父親らしいことをしたいなんて身勝手かもしれない。それでも、ヴェリテの笑顔をまた見たいと思うようになっていた。
「タンドレッス、俺はどうすればいいのだ。」
額縁の中の妻に問いかけても、美しく微笑むだけだった。
「ヴェリテ様、婚約者様からお手紙です。」
ガルディエーヌに頼んでヴェリテと呼んでもらうことにした。ガルディエーヌにヴェリテと呼ばれるたび、胸が温かくなる。
「ありがとう。」
返事を書くのが面倒だな。
ヴェリテはため息をつく。
せっかく面倒な婚約者から解放してやったというのに、律儀に毎月手紙を送ってくるのだから、本当にジュスティスは真面目だな。
“親愛なるヴェリテへ
最近会えない日々が続いていますが、元気にしていますか?早くお会いしたいです。オペラも見に行きたいですし、ピクニックにも行きたいです。あれから色々と調べたのですが…
…
…
…ジュスティスより愛を込めて。”
ヴェリテは長々と書かれた手紙を読む。父親に強要されているからといってこんなにも長い手紙を書かなくてはならないなんてジュスティスは可哀想だ。
内心少し同情する。
ジュスティスの父親は何としてでもヴェリテとジュスティスを結婚させたいようだった。ヴェリテは男ではあるが、子供を産むこともできた。この世界では稀有な存在らしい。
公爵家の発展のため、涙ぐましい努力は賞賛したいが、残念ながらその努力は無駄になる。ヴェリテは平民となるのだから。僕は平民になるつもりだから関わっても徳はないですよと教えようか。でもそんなことをしたら父親に計画が知られて台無しになる。
ジュスティスの長い手紙を見るたびに罪悪感が湧いた。
ごめんね、ジュスティス。でも、真の皇子のファクティスが現れるから。
ヴェリテは心の中で懺悔した。
そんな噂がたちまち王宮中に広まった。
「もう、皆変わった変わったって言いますけれど、そんなに変わっていらっしゃりませんよね。確かに前よりも大人っぽくなられましたが、甘えん坊なところは今も変わっていないのに。」
ガルディエーヌがクスクス微笑む。つられてヴェリテも微笑む。
「こんなこと言ったら迷惑かもしれないけど、ガルディエーヌのことは母親のように思ってるんだ。」
ガルディエーヌは目を見開く。
「まあ!本当ですか!とても嬉しいです。私こんなに素晴らしい息子を持てて幸せです。」
ガルディエーヌが涙ぐむ。
大事な唯一の家族を守るためにもあの未来は何としてでも阻止しなくては。
ヴェリテは決意をまた強くした。
月に1回父親から宝石が送られるようになった。
7歳児が宝石などもらって本当に喜ぶと思うのか。やはり自分のことなど何も考えていないのだろうな。
ヴェリテは深くため息をつく。
しかし、今のヴェリテにとって宝石は非常に有り難かった。逃亡の際の大事な資金源になるからだ。
でも、こんなに持っていてもな。逆に山賊たちに狙われるかもしれないし。それに、税金泥棒と難癖をつけられても困る。この5つ分さえあれば、100歳まで生きても安心だろう。あとは自分の服なんかを売ればいい。豪勢な生活など望んでいないのだから十分だ。
ヴェリテは父親に向けて手紙をしたためた。
“いつも美しい宝石をありがとうございます。自分には十分すぎるほどの量をいただきました。これ以上は結構です。
ヴェリテ・ドゥズィエム・ロワイヤル”
ソリテールは深くため息をついた。ため息の原因はもっぱら息子のヴェリテである。自分でも、冷たく接していたという自覚はある。亡くなった妻のことを愛していた。愛するがあまり、ヴェリテを見ると当たってしまいそうで会いたくなかった。ヴェリテは髪色も瞳も妻に全く似ていないが、笑った時の顔がよく似ていた。
そういえば、最後にあの子の笑顔を見たのはいつだっただろう。
思い出そうとしても、浮かんでくるのは無表情のヴェリテだけだ。
今更父親らしいことをしたいなんて身勝手かもしれない。それでも、ヴェリテの笑顔をまた見たいと思うようになっていた。
「タンドレッス、俺はどうすればいいのだ。」
額縁の中の妻に問いかけても、美しく微笑むだけだった。
「ヴェリテ様、婚約者様からお手紙です。」
ガルディエーヌに頼んでヴェリテと呼んでもらうことにした。ガルディエーヌにヴェリテと呼ばれるたび、胸が温かくなる。
「ありがとう。」
返事を書くのが面倒だな。
ヴェリテはため息をつく。
せっかく面倒な婚約者から解放してやったというのに、律儀に毎月手紙を送ってくるのだから、本当にジュスティスは真面目だな。
“親愛なるヴェリテへ
最近会えない日々が続いていますが、元気にしていますか?早くお会いしたいです。オペラも見に行きたいですし、ピクニックにも行きたいです。あれから色々と調べたのですが…
…
…
…ジュスティスより愛を込めて。”
ヴェリテは長々と書かれた手紙を読む。父親に強要されているからといってこんなにも長い手紙を書かなくてはならないなんてジュスティスは可哀想だ。
内心少し同情する。
ジュスティスの父親は何としてでもヴェリテとジュスティスを結婚させたいようだった。ヴェリテは男ではあるが、子供を産むこともできた。この世界では稀有な存在らしい。
公爵家の発展のため、涙ぐましい努力は賞賛したいが、残念ながらその努力は無駄になる。ヴェリテは平民となるのだから。僕は平民になるつもりだから関わっても徳はないですよと教えようか。でもそんなことをしたら父親に計画が知られて台無しになる。
ジュスティスの長い手紙を見るたびに罪悪感が湧いた。
ごめんね、ジュスティス。でも、真の皇子のファクティスが現れるから。
ヴェリテは心の中で懺悔した。
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