狂わせたのは君なのに

白兪

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4人で食事をとることになったのはいいものの、ランのマナーが想像以上に出来てなくて困った。
ナイフやフォークの扱い方は間違えてるし、カチャカチャと食器の音を立ててしまう回数も多い。

「ラン、家でマナーについてはあまり教わってない?」

「あっ。ごめん。不快な思いをさせたよね」

「いや、不快な思いは全くしてないんだけど、少し気になって。これから会食とかも増えるだろうし」


これももしかしてイジメとみなされるのだろうか。俺は冷や汗をかく。

「お父さんもお母さんもゆっくり学んでいけばいいって言ってくれてるんだ。だからあんまり教わってない。
お父さんもお母さんも優しいんだけど、僕に甘いところがあるっていうか…。
今まで離れ離れだったから余計過保護になるのも仕方ないんだけどね」

「よかったらこれから俺が教えようか?」

思わずそんなことを言ってしまった。

「いいの?ビシバシ教育してほしい!」

「言っておくけど、俺の指導は厳しいからな~?」

「頑張るよ!」

ランはフンスと可愛らしく鼻息を荒くした。

こうして関わらないと決めていた主人公と仲良くなることになってしまった。



その日から俺のスパルタ教育が始まった。

「違う!使うナイフは外側から!」
「ナイフの握り方はこう!」
「ナプキンはこう畳んで!」

食事くらいゆっくり楽しみたいのではと言ったこともあるが、ランがそうしてほしいというので俺は全面的に協力している。

仲間の1人はダンスが得意なので、ダンスは基本的にソイツが主力となってやっている。


「何をしてるの?」

不意に声をかけられ振り向くと、そこにはロージーが立っていた。

「ラン様のマナーを正しているところです」

「ランも食事くらいゆっくり取りたいんじゃない?」

「私もそう申し上げましたが、ラン様たってのご希望なので」

「そうなの?」

ロージーがランに尋ねる。

「はい!僕はマナーに至らないところが多いので、早くみんなに馴染みたくて!」

「そうなんだ…。ランは努力家だね。私も手伝おうか?」


俺の第六感が叫んでいる。このままではランとロージーはいい感じになると。

阻止しないと、断罪される。

「ロージー様!ロージー様は生徒会長の仕事で忙しいではありませんか。ロージー様に手間をかけさせるわけにはいきません。私がしっかり指導しますので」

「私もランの同級生の1人として手伝いたいだけなんだけど…」


回答をミスったようだ。あからさまにロージーのテンションが下がった。
頭の中でサイレンが鳴る。

好感度を下げないためには何といえばいいんだ?

「では、ロージー様にはまた今度ご指導お願いしにいきますね!
ロージー様がこんなにお優しい人だなんて知らなかった!とても嬉しいです!」

「そんな、優しいだなんて…。当たり前のことを言ったまでだよ。
じゃあ、またね、ラン。ガベラも。」


ガベラもって。ガベラもって何だよ!付属品みたいに言いやがって。

心の中で悪態をつく。

しかし、こんなことを考えている場合ではない。
長年良好に築いてきた関係性に信頼を置きすぎたのだ。
このままではランにロージーを奪われてしまう。

何とかしないと、と思いつつも、恋をしてしまった時、その気持ちは誰にも止められないのだということを頭のどこかで理解していた。





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