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ステラはベランダに1人出て、外の景色をぼうっと眺めていた。
彼女にしては珍しく落ち込んでいたのである。

気合いに気合いを入れて臨んだパーティーであった。
誰よりも美しい自信があった。
しかし、レーリアが女装して現れたのだった。

皆、久しぶりのレーリアの女装に目を奪われ、話題は全部持っていかれてしまった。

それでも、キースと仲良くなれれば、ステラの目標は達成できた。

しかし、キースには全く相手にされなかった。

あの冷たいキースの視線を思い出すとまた泣きそうになる。


「キース様、私とお話ししませんか?」

キースは首を傾げた。

「私は今、レーリアといるのが分からないか?レーリアと過ごすから、話しかけないでくれ。」

ステラはあまりの物言いに目を丸くした。
レーリアに対する優しいキースしか知らなかったからだ。

「ダンスもレーリア様とだけ踊るおつもりですか」

「もちろんだ。レーリアとの時間が減るから、もう行ってもいいか?」

そう言ってキースはその場を立ち去った。



ステラは自分の容姿に自信があった。
近所では評判の美人だったし、男の子たちは皆、ステラを1番に優先してくれていた。

別に、キースのことなんて好きでは無い。
好物件だから仲良くなりたいと思っただけ。ただそれだけ。

ステラは自分に言い聞かせる。

それでも、気持ちは滅入ってしまいパーティーを楽しむ気にはなれなかった。

「こんなところで何してるの?」

突然声をかけられ振り向くと、案の定、デニスだった。

「デニス…、別にどうだって良いでしょ。今、あんたに構ってる余裕はないの」

ステラは冷たく突っぱねた。

まるであの時のキースみたいだ。

そう思って少し申し訳なくなったが、人に優しくしていられるほど心の余裕はなかった。

「ステラは笑ってる顔の方がいいよ。
それに、君が落ち込むなんて柄じゃないじゃないか」

「何よ。私は気の強い女って言いたいわけ?」

「そうだよ。君ほど気の強い人はなかなかいないよ。僕は、君のそんなところが…」

そこまでデニスはいいかけて、ゴニョゴニョと言葉を濁した。

「良いわよ。自分でも性格悪いって知ってるもの。レーリア様みたいにはなれないわ」

レーリアがもう少し悪い人であったなら。
レーリアはステラの予想に反して、優しく、おおらかな人であった。
そこがまた、ステラの心を抉るのであった。

「でも、君はあの時、僕を助けてくれたじゃないか」

「あの時…?」

ステラは少し考え込む。

そして、思い出した。
あの日から、デニスが付き纏ってくるようになったことを。


教室に忘れ物をとりに戻ると、男たちが3人ほど集まって話をしていた。

ステラはその男たちが嫌いだった。対してカッコ良くも、イケてもいないのに、いつも自分に酔ったような行動ばかりしている。
キースの真似をして似合わない派手なピアスや服装をしているのがさらに不快だった。

「デニスって本当に暗くてジメジメしてて、気持ち悪りぃよな」

「わかるー。アイツって勉強しか能ないし」

「学校来てて楽しいのかな?」

男たちがゲラゲラと笑う。

ステラは耐えきれなくなって、教室に立ち入ってしまった。

「あんたたちみたいなだっさい奴らとつるんでるよりは、デニスのように1人でいる方がかっこいいと思うけど?」

男たちが途端に顔を真っ赤にして怒り出す。

「何だと?」

「この女、平民のくせに…」

「消えろ!!」

そう言って、1人がステラのことを叩こうとした。

「先生!女生徒が男子生徒に暴行を加えられてます!」

その時、大きな声が響いて、男たちは慌てて去っていった。

声の主はデニスだった。

「本当に先生は来るの?」

「来ないよ。ハッタリさ。
…本当にありがとう。」

「別に。あなたのためじゃないし」

これは照れ隠しでも何でもなく、事実だった。
あの粋がった男たちが気に食わなくて、反論しただけだった。
そこにはデニスへの好意も、優しさも何もなかった。

「それでも、ありがとう。僕はあんな風に言えないから」

「そんなんだから舐められるのよ。自分のことは自分で守らないと」

「君は強いんだね」

デニスは微笑んだ。


あの日から、デニスはステラの面倒を見るようになったのだ。

「君は芯のある人間だ。落ち込むような人じゃない」

「そうね。」

ステラは大きく頷いた。

「私のことを軽く見るなんて、キース様って本当に見る目がないわ!
こんなことで諦めるもんですか!
必ず惚れたって言わせてみせるんだから!」

ステラは大きく意気込んだ。

デニスはそんなステラを見て、嬉しそうに、少し悲しそうに微笑んだ。

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