愛などもう求めない

白兪

文字の大きさ
上 下
5 / 24

戸惑い

しおりを挟む
「皇子殿下は変わられた」
そんな噂がたちまち王宮中に広まった。

「もう、皆変わった変わったって言いますけれど、そんなに変わっていらっしゃりませんよね。確かに前よりも大人っぽくなられましたが、甘えん坊なところは今も変わっていないのに。」
ガルディエーヌがクスクス微笑む。つられてヴェリテも微笑む。
「こんなこと言ったら迷惑かもしれないけど、ガルディエーヌのことは母親のように思ってるんだ。」
ガルディエーヌは目を見開く。
「まあ!本当ですか!とても嬉しいです。私こんなに素晴らしい息子を持てて幸せです。」
ガルディエーヌが涙ぐむ。
大事な唯一の家族を守るためにもあの未来は何としてでも阻止しなくては。
ヴェリテは決意をまた強くした。

月に1回父親から宝石が送られるようになった。
7歳児が宝石などもらって本当に喜ぶと思うのか。やはり自分のことなど何も考えていないのだろうな。
ヴェリテは深くため息をつく。
しかし、今のヴェリテにとって宝石は非常に有り難かった。逃亡の際の大事な資金源になるからだ。

でも、こんなに持っていてもな。逆に山賊たちに狙われるかもしれないし。それに、税金泥棒と難癖をつけられても困る。この5つ分さえあれば、100歳まで生きても安心だろう。あとは自分の服なんかを売ればいい。豪勢な生活など望んでいないのだから十分だ。

ヴェリテは父親に向けて手紙をしたためた。

“いつも美しい宝石をありがとうございます。自分には十分すぎるほどの量をいただきました。これ以上は結構です。
ヴェリテ・ドゥズィエム・ロワイヤル”


ソリテールは深くため息をついた。ため息の原因はもっぱら息子のヴェリテである。自分でも、冷たく接していたという自覚はある。亡くなった妻のことを愛していた。愛するがあまり、ヴェリテを見ると当たってしまいそうで会いたくなかった。ヴェリテは髪色も瞳も妻に全く似ていないが、笑った時の顔がよく似ていた。
そういえば、最後にあの子の笑顔を見たのはいつだっただろう。
思い出そうとしても、浮かんでくるのは無表情のヴェリテだけだ。
今更父親らしいことをしたいなんて身勝手かもしれない。それでも、ヴェリテの笑顔をまた見たいと思うようになっていた。

「タンドレッス、俺はどうすればいいのだ。」
額縁の中の妻に問いかけても、美しく微笑むだけだった。


「ヴェリテ様、婚約者様からお手紙です。」
ガルディエーヌに頼んでヴェリテと呼んでもらうことにした。ガルディエーヌにヴェリテと呼ばれるたび、胸が温かくなる。
「ありがとう。」

返事を書くのが面倒だな。

ヴェリテはため息をつく。

せっかく面倒な婚約者から解放してやったというのに、律儀に毎月手紙を送ってくるのだから、本当にジュスティスは真面目だな。

“親愛なるヴェリテへ
最近会えない日々が続いていますが、元気にしていますか?早くお会いしたいです。オペラも見に行きたいですし、ピクニックにも行きたいです。あれから色々と調べたのですが…


…ジュスティスより愛を込めて。”

ヴェリテは長々と書かれた手紙を読む。父親に強要されているからといってこんなにも長い手紙を書かなくてはならないなんてジュスティスは可哀想だ。
内心少し同情する。

ジュスティスの父親は何としてでもヴェリテとジュスティスを結婚させたいようだった。ヴェリテは男ではあるが、子供を産むこともできた。この世界では稀有な存在らしい。
公爵家の発展のため、涙ぐましい努力は賞賛したいが、残念ながらその努力は無駄になる。ヴェリテは平民となるのだから。僕は平民になるつもりだから関わっても徳はないですよと教えようか。でもそんなことをしたら父親に計画が知られて台無しになる。
ジュスティスの長い手紙努力の結晶を見るたびに罪悪感が湧いた。

ごめんね、ジュスティス。でも、真の皇子のファクティスが現れるから。

ヴェリテは心の中で懺悔した。

しおりを挟む
感想 66

あなたにおすすめの小説

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 随時更新です。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! ※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! ※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

捨てられオメガの幸せは

ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。 幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

処理中です...