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吸血鬼に恋をした(tag/ 人間×吸血鬼 監禁 ヤンデレ・狂愛 吸血表現 )
①【R_18】
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ある日、吸血鬼街に迷い込んでしまった少年のラベルは青髪の吸血鬼に連れ去られ、彼の家にやってきた。
■
「……吸血鬼さん、僕を誘拐して何をするつもり?」
「血を少々貰いたい」
「吸血鬼さん、僕を誘拐して何をするつもり?」
「…血を少々貰いたい」
青髪の吸血鬼は先ほどと同じ言葉を返した。まるでテンプレートのような会話だ。
吸血鬼は顔色の悪い、病的に白い肌をした瘦せ型の男だ。顔の作りは整っていて美形と言っても差し支えはないが、赤い目に生気が感じられずどこか薄気味悪さがあった。
吸血鬼は鋭い犬歯を覗かせながら微笑みながら少年に再び言葉を投げかける。
「…すまない、血を……くれ……」
吸血鬼は少年の目の前で倒れると、魂が抜けたように気絶した。
■
「起きて」
「……ああ、すまない」
青髪の吸血鬼が少年に起こされる。
辺りを見渡すとそこは自分の家だった。先ほどまで寝ていたベッドから起き上がると、少年の前に跪いた。
「失礼したね……私の名前はジルだ」
少年が身構える。当然だ、いきなり血を貰いに来たなんて言いだすのだ。警戒しない方がおかしいだろう。だが、目の前の青髪の吸血鬼はどこか抜けているところがある。そこが何か、面白いというか、惹かれる何かがあった。
「血はどのくらいほしい?」
「……二、いや三滴程でいい」
「わかった」
そう言うと少年は手の甲を、地面に置かれていた鋭いガラスの破片で切った。
ポタリと血が垂れる。少年はそれほど出血しているわけではないが、その量でジルは十分だったようだ。
「いただきます」
ジルは少年の手の甲からすべり落ちる三滴を舐めとっていく。
ジルは夢中になって血をすすり、舐めとっていく。
「おいしい?」
「ああ……」
少年が心配になりジルに問いかける。目の前の青髪の吸血鬼はまるで極上のワインでも飲んでいるかのように恍惚とした表情を浮かべていた。少年はジルのその表情に思わず見惚れてしまった。
しばらく舐めて満足したのか、ジルは少年の手の甲から舌を離すと立ち上がり少年に跪いた。
「大変失礼した」
「……美味しかった?」
「美味だ」
「そう、良かった」
「これほど美味しい血は初めてだ……君は何か特別な能力を持っているのか?」
少年の手の甲から未だ垂れていっている血を名残惜しそうに見ながらジルは質問を投げかける。血を舐めたおかげで顔色は良くなっているが、目が赤いというところを見ると吸血鬼というのは噓ではないのだろう。
「……僕は、普通の、ただの人だよ」
■
少年がここで一日過ごしてわかったことは、ジルがいつも寂しそうな顔をして窓を見ているということ。誰かを待っているような、そんな目だ。ジルはいつも寂しそうな顔をしていた。いつも何かを待って、いつも退屈そうだった。
「君は家に帰るといい、帝国通りはこのまま真っ直ぐ行った突き当りに……」
「帰りたくない、ジルのそばにいたい」
「……そうか」
ジルは少年を突き放す訳でも無く、かといって受け入れる訳でも無く、ただ少年の好きにさせることにした。
「ジルはどうして僕を呼んだの?」
「お腹が空いたからね」
「じゃあ、どうしていつも寂しそうな顔をしているの?」
少年はジルに質問を投げかける。ジルが少年を誘拐したのは血を吸うためで、血を飲んだ後は用無しとばかりにすぐに殺されるかと思っていたのだ。想像の吸血鬼とは違って、少年を出られないように鍵をかける訳でも無く、玄関には鍵が存在しなかった。少年はジルに誘拐されてから一日以上この青髪の吸血鬼と過ごしているが、殺される様子もない。
「君は……寂しいかい?」
「僕?」
突然の質問に少年は驚く。そういえば、僕はどうしてここにいるのだろう?思い返せばなぜあそこから逃げてきたのかわからない。自分はいったいどうしてあそこにいたのだろう?
「……わからない」
「そうか」
ジルは少年に手を差し伸べる。少年がその手を取ると優しく抱きしめた。少年の体が暖かいなにかに包まれる感覚がある。きっとこれが、人を抱きしめるということなのだろう。
■
それからというものの、少年はジルと暮らすことになった。少年はジルに血を与え、共に過ごすようになった。少年にとって、それはまるで恋人のような関係だった。だが二人は恋人ではないし、ましてや親子や兄弟でもない。ただ、互いに互いを想いあう関係だった。
ある日のことだ、少年がジルに再び問いかけをする。
「ジルはどうして僕を誘拐したの?」
「……寂しいから」
ジルはまた、寂しそうに笑うと窓辺の椅子に座り、いつも通り寂しげな瞳で外を眺めていた。
◆〈〉
時間が経って少年が青年になった。そんなある日、突然ジルは姿を消した。
「ジル?どこにいるの?」
家に残った数滴の血でキレイに描かれた文字はこう書かれてあった。
『もう君とはいられない、すまない』
それからの青年は、まるで魂を抜かれたように生きていた。そしてある時期から吸血鬼狩りが帝国通りで行われるようになったのだ。
◆
青年は吸血鬼狩りになった。理由は単純明白、愛しいジルを探すためだ。青年のジルを探すための方法、それは吸血鬼を狩ることだ。
青年はジルと過ごした家で生活している。他の吸血鬼を狩り、一目散にジルを保護してあの愛しい世界に一生浸るために。ジルとの思い出を穢すものはなんであろうと許さない、それが例え人間でも。
そんなこんなで、五年の月日が経ち、青年はようやくジルを見つけることが出来た。
「ああ、ジル…俺の愛しい吸血鬼……」
「……」
ジルは何も言わずにただこちらを見ていた。ああ、なんて美しいんだ。今すぐ抱きしめてしまいたい、お腹がすいているだろうから血をあげたい。だが今は我慢だ、ジルとの再開を邪魔する者がいるから処理しなければいけないのだ。
「……隊長命令だ、この吸血鬼は俺が回収する。お前たちは持ち場に戻っていろ」
「……了解した」
青年は他の吸血鬼狩りに命令し、帰らせる。そして、ジルと二人きりになった瞬間青年の目から涙が溢れる。ようやく見つけたのだ。もう二度とこの手を離しはしない、もう寂しい思いをさせたくない。
「遅くなってごめんね……さあ帰ろう?」
「……ッ」
ジルは震えていた。寒いのだろうか、と青年はジルを抱きしめようとすると、ジルはその場から飛び退いた。
「私は……お前のことが…心底恐ろしい」
「……なに?」
青年の背筋が凍る。怖い?なぜ?震えているジルに手を伸ばそうとすると、ジルが口を開いた。
「お前とはいられない」
「なんで?俺が嫌いになったの?」
ジルは首を横に振る。そして苦虫を嚙み潰したような顔をしながら小さく呟いた。
「…、私を恋愛対象として見ているだろう?」
「当たり前じゃないか」
ジルは青年を一瞥すると、青年から逃げ出した。青年は追いかける、彼のためにせっかく地下牢まで買ったのだ、絶対に逃がしはしない。
「待って!」
「来るな!」
ジルは青年の目の前で自害してみせようとした。それを見た青年はジルの口を塞ごうとするが、ジルは青年に触られるのを拒絶する。
「私に触るな!!」
ジルは逃げようとしたが、あまり血液を摂取していない吸血鬼のため、力は全く出ていなかった。
簡単に対下級吸血鬼用の手錠で手と足を拘束することが出来た。
「離せ!離すんだ!!」
ジルは狂ったように叫び、青年を拒絶する。青年はジルがなぜそこまでして拒絶するのかわからなかったが、今捕まえることが出来たのはいいことだ。
少し惜しい気もするが、手足と口を拘束し抵抗できなくしたジルを抱き上げる。そして愛でるような声でジルに囁いた。
「大丈夫……俺が養ってあげるよ」
その日から青年は例の地下牢にジルを入れてやった。それは窓がなく季節も、時間も、全く分からない空間だった。ジルは最初こそ暴れたが、数日も経つと静かになり、ただ青年の呼びかけにも反応しなくなった。
「大好き、愛してる」
青年はジルにそう話しかける。しかし反応がない、それでも青年は話しかけ続けた。
「愛しているよ」
ジルの背中をさすってやると、激しく抵抗されるが構わずに優しくさすってやる。
「愛している」
ジルは青年を拒絶する。それでも青年はジルに愛情をぶつけ続けた。
◆
ジルが青年に誘拐されてから一日が経った、未だジルは抵抗していた。
「血いるよね?」
あの、初めてあったときのように数滴血を落としてやると、ジルは本能的にそれを感知したのか一瞬だけ無意識的に舐めようとしていたが、最終的には拒否した。
「いらない」
「……」
拒絶された青年はジルを見つめる。まるで駄々をこねている子供のように、青年の目にはジルしか映っていない。それほどまでに青年の心はジルに奪われていた。そして、その想いは歪んでいった。
「ねえ、俺のこと好き?」
「……嫌いだ」
「……なんで?あんなに愛し合ったのに?」
「…愛し合う?君は私にとって食料だっただけだ」
「ひどいなあ」
ジルは青年を睨む。まるで自分を食料扱いしたことを恨んでいるようだ。青年は気にせずジルに話しかける。
「ねえ、君の恋人になった男は俺だよ?」
「……違う、君は私の食料だ」
「違うよ……ジルは俺の恋人で俺はジルの恋人だ」
「……うるさい!黙れ!」
その時初めて拒絶以外の言葉を聞いた気がすると青年は少し喜んだが、それもつかの間すぐにジルは叫ぶように言うとまたそっぽを向いてしまった。それでも青年は「本当にいらないの?」と聞きながら血を差し出す。
「……いらない」
「そう、俺はジルがもっと欲しいな」
ジルは青年を拒絶する。青年はそれでも優しくさすってやると、少しだけ落ち着きを取り戻す。青年が口移しで血を飲ませようとするが、やはり拒否されてしまう。しかし青年は諦めなかった、何度も何度もジルに愛を囁きながら血を飲ませようと努力した。
「ん゛っ……んっ、ん」
無理やり口移しで飲ませてやると、ジルは抵抗したが次第に大人しくなり、最終的には青年の血を飲み始めた。
「美味しい?」
「……まずい」
「そう」
それからというものの青年は毎日ジルに血を与えた。そしてジルは数滴ずつ青年の血を飲むようになった。しかしそれは青年が望んだ結果だった。
すべてジルのために食べるものには気を使っていた。青年が食べるものはジルが食べるものと同義であり、昔好きだったお菓子は食べないように、血液を増やしたりサラサラにする食材を食べている。
「すべてはジルの為だ」
「……なぜそこまでするんだ?」
「ジルを愛しているから」
「……」
青年はそんなジルに微笑むと、また血を飲ませる。もう何週間も経つがジルは一向に青年のものになる気配が無かった。だが青年はそれでも良かった。愛しい吸血鬼が自分のそばにいるのだから。
◆
どうしても自分のものにならない、ならば快感で従わせればいいだけのこと、と青年は考えた。
──ジルを磔にし、抵抗できないようにしてしまえば、きっと。
「あ゛、ぁ、……ぁ、っう、いたいっ」
「痛い?大丈夫、すぐに気持ちよくなるよ」
青年はジルの手足に鎖を巻き付けてジルを拘束した。ジルの四肢の自由はきかなくなったが、青年には関係ないことだ。
「……ふふっ、好きだよ」
青年はジルを押し倒すと、激しく求めあった。先ほどまで嫌々言っていたジルだったが、次第に快楽に身を委ねて言った。そのころには抵抗もなくなり青年を受け入れた。青年が腰を打ち付ける度に艶めかしい嬌声が上がるようになった。
「ぁ、あっ……っんん、ぁあ゛っ」
青年はジルの中に大量に吐き出す。ジルは四肢を使えない為身動きが取れず、そのまま受け入れた。青年の精が体内に入ったことを確認すると青年はまた腰を動かし始めた。
「ッあ!?やめっ、やっ……」
「ジルも気持ちよくなって?」
青年はそう言うと、激しく腰を動かすと奥にぐりぐりと押し付けながら小刻みに揺らす。それがたまらないのか、ジルは悲鳴を上げるしかなかった。
「いやっ……ああっ、やだっ、うごかないでぇっ」
「ジルはこうされるのが好きなの?」
青年はジルの奥をこじ開けるように突く。ジルは泣きながら快楽に悶えた。青年はそんなジルを見て更に興奮し激しく責め立てる。ジルは涙を流しながら喘いだ。青年に奥を突かれる度に限界が近づくのを感じる。しかしそこで青年が止めたのだ。もう少しで絶頂というところで止められてしまい、ジルは物欲しそうに青年を見つめると、青年が口を開いた。
「ねえ、ジルは俺のこと愛してる?」
「……」
ジルは顔を背ける。青年はそんなジルの頬を掴むと無理やりこちらを向かせた。そしてもう一度同じ質問をする。
「俺のこと愛してるよね?」
「……ははっ」
青年に見つめられたジルは、否定はしなかった。青年は嬉しそうに笑うとジルにキスをする。そしてまた腰を動かし始めたのだ。
◆
それからも青年は毎日血を与え続けた。最初は抵抗していたジルも今ではすっかり抵抗しなくなっていた。青年はジルに優しく囁き、愛でながら血を飲ませた。
「ほら、俺の血美味しい?」
「……まずい」
「そう」
青年は血を与えると微笑む。ジルは青年の血を飲み続けた、いや飲まされ続けたという方が正しいだろう。今ではジルにとって青年の血は媚薬のようなものになっていた。飲まなければ体は疼き、しかし自分でしても満足ができず更に辛いものになってしまうのだ。だから飲まないわけにはいかないのだ、自分は吸血鬼なのだから人間の血を吸わなければならないと頭では分かっているが、もうこれ以上飲むのはまずいと本能が言っている。
しかしジルにはどうすることも出来なかった、一度飲んでしまえば止められないのだ。「愛している」とその血を体内に受け入れる度に体が満たされていくのが分かった。
◆
青年はジルに愛情を注ぎ続けた。今まで孤独だった心に光が差し込んでくるようだった。毎日抱き合い、何度も愛し合った。たとえ拒絶されても青年にとってはジルが自分のそばに居てくれればそれで良かったのだ、それなのに。
「そろそろ、またお腹がすく頃だよね」
「……いらない」
ジルは青年から目を逸らしながらそう答える。しかし青年はそれを許さなかった。無理矢理ジルを自分の方に向かせると、優しく頬を掴んでまた目を合わせる。そして言ったのだ。
「ねえ、俺の血を吸わないと辛いでしょう?」と。
その言葉を聞いた瞬間、ジルの体に雷が走ったような感覚が襲った。もう限界だった、これ以上は耐えられないと思ったその時青年がジルに囁く。
「俺の血を吸ってよ」
「っ、いやだ」
ジルは首を横に振る。しかし青年は諦めなかった。ジルの頬を掴むと無理やり自分の首筋に押し当てたのだ。そしてそのままジルに言う。
「さあ、吸って?」
それに逆らうことが出来なかったのか、それとももう我慢の限界だったのかはわからないが、ジルは青年の首筋に噛み付いたのだ。その瞬間全身に快楽が駆け巡った。今まで感じたことのないほどの幸福感が押し寄せてくるようだった。青年はそんなジルを強く抱きしめてやる。そして優しく囁いた。
「愛してる」
■
「……吸血鬼さん、僕を誘拐して何をするつもり?」
「血を少々貰いたい」
「吸血鬼さん、僕を誘拐して何をするつもり?」
「…血を少々貰いたい」
青髪の吸血鬼は先ほどと同じ言葉を返した。まるでテンプレートのような会話だ。
吸血鬼は顔色の悪い、病的に白い肌をした瘦せ型の男だ。顔の作りは整っていて美形と言っても差し支えはないが、赤い目に生気が感じられずどこか薄気味悪さがあった。
吸血鬼は鋭い犬歯を覗かせながら微笑みながら少年に再び言葉を投げかける。
「…すまない、血を……くれ……」
吸血鬼は少年の目の前で倒れると、魂が抜けたように気絶した。
■
「起きて」
「……ああ、すまない」
青髪の吸血鬼が少年に起こされる。
辺りを見渡すとそこは自分の家だった。先ほどまで寝ていたベッドから起き上がると、少年の前に跪いた。
「失礼したね……私の名前はジルだ」
少年が身構える。当然だ、いきなり血を貰いに来たなんて言いだすのだ。警戒しない方がおかしいだろう。だが、目の前の青髪の吸血鬼はどこか抜けているところがある。そこが何か、面白いというか、惹かれる何かがあった。
「血はどのくらいほしい?」
「……二、いや三滴程でいい」
「わかった」
そう言うと少年は手の甲を、地面に置かれていた鋭いガラスの破片で切った。
ポタリと血が垂れる。少年はそれほど出血しているわけではないが、その量でジルは十分だったようだ。
「いただきます」
ジルは少年の手の甲からすべり落ちる三滴を舐めとっていく。
ジルは夢中になって血をすすり、舐めとっていく。
「おいしい?」
「ああ……」
少年が心配になりジルに問いかける。目の前の青髪の吸血鬼はまるで極上のワインでも飲んでいるかのように恍惚とした表情を浮かべていた。少年はジルのその表情に思わず見惚れてしまった。
しばらく舐めて満足したのか、ジルは少年の手の甲から舌を離すと立ち上がり少年に跪いた。
「大変失礼した」
「……美味しかった?」
「美味だ」
「そう、良かった」
「これほど美味しい血は初めてだ……君は何か特別な能力を持っているのか?」
少年の手の甲から未だ垂れていっている血を名残惜しそうに見ながらジルは質問を投げかける。血を舐めたおかげで顔色は良くなっているが、目が赤いというところを見ると吸血鬼というのは噓ではないのだろう。
「……僕は、普通の、ただの人だよ」
■
少年がここで一日過ごしてわかったことは、ジルがいつも寂しそうな顔をして窓を見ているということ。誰かを待っているような、そんな目だ。ジルはいつも寂しそうな顔をしていた。いつも何かを待って、いつも退屈そうだった。
「君は家に帰るといい、帝国通りはこのまま真っ直ぐ行った突き当りに……」
「帰りたくない、ジルのそばにいたい」
「……そうか」
ジルは少年を突き放す訳でも無く、かといって受け入れる訳でも無く、ただ少年の好きにさせることにした。
「ジルはどうして僕を呼んだの?」
「お腹が空いたからね」
「じゃあ、どうしていつも寂しそうな顔をしているの?」
少年はジルに質問を投げかける。ジルが少年を誘拐したのは血を吸うためで、血を飲んだ後は用無しとばかりにすぐに殺されるかと思っていたのだ。想像の吸血鬼とは違って、少年を出られないように鍵をかける訳でも無く、玄関には鍵が存在しなかった。少年はジルに誘拐されてから一日以上この青髪の吸血鬼と過ごしているが、殺される様子もない。
「君は……寂しいかい?」
「僕?」
突然の質問に少年は驚く。そういえば、僕はどうしてここにいるのだろう?思い返せばなぜあそこから逃げてきたのかわからない。自分はいったいどうしてあそこにいたのだろう?
「……わからない」
「そうか」
ジルは少年に手を差し伸べる。少年がその手を取ると優しく抱きしめた。少年の体が暖かいなにかに包まれる感覚がある。きっとこれが、人を抱きしめるということなのだろう。
■
それからというものの、少年はジルと暮らすことになった。少年はジルに血を与え、共に過ごすようになった。少年にとって、それはまるで恋人のような関係だった。だが二人は恋人ではないし、ましてや親子や兄弟でもない。ただ、互いに互いを想いあう関係だった。
ある日のことだ、少年がジルに再び問いかけをする。
「ジルはどうして僕を誘拐したの?」
「……寂しいから」
ジルはまた、寂しそうに笑うと窓辺の椅子に座り、いつも通り寂しげな瞳で外を眺めていた。
◆〈〉
時間が経って少年が青年になった。そんなある日、突然ジルは姿を消した。
「ジル?どこにいるの?」
家に残った数滴の血でキレイに描かれた文字はこう書かれてあった。
『もう君とはいられない、すまない』
それからの青年は、まるで魂を抜かれたように生きていた。そしてある時期から吸血鬼狩りが帝国通りで行われるようになったのだ。
◆
青年は吸血鬼狩りになった。理由は単純明白、愛しいジルを探すためだ。青年のジルを探すための方法、それは吸血鬼を狩ることだ。
青年はジルと過ごした家で生活している。他の吸血鬼を狩り、一目散にジルを保護してあの愛しい世界に一生浸るために。ジルとの思い出を穢すものはなんであろうと許さない、それが例え人間でも。
そんなこんなで、五年の月日が経ち、青年はようやくジルを見つけることが出来た。
「ああ、ジル…俺の愛しい吸血鬼……」
「……」
ジルは何も言わずにただこちらを見ていた。ああ、なんて美しいんだ。今すぐ抱きしめてしまいたい、お腹がすいているだろうから血をあげたい。だが今は我慢だ、ジルとの再開を邪魔する者がいるから処理しなければいけないのだ。
「……隊長命令だ、この吸血鬼は俺が回収する。お前たちは持ち場に戻っていろ」
「……了解した」
青年は他の吸血鬼狩りに命令し、帰らせる。そして、ジルと二人きりになった瞬間青年の目から涙が溢れる。ようやく見つけたのだ。もう二度とこの手を離しはしない、もう寂しい思いをさせたくない。
「遅くなってごめんね……さあ帰ろう?」
「……ッ」
ジルは震えていた。寒いのだろうか、と青年はジルを抱きしめようとすると、ジルはその場から飛び退いた。
「私は……お前のことが…心底恐ろしい」
「……なに?」
青年の背筋が凍る。怖い?なぜ?震えているジルに手を伸ばそうとすると、ジルが口を開いた。
「お前とはいられない」
「なんで?俺が嫌いになったの?」
ジルは首を横に振る。そして苦虫を嚙み潰したような顔をしながら小さく呟いた。
「…、私を恋愛対象として見ているだろう?」
「当たり前じゃないか」
ジルは青年を一瞥すると、青年から逃げ出した。青年は追いかける、彼のためにせっかく地下牢まで買ったのだ、絶対に逃がしはしない。
「待って!」
「来るな!」
ジルは青年の目の前で自害してみせようとした。それを見た青年はジルの口を塞ごうとするが、ジルは青年に触られるのを拒絶する。
「私に触るな!!」
ジルは逃げようとしたが、あまり血液を摂取していない吸血鬼のため、力は全く出ていなかった。
簡単に対下級吸血鬼用の手錠で手と足を拘束することが出来た。
「離せ!離すんだ!!」
ジルは狂ったように叫び、青年を拒絶する。青年はジルがなぜそこまでして拒絶するのかわからなかったが、今捕まえることが出来たのはいいことだ。
少し惜しい気もするが、手足と口を拘束し抵抗できなくしたジルを抱き上げる。そして愛でるような声でジルに囁いた。
「大丈夫……俺が養ってあげるよ」
その日から青年は例の地下牢にジルを入れてやった。それは窓がなく季節も、時間も、全く分からない空間だった。ジルは最初こそ暴れたが、数日も経つと静かになり、ただ青年の呼びかけにも反応しなくなった。
「大好き、愛してる」
青年はジルにそう話しかける。しかし反応がない、それでも青年は話しかけ続けた。
「愛しているよ」
ジルの背中をさすってやると、激しく抵抗されるが構わずに優しくさすってやる。
「愛している」
ジルは青年を拒絶する。それでも青年はジルに愛情をぶつけ続けた。
◆
ジルが青年に誘拐されてから一日が経った、未だジルは抵抗していた。
「血いるよね?」
あの、初めてあったときのように数滴血を落としてやると、ジルは本能的にそれを感知したのか一瞬だけ無意識的に舐めようとしていたが、最終的には拒否した。
「いらない」
「……」
拒絶された青年はジルを見つめる。まるで駄々をこねている子供のように、青年の目にはジルしか映っていない。それほどまでに青年の心はジルに奪われていた。そして、その想いは歪んでいった。
「ねえ、俺のこと好き?」
「……嫌いだ」
「……なんで?あんなに愛し合ったのに?」
「…愛し合う?君は私にとって食料だっただけだ」
「ひどいなあ」
ジルは青年を睨む。まるで自分を食料扱いしたことを恨んでいるようだ。青年は気にせずジルに話しかける。
「ねえ、君の恋人になった男は俺だよ?」
「……違う、君は私の食料だ」
「違うよ……ジルは俺の恋人で俺はジルの恋人だ」
「……うるさい!黙れ!」
その時初めて拒絶以外の言葉を聞いた気がすると青年は少し喜んだが、それもつかの間すぐにジルは叫ぶように言うとまたそっぽを向いてしまった。それでも青年は「本当にいらないの?」と聞きながら血を差し出す。
「……いらない」
「そう、俺はジルがもっと欲しいな」
ジルは青年を拒絶する。青年はそれでも優しくさすってやると、少しだけ落ち着きを取り戻す。青年が口移しで血を飲ませようとするが、やはり拒否されてしまう。しかし青年は諦めなかった、何度も何度もジルに愛を囁きながら血を飲ませようと努力した。
「ん゛っ……んっ、ん」
無理やり口移しで飲ませてやると、ジルは抵抗したが次第に大人しくなり、最終的には青年の血を飲み始めた。
「美味しい?」
「……まずい」
「そう」
それからというものの青年は毎日ジルに血を与えた。そしてジルは数滴ずつ青年の血を飲むようになった。しかしそれは青年が望んだ結果だった。
すべてジルのために食べるものには気を使っていた。青年が食べるものはジルが食べるものと同義であり、昔好きだったお菓子は食べないように、血液を増やしたりサラサラにする食材を食べている。
「すべてはジルの為だ」
「……なぜそこまでするんだ?」
「ジルを愛しているから」
「……」
青年はそんなジルに微笑むと、また血を飲ませる。もう何週間も経つがジルは一向に青年のものになる気配が無かった。だが青年はそれでも良かった。愛しい吸血鬼が自分のそばにいるのだから。
◆
どうしても自分のものにならない、ならば快感で従わせればいいだけのこと、と青年は考えた。
──ジルを磔にし、抵抗できないようにしてしまえば、きっと。
「あ゛、ぁ、……ぁ、っう、いたいっ」
「痛い?大丈夫、すぐに気持ちよくなるよ」
青年はジルの手足に鎖を巻き付けてジルを拘束した。ジルの四肢の自由はきかなくなったが、青年には関係ないことだ。
「……ふふっ、好きだよ」
青年はジルを押し倒すと、激しく求めあった。先ほどまで嫌々言っていたジルだったが、次第に快楽に身を委ねて言った。そのころには抵抗もなくなり青年を受け入れた。青年が腰を打ち付ける度に艶めかしい嬌声が上がるようになった。
「ぁ、あっ……っんん、ぁあ゛っ」
青年はジルの中に大量に吐き出す。ジルは四肢を使えない為身動きが取れず、そのまま受け入れた。青年の精が体内に入ったことを確認すると青年はまた腰を動かし始めた。
「ッあ!?やめっ、やっ……」
「ジルも気持ちよくなって?」
青年はそう言うと、激しく腰を動かすと奥にぐりぐりと押し付けながら小刻みに揺らす。それがたまらないのか、ジルは悲鳴を上げるしかなかった。
「いやっ……ああっ、やだっ、うごかないでぇっ」
「ジルはこうされるのが好きなの?」
青年はジルの奥をこじ開けるように突く。ジルは泣きながら快楽に悶えた。青年はそんなジルを見て更に興奮し激しく責め立てる。ジルは涙を流しながら喘いだ。青年に奥を突かれる度に限界が近づくのを感じる。しかしそこで青年が止めたのだ。もう少しで絶頂というところで止められてしまい、ジルは物欲しそうに青年を見つめると、青年が口を開いた。
「ねえ、ジルは俺のこと愛してる?」
「……」
ジルは顔を背ける。青年はそんなジルの頬を掴むと無理やりこちらを向かせた。そしてもう一度同じ質問をする。
「俺のこと愛してるよね?」
「……ははっ」
青年に見つめられたジルは、否定はしなかった。青年は嬉しそうに笑うとジルにキスをする。そしてまた腰を動かし始めたのだ。
◆
それからも青年は毎日血を与え続けた。最初は抵抗していたジルも今ではすっかり抵抗しなくなっていた。青年はジルに優しく囁き、愛でながら血を飲ませた。
「ほら、俺の血美味しい?」
「……まずい」
「そう」
青年は血を与えると微笑む。ジルは青年の血を飲み続けた、いや飲まされ続けたという方が正しいだろう。今ではジルにとって青年の血は媚薬のようなものになっていた。飲まなければ体は疼き、しかし自分でしても満足ができず更に辛いものになってしまうのだ。だから飲まないわけにはいかないのだ、自分は吸血鬼なのだから人間の血を吸わなければならないと頭では分かっているが、もうこれ以上飲むのはまずいと本能が言っている。
しかしジルにはどうすることも出来なかった、一度飲んでしまえば止められないのだ。「愛している」とその血を体内に受け入れる度に体が満たされていくのが分かった。
◆
青年はジルに愛情を注ぎ続けた。今まで孤独だった心に光が差し込んでくるようだった。毎日抱き合い、何度も愛し合った。たとえ拒絶されても青年にとってはジルが自分のそばに居てくれればそれで良かったのだ、それなのに。
「そろそろ、またお腹がすく頃だよね」
「……いらない」
ジルは青年から目を逸らしながらそう答える。しかし青年はそれを許さなかった。無理矢理ジルを自分の方に向かせると、優しく頬を掴んでまた目を合わせる。そして言ったのだ。
「ねえ、俺の血を吸わないと辛いでしょう?」と。
その言葉を聞いた瞬間、ジルの体に雷が走ったような感覚が襲った。もう限界だった、これ以上は耐えられないと思ったその時青年がジルに囁く。
「俺の血を吸ってよ」
「っ、いやだ」
ジルは首を横に振る。しかし青年は諦めなかった。ジルの頬を掴むと無理やり自分の首筋に押し当てたのだ。そしてそのままジルに言う。
「さあ、吸って?」
それに逆らうことが出来なかったのか、それとももう我慢の限界だったのかはわからないが、ジルは青年の首筋に噛み付いたのだ。その瞬間全身に快楽が駆け巡った。今まで感じたことのないほどの幸福感が押し寄せてくるようだった。青年はそんなジルを強く抱きしめてやる。そして優しく囁いた。
「愛してる」
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