57 / 67
アリスと魔導本の真骨頂①
しおりを挟む「私達の真骨頂、見せてあげるわ」
百を超える王国兵士達を前にしても、アリスは何の逡巡もなくそう啖呵を切った。ブレイクタイムに珈琲を決め込むお嬢様並みの優雅さ的な感じまである。
「ハッ粋がりやがって。テメェみたいな無能に何が出来ると思ってやがんだ!」
対してヤンキー氏はまるで物怖じけしないアリスに大層不機嫌そうに舌打ちをした。
うわぁ。
ドン引きするぐらいのイキリムーブだ。大丈夫かな。今やアリスは爽やかな草原を地獄のような焦土に豹変させるヤベー魔術使いなんだけど。灰すら残らないんじゃなかろうか。
しかし、改めてアリスを見ると魔術使い(全)が本当に無能ジョブなのか疑問なところではある。そこんとこどうなの聖剣ちゃん?
『まぁこの世間の共通認識としてアリスちゃんのジョブは完璧なハズレ枠ですからねぇ。アリスちゃんが例外なだけでそのほとんどが大した魔術を扱えませんしね』
しかも聖剣ちゃん曰く、ジョブ持ちの中では一番多く存在しているらしい。マジかよ。
「ケッこの状況で一ミリもビビらねえぇとかマジで白けるわ。この俺様が直々に手を下すまでもねぇ。お前等死なねぇ程度にボコしておけ」
「よ、よろしいので?」
「おう、良い感じにやっとけよ。あ、顔だけは傷つけんなよ」
困惑する王国兵を尻目に、ヤンキー氏は興味がなくなったのかやる気なさそうに欠伸し始めた。発言も最低なんじゃが。
そもそもお前が相手するとか言い出したんだろうが。その場の感情だけで生きている感じがまじヤンキーって感じ。
「そういうわけで悪く思わないで頂きたいアリス殿。あまり怪我をさせたくありませんし、大人しく投降してくれればありがたいのですが」
王国兵士隊長が一歩前に出て申し訳なさそうにアリスに提案してきた。宮仕えって本当に大変そうですね。
「お断りよ。誰にものを言っているのかしら」
アリスはそれをこれまた何の逡巡もなくバッサリと切り捨てた。仲間の俺が言うのもアレだけど本当に恐ろしい女だ。
しかし当然ながら、ヤンキー氏はもちろん王国兵士達の表情に不安の色はまるでない。王国兵に至ってはただをこねる子供を見るかのように呆れたように肩を竦めているぐらいだった。
彼らの反応を見るに、やはり魔術使い(全)はこの世界において無能扱いなのはまぎれもない真実のようだ。
それに常識で考えればこの戦力差を個人でひっくり返せる人間などほとんど存在しない。故に彼らは俺達に負けるなど微塵も思っていないようだった。
そんな中、アリスは何故か振り返り俺に視線を投げかけた。なんぞ?
「明星君、分かっていると思うけど手出し無用よ」
「あぁ分かってるよ。むしろ思いっきりぶちかましちまえ」
なので俺は迷うことなくアリスに向け拳を突き出すことにした。彼女はそれを見て微笑を浮かべると再び王国兵士達に視線を戻した。なんて好戦的なお嬢様だ。まぁ嫌いじゃないけど。
「待たせたわね。さて始めましょうか」
アリスと王国兵士達の緊張感のある空気が張り詰め始めた。どちらが先に動くか、そんな感じだ。
「有象無象がぞろぞろと鬱陶しいわね」
『目にもの見せてやろうぜアリス嬢。俺様の真骨頂は魔力増幅ではなく――座標固定』
先に動いたのはアリスだ。
彼女はカッと目を見開き、魔導本を勢い良く開いた。
ブオン
その行動に呼応するかのように。突如、魔法陣が王国兵士一人一人の腹部辺りに浮かび上がった。
「はぁ!?」
「な、なんだこれは!?」
「くっ、くそう!? とれねぇ!?」
当然、慌てふためく王国兵達。しかし今更遅いし、後の祭りというやつだ。
「行くわよ」『行くぜ』
一拍。
「範囲拡散火炎魔術!!」
その言葉を起動音《キー》に空中に次々と出現する魔法陣。その数たるやざっと見た感じでも軽く百は超えることだろう。
かくして彼女の真骨頂を見せるという宣言通り。
その魔法陣一つ一つから炎弾が生成され、その全てが王国兵士に向けて容赦なく降り注ぐのだった。
51
お気に入りに追加
370
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる