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番外編3
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あの怒涛のパーティーから数週間が過ぎた。ようやく日常に平穏が戻ってきたように感じる。
あれから王太子とはあまり会話をしていない。あちらからも避けられるし、気まずくてこちらから話しかけることもない。
王太子は隣国の王女との婚約が決まったので、いつかお祝いを言わなくてはと考えてはいるのだが。
「何ぼうっとしてるの?また僕以外の男のこと考えてたでしょ」
ランにムッとした表情で見つめられる。
「まさか!そんなわけないから、そろそろ下ろしてくれないか」
俺は今ランの膝に横抱きのようになって乗せられている。馬車の中ではいつもこうだ。恥ずかしいと言ったら「嫌…?」と潤んだ瞳で見つめられ、断れなかった。あの時はまさかずっとこうなるとは思ってもいなかったが。
ランは意外にも意志が強く、男らしいようだ。そんなところも今では好きになってしまっている。
「だーめ。じゃあ僕が何の話してたか言ってみて」
「明日、城下町に行く話だろ?
本当に楽しみだな。俺、数えるくらいしか行ったことないから。いつも学園と家の往復だったし」
「そうだよ。明日は初デートだね」
デートという言葉にどきりと胸が鳴る。前世では恋人なんていたことがなかった。周りの友達はみんないたのに、自分は奥手すぎるのかできなかった。デートに憧れていたのだ。
「俺、いちご飴食べたい!串焼きと、クレープと、あと、サーカスも見たいし…」
指を折りながらやりたいことを数えていると、ランがふふっと笑って優しくキスを落とした。
「全部行こう。もし明日全部回れなくても、何度でも行こう」
その言葉にランと結婚するのだということを思い出させられ、俺は顔が熱くなった。
ランと結婚するなんて少しも想像がつかなかった。ランは主人公で、ロージー殿下やネモと結婚するのだとばかり思っていたから。
ランの美しい金色の瞳を見つめる。それからサラサラの薄桃色の髪をさらりと撫でた。
「ふふふっ。くすぐったい。急にどうしたの?」
「…いや、こんな素敵な人と結婚できるなんて俺は幸せ者だなって思って」
ランの顔はみるみる赤くなり、恥ずかしそうに目を逸らした。
「急にそういうこと言うのやめて。ガベラってそういうところあるよね」
「嫌?」
「理性を抑えられなくなるから家に帰ってから聞かせて」
ランのギラついた目を見て、俺は気付かぬうちに挑発してしまったことを少し後悔し、しかしそれ以上に身体が疼いた。
「どう?お金持ちのお坊ちゃんに見える?」
ランにジャーンとポーズを決めて見せると、ランは目を輝かせた。
「すごく可愛い!今すぐ攫いたいくらいだよ!」
「え、ダメじゃん。人攫いに遭わないように変装するのに」
「大丈夫、僕が守るから」
意外なことに、ランは剣術の才能もあった。チューリッヒ、ロージー殿下に続いて3番目に剣術が上手い。でも、俺にはランが殿下に気を遣って手を抜いているようにしか見えない。
「ランが守ってくれるなら安心だな。
ランもよく似合ってるよ。…それにしても本当に背が伸びたな。今何センチ?」
「183になったかな」
「同じものを食べているはずなのに…」
俺が悔しそうな目を向けるとランは「そのままでも素敵だよ」と笑った。
「うわー!人だ!たくさんの人!」
「あははっ、確かに貴族街はこんなに人が密集してないもんね」
「どうしてみんなスムーズに歩けるんだ?」
「ほら僕についてきて」
ランが俺の腰を掴んでエスコートしてくれる。
ガヤガヤと賑わう街並みは、活気に溢れていてとても良い。
「あっ!俺の食べたかった串カツ!あそこにはいちご飴も売ってる!」
「じゃあ買ってこようか。ちょうどもう少しで劇が始まるみたいだし、食べながらみよう」
すこし大きめのテントの中にはすでに人が入っている。みんな、劇を楽しみに待っているのだ。
「さあさあ!みなさんご注目!今回の劇はある事件が元となっている最新作だよ!!」
テントの明かりが消え、ステージが明るくなる。
「今から始まるのは、愛と裏切りの物語。あるところにそれはそれは仲の良い夫婦がおりました。やがて2人は子宝に恵まれた。家の血を引く証である青色の髪に黄色の瞳。しかし、幸せな2人に嫉妬した女が赤ん坊を連れ去ってしまったのです!…」
初めはワクワクとした気持ちで見ていたが、だんだんと既視感のある内容になってきた。
「ねぇ、これって…」
「どうやら僕たちを題材にした話のようだね」
家柄や王家のことについては隠されているが、婚約を解消しヒーローと結ばれるところなんて丸っきり同じだった。
「こうやって物語になるなんて恥ずかしいな。それにしても結構細かいところまで一致してる…。どうやって知ったんだろう…」
「この劇が人気なおかげで、僕たちの結婚もスムーズに決まったみたいだよ。僕たちの婚約は、王族からは反対の声も多かったけど、流石に民意に押されたみたいだ」
ランはにっこり微笑んだ。
ランが時々恐ろしく見えるのは気のせいだろうか。
「…あんまり深く考えないようにする。
何だって良いよ、ランと結婚できるなら」
俺はランの手を握りしめた。
ランの顔がゆっくりと近づいてくる。
劇もエンディングを迎え、観客たちが拍手をして褒め称える。
俺とランはそっとキスをした。
あれから王太子とはあまり会話をしていない。あちらからも避けられるし、気まずくてこちらから話しかけることもない。
王太子は隣国の王女との婚約が決まったので、いつかお祝いを言わなくてはと考えてはいるのだが。
「何ぼうっとしてるの?また僕以外の男のこと考えてたでしょ」
ランにムッとした表情で見つめられる。
「まさか!そんなわけないから、そろそろ下ろしてくれないか」
俺は今ランの膝に横抱きのようになって乗せられている。馬車の中ではいつもこうだ。恥ずかしいと言ったら「嫌…?」と潤んだ瞳で見つめられ、断れなかった。あの時はまさかずっとこうなるとは思ってもいなかったが。
ランは意外にも意志が強く、男らしいようだ。そんなところも今では好きになってしまっている。
「だーめ。じゃあ僕が何の話してたか言ってみて」
「明日、城下町に行く話だろ?
本当に楽しみだな。俺、数えるくらいしか行ったことないから。いつも学園と家の往復だったし」
「そうだよ。明日は初デートだね」
デートという言葉にどきりと胸が鳴る。前世では恋人なんていたことがなかった。周りの友達はみんないたのに、自分は奥手すぎるのかできなかった。デートに憧れていたのだ。
「俺、いちご飴食べたい!串焼きと、クレープと、あと、サーカスも見たいし…」
指を折りながらやりたいことを数えていると、ランがふふっと笑って優しくキスを落とした。
「全部行こう。もし明日全部回れなくても、何度でも行こう」
その言葉にランと結婚するのだということを思い出させられ、俺は顔が熱くなった。
ランと結婚するなんて少しも想像がつかなかった。ランは主人公で、ロージー殿下やネモと結婚するのだとばかり思っていたから。
ランの美しい金色の瞳を見つめる。それからサラサラの薄桃色の髪をさらりと撫でた。
「ふふふっ。くすぐったい。急にどうしたの?」
「…いや、こんな素敵な人と結婚できるなんて俺は幸せ者だなって思って」
ランの顔はみるみる赤くなり、恥ずかしそうに目を逸らした。
「急にそういうこと言うのやめて。ガベラってそういうところあるよね」
「嫌?」
「理性を抑えられなくなるから家に帰ってから聞かせて」
ランのギラついた目を見て、俺は気付かぬうちに挑発してしまったことを少し後悔し、しかしそれ以上に身体が疼いた。
「どう?お金持ちのお坊ちゃんに見える?」
ランにジャーンとポーズを決めて見せると、ランは目を輝かせた。
「すごく可愛い!今すぐ攫いたいくらいだよ!」
「え、ダメじゃん。人攫いに遭わないように変装するのに」
「大丈夫、僕が守るから」
意外なことに、ランは剣術の才能もあった。チューリッヒ、ロージー殿下に続いて3番目に剣術が上手い。でも、俺にはランが殿下に気を遣って手を抜いているようにしか見えない。
「ランが守ってくれるなら安心だな。
ランもよく似合ってるよ。…それにしても本当に背が伸びたな。今何センチ?」
「183になったかな」
「同じものを食べているはずなのに…」
俺が悔しそうな目を向けるとランは「そのままでも素敵だよ」と笑った。
「うわー!人だ!たくさんの人!」
「あははっ、確かに貴族街はこんなに人が密集してないもんね」
「どうしてみんなスムーズに歩けるんだ?」
「ほら僕についてきて」
ランが俺の腰を掴んでエスコートしてくれる。
ガヤガヤと賑わう街並みは、活気に溢れていてとても良い。
「あっ!俺の食べたかった串カツ!あそこにはいちご飴も売ってる!」
「じゃあ買ってこようか。ちょうどもう少しで劇が始まるみたいだし、食べながらみよう」
すこし大きめのテントの中にはすでに人が入っている。みんな、劇を楽しみに待っているのだ。
「さあさあ!みなさんご注目!今回の劇はある事件が元となっている最新作だよ!!」
テントの明かりが消え、ステージが明るくなる。
「今から始まるのは、愛と裏切りの物語。あるところにそれはそれは仲の良い夫婦がおりました。やがて2人は子宝に恵まれた。家の血を引く証である青色の髪に黄色の瞳。しかし、幸せな2人に嫉妬した女が赤ん坊を連れ去ってしまったのです!…」
初めはワクワクとした気持ちで見ていたが、だんだんと既視感のある内容になってきた。
「ねぇ、これって…」
「どうやら僕たちを題材にした話のようだね」
家柄や王家のことについては隠されているが、婚約を解消しヒーローと結ばれるところなんて丸っきり同じだった。
「こうやって物語になるなんて恥ずかしいな。それにしても結構細かいところまで一致してる…。どうやって知ったんだろう…」
「この劇が人気なおかげで、僕たちの結婚もスムーズに決まったみたいだよ。僕たちの婚約は、王族からは反対の声も多かったけど、流石に民意に押されたみたいだ」
ランはにっこり微笑んだ。
ランが時々恐ろしく見えるのは気のせいだろうか。
「…あんまり深く考えないようにする。
何だって良いよ、ランと結婚できるなら」
俺はランの手を握りしめた。
ランの顔がゆっくりと近づいてくる。
劇もエンディングを迎え、観客たちが拍手をして褒め称える。
俺とランはそっとキスをした。
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ご感想ありがとうございます。応援のおかげで完結することができました。ご縁がありましたらまた私の作品を読んでいただけると嬉しいです☺️
まさかの展開で面白かったです!
ご感想ありがとうございます!続きを書くか今検討中なので、もし続いたら読んでいただけると嬉しいです☺️これからも応援よろしくお願いします🙇♀️
番外編までありがとうございます。大変楽しく拝見しました。8歳になりました!だけでガベラがすごく良い子なのが伝わってきます☺️ガベラたん強火モンペのお兄様も素敵なキャラですね。またいつか続きが読めれば嬉しいです。
ご感想ありがとうございます!もう少しラン視点で番外編を書こうと思います。読んでくださってありがとうございました🙇♀️