狂わせたのは君なのに

白兪

文字の大きさ
上 下
2 / 12

2

しおりを挟む
「おぼっちゃま、分かっておられるとは思いますが、今日は王太子殿下とのお約束がございます」

「えっ!」

「やはり、忘れておられたのですね…」

「いや、寝ぼけてただけだよ。そんな大事なこと忘れるわけないじゃないか!」

「それならばよろしいのですが…」


マーサは変わらず冷たい視線を送ってくる。
はっきり言って忘れていた。しかし、今日の俺はいつもの俺と違うのだ。前世を思い出し、王太子との関係性が重要になると分かった今、全力で媚びなくてはならない。
今までの面会は、可もなく不可もなく、普通だったと思う。特段嫌われるようなことをした記憶はない。
今からでも十分修正可能だということだ。

「よしっ!」

俺は強く拳を握りしめる。
マーサが頑張れ、と小さくガッツポーズをした。


王宮の美しい庭園で王太子の到着を待つ。
薔薇の美しさに見惚れていると足音が聞こえた。

「待たせてすまない」

慌てて席を立ち、声のした方を見るとそこには美少年が立っていた。

美しい金髪に淡い青色の瞳。優しそうな微笑みを浮かべる姿は天蓋の天使を思い出させた。

「いえっ!全然待っておりません!」

「ふふふっ。なんだか今日はいつもより緊張してる?」

「いえっ!いや、してるかも…?」

「いつも通りリラックスしてよ。今日はガベラの好きなマカロンを沢山用意したんだ」

「ありがとうございます!」


想像していたより良好そうな関係だ。これなら断罪回避も簡単なんじゃないか?


「殿下は…」

「いつもロージーって呼んでるじゃないか」

「えっと、ロージー様は好みのタイプとかありますか?」

「好みのタイプ?」

「はい。ロージー様の好みに近づきたくて」


どうだ!健気だろう!こんなこと言われて喜ばない男はいない!

「私の好みは…。考えたこともなかったな。うーん、笑顔が素敵な人、かな?」

あやふやだな。もっとロングがいいとかショートがいいとか、ぽっちゃりがいいとかスリムがいいとか、具体的なこと聞きたかったんだけど。


「だから、ガベラにもずっと笑っててほしいな」

にこりと微笑まれて俺は顔を真っ赤にした。


「かわいいね」

王太子が熱のこもった視線を送る。


これは思っていた以上に順調だ。このまま媚を売って可愛らしく振る舞っていれば、断罪は回避できるのではないか!?



何事もなく日々が過ぎ去り、13歳になった俺は学園に入学した。学園でも穏やかな日々を過ごし、とうとう主人公が入学する15の歳を迎えた。


しおりを挟む

処理中です...