狂わせたのは君なのに

白兪

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「待って!ガベラ!」

呼び止める声が聞こえた。

ロージーかもしれない。

そう期待して振り向くと、そこにはランがいた。

期待するだけ無駄だったな。あのクソ王太子。

心の中で悪態をついていなくてはやってられない。


「ガベラ、用事って何?僕も手伝うよ」

「えっ、でも、ランはロージー様たちと談話中だったんじゃ…」

「友達が大変そうだったらそっちを優先するのは当たり前でしょ?」

ランは微笑んだ。

この時、ランには勝てないな、と思った。
ランの幸せのために悪役になるのも悪くないかもしれない。
国外追放されたって前世の記憶があるから庶民の生活にもすぐ馴染めるはずだ。


こうして俺は大好きなランのためにシナリオ通りに話を進めることに決めた。


マナー指導の時はいつもより声を張り上げた。いつもより厳し目なことも言った。

大好きなランを怪我させたり、物を盗んだりなんてことは流石にできなかったが、それでも生徒たちの間でガベラがランをいじめていると噂が広まっていった。

ロージーは俺に向ける視線が鋭くなったし、会話もあまりしなくなった。

家族に迷惑をかけるのは本当に申し訳なかったが、運命に抗うのも疲れるのだろう、成り行きのまま身を任せることの楽さを知ってしまった。


図書館の2階、利用者の少ない穴場のフリースペースでランと勉強していると、ロージーたちがやってきた。

「ラン!こんなところにいたのか!…あとガベラも」

「お久しぶりです、ロージー様、チューリッヒ様、ネモ様」

俺は座ったまま会釈をする。

「お前、またランを虐めてたんじゃねぇだろうな!」

疑いの目を向けられ、少し体がびくついた。

ランは俺を庇うように前に立った。

「違います!ガベラは僕に指導してくれているだけです。未熟な僕が悪いんです…」

「ガベラ、こうやってランの自信を喪失させているのですか?」

ネモが冷たい声色で聞く。

俺は大きくため息をついた。

「私はランさんに頼まれてしているだけです。なぜ私が責められなくてはならないのです?
ランさんはこのままでは家督を継ぐどころか、お嫁に行くことすらできないでしょうね!」

「ガベラ!言い過ぎだ!最近の君はおかしい。昔はもっと穏やかだったはずだ」

「変わったのはロージー殿下の方です。昔は婚約者を蔑ろにするような方ではなかった。」

「それはお前がランを虐めるからだろ?
お前って本当に性根が腐ってんな!」

「あなた達と話していても疲れるだけです。私はもう行きますね」

「あ、まって、ガベラ!」

引き止めるランの声が聞こえたが、無視した。

悪役を引き受けようと決めたのは自分なのに、3人に責められて傷ついてる弱い自分が嫌だった。
ランのことをこの感情のまま傷つけてしまいそうだ。

「また明日ね、ラン。予習復習は忘れないようにするんだよ」


後ろでランを慰める3人の声が聞こえてきた。
俺はギリギリと歯を食いしばった。
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